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23話

「無事で良かった。大丈夫だったか?」

「はい……でもノエル様、言ってることとやってること違いません?」

「そうか? いつも通りだが」

「まぁそう言われたらそうなんですけどね」


 ほら、クララさん若干引いてるからね。

 たった一日だけ帰ってこなかっただけなのに、ウィルソン家に足を踏み入れるととてつもなく懐かしい感じがした。


「無事で何よりです」

「すいません、ご迷惑をおかけしまして」

「いいえ、こうして帰って来たのですからいいのです」


 メリルさんに温かく迎えられ、ノエル……いやノエル様に謝ろうと部屋に向かい、ドアを開けた瞬間だった。


「つめた!」


 何となくこうなるんじゃないかなーとは予想していたけれど、まさか本当にそうなるとは。本当に、一日ぶりの対面がてら水鉄砲で攻撃されるとは。


「だ、大丈夫? チカコさん」

「平気です。もう慣れました」

「え? 慣れるものなの?」


 エプロンで顔を拭いながら、私はゆっくり頷いた。


「クララ、悪かったな。うちのメイドが世話になった」

「いいんですよ。それに、謝るのは私の方です」

「どういうことだ?」

 

 それからクララさんは、自分が魔法使いであること、私を召還したのは自分だと説明した。私も必死で自分が体験したことを話す。

 ノエル……いやノエル様は最初こそ信じられないという顔をしたものの、顎に手を当てて考え込んだかと思ったら大きく頷いた。


「そういうことだったのか。確かにノキア学園は進学校という以外、内部事情については謎に包まれていたからな。なるほど、そういう事情があったのか」

「本当にごめんなさい。無意識とはいえ、チカコさんにもノエルさんにはご迷惑を」

「いや、俺には謝らなくていい。チカコはウィルソン家でよく働いてくれたからな」

「そう、でしたか。そして肝心の元の世界に戻る方法ですが」


 真剣に聞き入るノエル……いやノエル様の表情の変化を逃さまいと、必死に顔を見つめる。戻る方法があると知って、ノエル……いやノエル様はどう思うのか、私が感じていることとどれほその差があるのか、それが気になって仕方ない。

 クララさんには、自分の気持ちを隠したというのに。


「新月か。ちょうどあと一週間か」

「そうですね。その時になったら再びこちらに参ります」

「分かった」


 それだけ交わすと、クララさんは会釈をして寮へと戻っていった。

 なんとしても今日中にやらなくちゃいけない課題があるらしい。

 ああ、それなのに貴重な時間を! もう頭が上がらない。


「何をさっきから百面相してるんだ?」

「してないですよ」

「いーや、してたね」

「してません」

「こんな顔になってたぞ」


 そう言ってノエル……いやノエル様は口をへの字に曲げ、眉毛を八の字にする。日本で言う困り顔……といったところだろうか?

 美少年なのに何のためらいもなくそんな顔を再現してしまうことに、私はおかしさを感じて思わず吹き出す。


「あ、笑ったな! チカコの顔真似だぞ」

「す、すいま……ははっ!」

「また笑った! ほらほら、ちゃんと見ろ」

「や、やめてください……あははは!」


 受けたのが嬉しかったのか、ノエル……いやノエル様は色んな表情の私の真似をして見せる。

 そんなに表情豊かなのかと自分でも疑問に思うほどたくさんレパートリーがあった。


「これはチカコがメリルに叱られた時の顔」

「もう、そんな顔してませんって! あはは!」


 お腹が痛くなるほど笑ってしまった。自分の物まねされて、ここまで笑えるって正直どうなんだという感じはしたけれど、笑いを止めることは出来なかった。

 ひとしきり笑い、目じりの涙を拭いてノエル……いやノエル様の顔を見ると、もう物まねは止めていた。


「やっぱり、チカコは笑っている方がいい」

「え?」

「笑っている方が似合うと思うぞ」

「そう、ですか」

「ああ」

「……」

「でもまぁ、良かったな。無事に戻る方法が見つかって」

「はい」

「あと一週間だが、よろしく頼むぞ」

「……はい」

「帰ったらちゃんと、親孝行してやれよ」

「はい」


 親孝行してやれよ――その言葉の重みが痛いほど伝わってくる。

 母親を失ったノエル……いやノエル様にしたら両親が健在な私に、その両親を大切にしてあげてほしいと思うのは当然なんだろう。

 もちろん、私だってそう思っている。

 でも、やっぱり。


「ノエル様」

「何だ?」

「私、たくさん親孝行します。ここで色んなことを学べましたから」

「ああ」


 わかっていた。いつかサヨナラ来ることなんて。

 だからこそ。

 ノエル……いやノエル様と離れるのが寂しいなんて、思っちゃいけないんだ。


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