Scene1
すいませんようやくスタートです
Prelude
「―――!――!?」
「―――!――!」
さわがしさにめをあけた。
きょうはいつもとちがってずいぶんとさわがしい。
「―――?!」
かれらがなにかいっている
でもきこえない。
なにも、きこえな―――
―20XX 7.21 17:00―
「これはどういうことですかな!?」
「どう、とは?」
「とぼけないでいただきたい!!なんですかこの契約は!?おっしゃっていたのとはずいぶんとちがうではないですか!!そもそも―――」
ああ、うるさい。
無視をしていたいのに雇い主の李氏がせっついてくるので、仕方なく俺―御堂零示―は見たくもないものを無理やり視界に収める。ぶくぶくと太った体に、垂れ下がった皮。来ている趣味の悪い派手なスーツも相まって豚のようだというイメージを抱かせる。
ああ、気持ちが悪い。正直一秒だって見ていたくもないがこれも仕事と言い聞かせて、
「あんたは事前に契約に同意していただろう。それをここで覆そうってのか?そんなんでは今後苦労すると思うが。」自分の「仕事」を開始した。
「なに?護衛風情が偉そうな口を――っ!!」
机を軽く蹴とばした程度で固まった眼前のものを見てさらに続ける。
「同意した時点で契約はなされている。こんなところでは契約は絶対だ。契約すら守らなければどんなことになるかわかったもんじゃないからな。つまりここで契約を破れば――」
わかるだろう?と小莫迦にしたような目で見つめる。
「……..こっんの、人間風情めがぁ つけあがりよって お前たち!!こいつらを殺せ!」
いわれて応じた男の護衛達の体表が蠕動し、その腕が、体が姿を変えていく。
「蛇に猿、狗ってとこか?」
面倒そうなのは蛇ぐらいか。
意識を切り替え、ギアを上げる。
飛び掛かってこようとした機先を制して猿のもとに踏み込み狗のほうへと殴り飛ばす。
その勢いのまま狗に飛び掛かる。ようやく驚愕を浮かべながらも反応しようとし、
「遅ぇ」
その反応がまともな行動になる前に首をへし折った。
「貴様っ」
ようやく反応した蛇と、体勢を立て直した猿が時間差をつけて襲い掛かってくるが、
「!?」
一歩で蛇の横を抜けて猿に肉薄し眼窩に指を突っ込む。
「っぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?!!」
そのまま眼球を抉り出しのたうちまわる猿を捨て置いて、蛇の顔にめがけて高速で投擲。間一髪で避けたが避けた方向に向かって高速で踏み込み、抜き手でのどを貫く。
「ご、がっ」
うめきながら痙攣する蛇を適当に放り投げ、未だのた打ち回る猿の頭を踏み砕き。
「ヒイィィッ、ヒイィィィィィィ?!」
耳障りな悲鳴を上げる男のほうに向きなおる。
「さて――」
「ッッ!?」
おびえきり声も出ずに口をパクパクさせている男に告げる。
「契約の話をしようか」
* * * * * * * * * *
『いやぁ助かりましたよ。あなたのおかげで随分と好条件で契約できました』
「それが俺の仕事だ。報酬はいつも通りで頼む」
『ええ、わかっていますよ。近いうちにまたお願いするかもしれません』
「そうか。しばらく寝床を変える予定はないから連絡はこれまで通りでいい」
『わかりました。それでは』
電話を切って一息つく。これで今日の仕事は終わり。報酬も入るし次の仕事まではのんびりできるな。さて、適当に町で飯でも――Prrrrrrrrrrr
しみついた習慣で即座に人目を避けて路地に入り番号を確認する。
「非通知……?」
はて、非通知は着信しないようにしていたはずだったんだが。ふつふつとわきあがる嫌な予感を抑えながら電話に出る。
『よう。久しぶりだな。元気にし――』
「死ね」
即座に電話を切る。仕事上がりの開放的な気分が台無しだ。どこかで軽く憂さを晴らしてから帰ろうと思ったらまた電話が鳴った。
『おま、いきなり切るかふつう?!』
「黙れ五月蠅い死ね切るぞ」
『ちょっ、待て待て待て!話があるんだ話が!』
「……聞くだけ聞いてやる。下らなかったら即切るぞ。」
『わかったよ。一つは飲み会の誘いだ。あいつらがお前とまた会いたがっててな。』
「ハァ、しつこいなお前らも。まあいい。いつだ恭介?もし都合がつけば顔を出すぐらいはしよう。で?ほかにもあるのか?」
『ほんとか!?わかった。日程が決まったらまた連絡する。それで二つ目は上がお前に仕事を頼みたいらしいんだが――』
「ありえんな。おことわりだ。」
『やっぱりか。んじゃまあ最後の要件だ。戻ってくる気はないか?』
「本気で死にたいのか?」
『っっ……なあ、なんでいなくなったんだお前』
「しつこいぞ」
『お前に限ってついていけなかったなんてことはないだろ。なんでだ?幹部候補とまで言われてたってのになんで』
「黙れ……今日はやけにしつこいな。何か起きたのか」
『……すまん。ここでは言えん。』
「フン、だろうな。だが俺を呼び戻そうとするとは、よっぽど面倒なことになってるみたいだな」
『そこまでわかってるなら――』
「ふざけるな。わざわざそんなものに巻き込まれに行く趣味はない。これで用は終わりか?なら切るぞ」
『あっ、おい――』
何か言おうとしていたが聞かずに電話を切る。
「ったく。ひどい気分だ」
こんな日はとっとと眠るに限る。ねぐらには何か食い物があっただろうか。