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序章

 初めまして。内容はボカロのハウトゥー世界征服に似ているという声を友達から聞きましたが私はボカロなんて千本桜ぐらいしか知らないので、全く関係のない、オリジナル作品です。

 面白い面白くない、は読んで下さっている読者様が決める事なので何も申し上げる事はできませんが、せめて、読んでみてください。単純に見えて、結構複雑で深い話になっています。

 この作品を、どうぞよろしくお願い致します。

 黒宮優衣と名前を書かれた鞄の中には、暴言が書いてある紙がざっと50枚ほど、ぎっしりと詰まっていた。

 彼女は、自分の黒い髪を触りながら、毎度の事のように鞄をひっくり返しゴミ箱の中に紙を捨てた。

 真っ黒な瞳に、もはや希望の光なんて浮かばない。浮かぶのは、涙のみだ。

 誰も来ていない早朝の教室の隅。優衣はうずくまってすすり泣いていた。いや、訂正。優衣の他に、もう一人男子生徒が入ってきた。

 「いっつも泣きべそばっかかいて。どちら様?」

 優衣に話かけたのは、優衣と同じ制服を着ている為、同じ学校の生徒だ。ネクタイはしていない。していないとなると、三年生の可能性が高い。何故なら、校則を守らない生徒が多くなってくるからだ。

 「…だ、誰…ですかっ。」

 一人の教室だと思っていたのだろう、驚きで声が裏返っていた。泣いているところを見られた羞恥心だろうか、頬が少し染まっている。

 男子生徒は、優衣の質問には答えず、爽やかな笑顔でまだうずくまっている優衣に言った。

 「僕が最初に聞いたんだよ?どちら様、って。最初に名乗らないなら、いつも泣いている泣き虫さんって呼んであげようか?」

 この言葉に、さすがの優衣もカチンときたのか、立ち上がりながら自分の名を名乗った。

 「2-4の黒宮優衣です。…それと、泣き虫さんではありません。私は普段泣きませんから。というか、これからも泣きません!」

 少し不貞腐れながら、頬に残っている涙の滴を制服のセーターの袖でふき取ると、貴方も名乗りなさい、といいたげに、目の前の男子生徒を睨んだ。

 眉を大げさに下げながら、仕方なく、という雰囲気を漂わせながら名乗ろうとする相手をさらに睨みつけると、男子生徒は溜息を一つ、零した。

 「そんな怖い目で睨まないでくれよ。僕の名前は友哉。3-1の神原友哉だよ。」

 嘘だと思うなら生徒手帳を見せようか?という彼の提案を、結構です、ときっぱりと断ると、優衣は友哉と名乗った少年に向き直った。

 「それで、三年生の貴方が何故二年生の教室に来て、わざわざ私なんかに話しかけたんですか?」

 眉間に皺を寄せながら話す優衣を、友哉はまじまじと見つめた。

 誰だって見つめられていい気はしない。さらに眉間の皺が深まる彼女を見て、友哉は一回、にっこりと効果音がつきそうなほどあからさまに微笑み、口を開いた。

 「何でだと思う?」

 「聞いているのは私です。」

 「心当たりはない?というか、わからない?僕は一人で泣いている君にわざわざ声をかけた。そう、わざわざね。」

 「…わかりませんね。」

 これは嘘だった。本当は、今の回りくどい彼の言い方で分かった。友哉が何故優衣に声をかけたのか。

 (…慰めなんて、いらないのに……)

 内心うんざりしながらも、優衣は友哉から視線をはずさない。隙を突いてまたむかつく小言を言われたらたまったもんじゃない。

 「言わなくちゃいけないほど君が馬鹿というデータはなかったな。」

 今度こそ殴りかかろうかと思った。自分の怒りを抑え、口角を意識して吊り上げ、言った。

 「馬鹿ですいませんね。私はこれから下に行ってプリントを取って来なくてはならないので失礼させていただきます。」

 「おぉ、ちょっと待った~。」

 友哉の横を通り過ぎようとした優衣の腕を、彼は自分の方向に引っ張った。その反動で優衣は机にもたれ掛かる羽目になった。

 彼の表情を伺って仕方なく机に体重をかけ、よりかかった。話を聞いてやろう、という態度だ。

 それを感じ取ったのか勝手に判断したのかは不明だが、友哉は言葉を放った。決して長い言葉ではない、いかにも簡潔だ。

 楽しそうに笑って、大袈裟に両腕を広げて、彼はこう言った。

 「学校に復讐をしよう!」

                          〇

 いつまでたっても、成長できない。

 憐は自室でいつものように無になっていた。これが、彼にとっての日常。いつしかそうなってしまっていた。

 ベットに寄りかかり、楽な姿勢で座っている。高さ30cmほどの小さな木の机の上にのっているノートパソコンは起動したまま動かされずに放置されている。検索もしていない。

 視線の先には、制服。

 彼が通っている、…いや、正しくは通っていた、学校の制服だ。

 突然、何かに突き動かされた人形のように立ち上がると、憐は制服に手を掛けた。

 その時だった。憐の自室に妹の燐が入ってきたのは。

 「憐!!」

 大きな声には似合わない色の白い肌、健康的といえば嘘になる。まるで幽霊のように青白く、細い。

 だが、目はくっきりと大きく、髪は後ろに縛っていてはっきりとした顔立ちだ。

 「…なんだよ。一週間に三回しか家に居れないんだから、静かにしてたらどうだ。」

 思いっきり不機嫌な雰囲気を醸し出している憐には構わず、燐は憐の手から制服を取り上げた。

 「また…。今度は制服を捨てようとしたの?この前は生徒手帳。その前は校章!」

 「うるさいな。お前に関係ないだろ。毎回拾いやがって…。」

 怒りをさえているのだろうか、声と手が震えている。

 「こんなものを捨てて!どうしたいの!?」

 「俺はもう忘れたいんだ。この記憶を切り捨てたい。」

 「そんな事をしても、何も変わらないよ?憐は成長しない。それはただ憐の自己満足。結局は逃げてる」

 「うるさいって言ってるだろ!!!もう出て行けよ!!!」

 燐の言葉をほぼ遮るようにして叫んだ。衝動的だ。

 憐は、まるで自分を挑発するように諭してくる燐が大嫌いだった。

 やっと怯んだのか、部屋から出て行った燐を確認すると、皮肉にも机の引き出しから顔を覗かせている生徒手帳を見て、溜息をついた。

 彼は、全く成長できないでいる。


 これは、とある少年少女の小さな世界征服。

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