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22話~ノエル視点~

 チカコが帰ってきていないと聞いて、ウィルソン家は大騒ぎだった。


「手分けして探すんだ!」

「承知しました!」

「どこに行きやがった……!!」


 俺は軽く舌打ちをして屋敷を飛び出した。

 ここから商店街までは一本道なので、迷うことはないはず。

 だったらまさか……誘拐か?

 心がこんなにもかき乱されたのは、母親が目の前で射殺されたとき以来だった。


「すいません。黒い髪の毛の、小柄なメイドを見ませんでしたか?」

「おお、ノエル君。あの子ならお昼に肉屋さんの前で見たが……」

「ありがとうございます!」


 礼を言い、すぐに肉屋に向かう。


「すいません、ここに黒髪の……」

「ああ、チカコちゃんなら来たわよ」

「そのあとどっちへ行きました?」

「え? 普通にウィルソン家のお屋敷の方へ歩いていったと思うけれど……もしかして帰ってきてないの?」

「はい。何か事件にでも……」

「まぁ大変だわ! ちょいとあんた、チカコちゃん行方不明だってよ!」

「何だって!? ようし、俺も手伝うぞ」

「ありがとうございます!」


 次第に夜も更けていく。探せど探せどチカコは見つからない。

 茂みの中、森の中、公園……探せるところは全て探したはずなのに。


「くそっ! どこにいるんだ!」

「ノエル様、これを」

「何だ」

「先ほど犬が咥えていたのを発見しました」

「これ……チカコがいつもつけているリボンじゃねえか」


 見間違うわけはない。それは確かに、チカコが来たばかりの頃俺が髪を結んであげたときに使っていたリボンだった。

 就寝時以外、チカコはずっと肌身離さずつけていたはず。

 余計に不安が募る。


「畜生! どうして見つからないんだ!」

「ノエル様落ち着いてください!」

「落ち着いていられるか! 誘拐されたかもしれないんだぞ!?」


 ついついカッとなって黒服にもきつく当たってしまう。

 しかし、すぐに我に戻り、すまないと呟いた。

 今頃チカコはどこで、何をしているのだろうか。誘拐されたとしたら怖くて一人で泣いているかもしれない。

 こんな、見知らぬ土地で。誰も知り合いなんていない土地で。

 あの時だってそうだった。

 初めて中庭でダンスをしているのを見たときも、チカコは一人でこっそり泣いていた。

 きっと、誰にもそんな姿を見られたくなかったのだろう。

 

「あいつは……いつも明るいけれど、本当は泣き虫なんだ。俺はもう、二回も泣き顔を見ている」


 初めて見たのは、チカコがメイドとして働きだした初日だった。

 用事があって部屋を訪れたが、いなかったので探していると、中庭で一人佇んでいるチカコを発見した。

 すぐに声を掛けようとしたが、頬に涙が伝っているのに気付いて取りやめたのだ。

 二回目は自分でも気づかないうちにチカコは涙を流していた。泣いてもいいんだと言ったにも関わらず、誤魔化そうとしていた。

 明るくて、強がりで、弱さを見せようとしない。だからこそ余計に、守らなくてはいけないと思う。

 それに、あの時チカコに言った言葉は、本当は冗談なんかではない。

 

「ノエル様! チカコさんが見つかりました!」

「ほんとか?」

「はい、クララさんと一緒にいるようです」

「クララと?」

「倒れていたところをクララさんが助けてくれた様です」

「そうか」

「今日は一日クララさんの部屋で休み、明日の朝一緒に戻って来るとのことです」

「分かった」


 倒れていた? 無事なのか? 一体どこで倒れたというんだろう。

 道端で倒れていたとしたら、クララ以外にもだれか気づくはずでは?

 そんな疑問が残りつつ、チカコが無事だと分かって俺は全身の力が抜けていった。


「ノエル様!?」

「……いや、少し疲れただけだ」

「あら、ノエル君。チカコちゃん見つかったの?」

「はい、小学生時代の同級生が知らせてくれました」

「良かったねぇ」

「……はい」


 上手く誤魔化せただろうか。安心からくる口元の緩みを。

 もう二度と、チカコにはどこにも行ってほしくないという思いを。

 そんなものはわがままであり、無茶な願いだという事は分かっているのに。


「よーし、帰るぞ」

「はっ」


 帰る途中、俺は明日どうやってチカコを出迎えてやろうか、そればかり考えていた。


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