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第九話 ゴブリンとスキル

今回は大人しいです。

「おっ、薬草みっけ」


ジャックは森の中を歩きながら、目に付いた草を採取していた。


一人で森に取り残された時はどうしようかと思った。

だが、学校で音々から薬草採取のクエストを薦められたことを思いだし、薬草採取の良い機会だと割り切る事にしたのだ。

音々から聞いた話では、依頼を受ける前に薬草を持っていれば、依頼を受けてすぐにクエストを終わらせることができるらしい。


薬草の採取のコツは、音々から聞いていた。

メニューノートを開き、環境設定から表示設定を選択。いくつかの項目の中からMob表示強調のチェックボックスにチェックを入れる。


すると、ジャックの視界の一部が変化する。薬草のような採取できるアイテムがはっきりと分かるようになったのだ。

そうしたアイテムの色が鮮やかになり、何故かそこに注意を引かれるようになる。


そうして目に付いた薬草を採取しながら、同時に周囲を警戒する。

音々に聞いた話では、この状態のまま戦闘になると、そこら辺に転がっているアイテムに注意を引かれてしまい、戦闘に集中できなくなるらしい。

だから、モンスターを先に発見し、戦闘になる前に表示を切り替える必要があるのだ。


周囲の薬草を一通り採取した後、再びメニューノートを開いて地図を確認する。


メニューノートの地図には自分が歩いた範囲しか表示されない。

だから、今の場所から町への最短ルートは空白になっていて、道が分からない。

そこで、ジャックは薬草を採取しつつ、来た道を戻ることにした。




「でた!?」


ジャックが歩き始めてしばらくしてからのことだった。視界の隅に緑色の何かが映る。


ゴブリンだ。


これまでは遭遇してもレイモンがあっという間に倒してしまったが、今は一人だ。

ジャックは上擦りそうな呼吸を押さえ、表示を切り替えて短剣を構える。


あの女装ゴブリンと闘う時は短剣ではなく、ハンマーを使っていた。相手が長剣を持っていたため、相手より間合いの短い短剣では不利だったからだ。

だが、このフィールドの通常MOBのゴブリンは武器を持っていない。

この状況なら短剣の方が有利だった。


息を殺して、音を立てないように忍び寄る。


できることなら不意打ちしたいと考えたからだ、。不意打ちした場合のダメージに補正が掛かるかは事前情報がなかったが、戦闘職ではないので、先手をとって闘いを有利に進めたい。


だが・・・


ごぶ?


「駄目か」


ゴブリンはジャックがある程度近寄った所であっさりと振り返り、迎撃しようと身構える。


どうやら、ある程度近づくと反応してしまうようだ。

おそらく、不意打ちするには何かのスキルが必要なのだろう。


ジャックは右手に短剣を構え、ゴブリンの様子を観察する。

そして、ゴブリンが飛びかかってこようとした瞬間を狙い、自分の方から仕掛ける。


「・・・!!」


今回は敵の注意を引きつけるのが目的ではないため、余計な掛け声は出さずに、大きく息を吐いて切りかかる。

右手に持った短剣で切りつけ、即座に後ろに下がる。


一瞬遅れて振るわれたゴブリンの拳が虚しく空振りした。

そして、空振りした瞬間を狙ってまた踏み込み切りつける。


そうした攻防を何回か繰り返した。


女装ゴブリンとの闘いで鍛冶屋のレベルが一つ上がっていたが、この森の適正レベルは5から8である。ジャックのレベルではまだまともに闘うのは不利だ。


だから、ヒット&ウェイで少しずつゴブリンのHPを削っていく。

そのおかげで、ジャックはノーダメージですんでいた。


このゲームでは敵モンスターのHPゲージが見えないので、どの程度のダメージを与えたかは外見や動きから判断する必要がある。

敵モンスターはダメージを受けた場所に傷が残り、大きなダメージ程濃い色になる。

ただ、傷とモンスターのグラフィックは別に用意され、それを重ねているだけなので、たまに傷のグラフィックが体からはみ出て浮いていることもあるらしい。


ゴブリンに与えた傷は踏み込みが浅いせいで軽い傷ばかりだが、塵も積もれば山となる、おそらくは半分以上HPを減らせているはずだ。


「いくか・・・」


いつまでもノーダメージであしらうことはできないだろう。そろそろ勝負に出るべきかもしれない。

そう判断したジャックはそれまで右手で構えていた短剣を両手で握り、腕を引いて腰の辺りで構える。

マンガ等でヤクザがよくやる、玉取ったるで!!、というお決まりのポーズだ。


ぐるぉぉぉ!!


間合いに踏み込んできたジャックに向かって、ゴブリンが雄叫びをあげながら拳を振るう。


これまでは、浅く踏み込んでいたので後ろに下がって避けてから、空振りした隙を狙って攻撃していた。


しかし、今回は後ろに下がらず、体勢を低くしてゴブリンの腕の下を潜るようにして間合いを詰めながら避ける。

ボクシングでいうところのダッキングだ。


そして、踏み込んだ勢いを殺さず、体当たりするようにして短剣を突き刺す。


ぎるぐぁぁぁぁ!


ゴブリンは苦悶の叫びをあげながら腕を振り回し、ジャックを突き飛ばす。

だが、ジャックはすぐに体勢を立て直し、短剣を逆手に持ち変えゴブリンめがけて何度も振り降ろす。


そして、ついにゴブリンは力尽き、粒子となって消えていった。


「ゴブリン一体ならなんとか勝てる・・・か」


ジャックは無事に勝利したことに安堵した。

メニューノートで確認したが、HPは一割も減っていない。


しかし、ジャックの顔には勝利した喜びが僅かに浮かんでいたものの、微妙な顔でため息をついた。


ゴブリンはグレイウルフに比べれば遙かに弱い。

今回は回復アイテムを用意していなかったこともあって慎重に闘ったため、ほとんどダメージを受けなかったが、普通に闘っていたらもっとダメージを受けていただろう。


そこから予想すると・・・今のレベル、装備ではグレイウルフには勝てない。


「長居は無用だな」


メニューノートを開いて採取したアイテムを確認する。


薬草    × 6

活力草   × 1

ハーブ   × 1 

木の枝   × 3

木の蔓   × 1

動物の骨  × 1


薬草採取のクエストで必要になるのは薬草が五つの筈なので、もう必要な量は揃っている。

グレイウルフに遭遇するのを避けるため、もう採取はせずに早く町に戻るべきだろう。

そうジャックは判断した。


森に入ってからグレイウルフには一度も遭遇していないが、ジャックはグレイウルフがどの辺りに生息しているのかは知らない。

今まで遭遇しなかったのは運が良かっただけかもしれない。


ジャックはメニューノートの地図を確認し、帰路を急いだ。




「あれ? スキルが増えてる」


最初の遭遇の後、ゴブリンに二度遭遇した。

二匹目のゴブリンとの戦闘で攻撃を避け損なったせいでHPが半分近く減ってしまったが、少し慣れたおかげで三匹目のゴブリンはかなり余裕をもって倒せた。


そして、三匹目のゴブリンを倒すと同時に、システム音が鳴ったのでメニューノートを確認したところ、盗賊のレベルが上がると同時に、スキルを一つ覚えていた。


『スキル名:短剣 Lv1

  クラス:盗賊 分類:パッシブ 効果:短剣装備時限定、攻撃力増加+1%、武器重量軽減-2%』


「レベルのあるスキルもあるのか。でも、効果が微妙だなぁ」


レベルが上がるごとに効果が累積していくようだが、Lv1では大した効果は望めないようだ。

問題は、盗賊のレベルが上がるのに合わせてレベルが上がるのか、それとも短剣を使い込むことでレベルが上がるのか、どちらなのか分からないことだ。


盗賊のレベルと同時に上がったことから前者にも思えるが、スキル獲得とスキルのレベルは別という可能性もある。


「後でネットを確認しておくか」


戦闘職なら同じようなスキルはもう既に出ているだろう。確実な情報はないだろうが、確認する価値はある。


そんなことを考えていたとき、ふと周囲が暗くなってきていることに気が付いた。


このゲームにも昼と夜があり、ゲーム内時間で6時間ごとに変化する。現実の時間でいうと、17時から20時までが昼になっている。

時間を確かめると、もう19時45分になっていた。


「急いで戻らないと不味そうだな」


明かりをなにも用意していないので、森の中で暗くなってしまったら間違いなく迷う。

それに、そろそろログアウトしなければならない時間帯だ。


ジャックは警戒しながら先を急いだ。




「何事もなく着いたな」


町に戻ったときには、もう既に夜になっていた。

あれ以降モンスターに遭遇することはなく、心配していた事態にはならなかった。


実は、絶対に途中でグレイウルフに遭いそうな予感がしていたのだが、杞憂だった。


「あれ、ジャックさんじゃないですか?」


「ホントだな。よう、ジャック、狩りから帰ったとこか?」


案内板で冒険者ギルドの場所を確認していると、エピタフとカムイに鉢合わせした。


「モンスターとは闘ったけど、どっちかっていうと採取かな」


「ああ、クエストか。見つかったのか?」


「うん。必要な分は見つかったよ」


「私の方も上手くいきました。ジャックさんの言っていた薬草はやっぱり、私の探していたクエストアイテムでした」


「よかったね」


それから、お互い今日は何をしていたのか雑談する。

そこで、カムイの口から金策についての話題がでた。


「クエストをやったんなら、報酬もはいったんだろ。道具を買う分の金は足りたのか」


「いや。まだクエスト自体受けてないんだ。今から冒険者ギルドにクエストを受けに行くところ」


「・・・・え?」


「へ?・・・ああ、そうか・・・」


ジャックの答えに、エピタフとカムイは一瞬、呆気にとられた顔をした。

そして、カムイはすぐに何かに気付いたらしく、何と言えば良いか迷う微妙な顔をした。


「・・・どうしたんだ?」


ジャックは嫌な予感がして、恐る恐るカムイに訊ねた。


「それなんだがな・・・」


カムイは苦笑を浮かべながら答えた。




「冒険者ギルドなら、もう閉まってるぞ」




「え?・・・何で?」


「夜だから。開くのはゲーム内時間で6時間後だな」


呆然としたジャックに、カムイはあっさりと答える。


ゲーム内時間で6時間となると、現実時間では23時まで冒険者ギルドは開かないことになる。


「まあ、もう遅いですし、明日にすれば良いんじゃないですか?」


エピタフのフォローを聞きながら、ジャックは肩を落とした。


実害はなかったので、まあ良しとしよう。




ジャックはそう自分を慰めた。


初めて主人公が不幸になりませんでした。

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