表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/29

第七話 リア充と一緒

今回はリア充も被害を受けます。その分、被害は軽いです。

「だから、僕に女装趣味はない!!」


「分かってるって。おれに偏見はないって言ってるだろ」


「それ絶対分かってない」


「あの・・・大丈夫だよ、最近は男の娘とか需要があるもの」


「全然、大丈夫じゃない!! ていうか、緋呂さん、何言ってんの? キャラが変わってない?」


ポっと顔を赤らめる音々に、九郎は全力で突っ込む。彼女が腐っていることを初めて知った九郎だった。


「何度も言ってるだろ! 川に突き落としたっていうのは、イベントのPVPだったんだよ。それにユニークアイテムが手に入るってだけで、胸パッドとは知らなかったんだ!!」


「・・・九郎。よく教室で胸パッドとか叫べるな」


「話を振ったのは八郎だろうが!!」


ぜえぜえと息を切らしながら叫ぶ。

それを見て流石に不憫になった八郎は話題を変えることにした。

周囲が誤解したままなのは、この際置いておく。


「それにしても、競合イベントか。公式にもヘルプにも載ってなかったな。おれも誰かと組んでやってみるかな。胸パッドはいらんけど」


「それにしても、何で、その、む、胸、胸パッドなんでしょうね?」


「競合イベントが起きるなんて知らずに、クエストを完了しちまう奴もいるだろうからな。それで役に立つアイテムが手に入らなかったら不満がでるから、敢えて重要性のないネタアイテムにしているんだろう」


「そっか、色々考えてるんだね」


音々と雑談をしていた八郎は、ふと思い付いて、叫び疲れてふてくされている九郎に訊ねた。


「そういや、短剣は買えたのか? クエストやったんなら、収入があったんだろ?」


「クエスト報酬で変な短剣が手に入った」


「お、クエスト報酬か? じゃぁ、結構性能が良いやつが手に入ったのか?」


「そこまででもないかな。ダガーよりも1だけATKが高い奴」


「微妙だが、店売りよりはいいか。じゃぁ、今日は狩りにいくか?」


「考えてなかったけど、そうしようかな」


その時、音々が提案した。


「藻部君はお金を稼ぎたいんだよね。それなら昨日の私達みたいにギルドで薬草採取のクエストをついでにやったら良いんじゃないかな」


「でも、僕は治療師じゃないから、薬草の採取はできないよ」


九郎がそう答えると、八郎と音々は揃って頭を傾げた。


「何言ってんだ?」


「藻部君。薬草採取は治療師でなくてもできるよ」


「え? できるの? でも、前に変な形をした薬草っぽい草を採取しようとしたけどできなかったよ」


九郎は驚いた。


「採取できない薬草? 藻部君、それ何処にあったんですか?」


「最初の村から町に向かう途中」


それを聞いて音々は何やら考え始めた。


「今日、八郎君は部活が遅くまであるよね。藻部君、八郎君がログインする前にその薬草を探しに行きませんか?」


「良いけど、どこにあったか正確な場所は覚えてないよ」


「構いません。一人で町の外に出るのは不安なので一緒に行って欲しいんです」


「まあ、それな・ら・・・」


ギ、ギギギ


その時、何やら奇妙な音が聞こえた。音々は気付かなかったようだが、気になった九郎は周囲を見回し、それに気付いた。


イスの背に置いた八郎の手がふるえ、イスの背が軋んでいることに。

強ばった八郎の視線が、その心情をはっきりと示していた。




ネネ、ト、でえと・・・コ・ロ・ス




デートじゃない!

などという九郎の心の中の叫びは届かない。


「いや、あの辺りはモンスターは出ないから大丈夫だよ。ワイルドラットも新規の人がさっさと倒しちゃうだろうし」


「そうですか・・・それなら、仕方ありません」


音々が悲しそうに顔を伏せた。


ミシッ、ミシメキメキメキ


見れば、イスの背が今にもヒビが入りそうなほど軋んでいた。

笑顔を装う八郎の顔に浮かんだ青筋が、彼の心情をはっきりと映し出す。




ネネ、泣カシタ・・・コ・ロ・ス




「どうしろっちゅうねん!」


「ど、どうしたの!?」


「音々、気にするな。たまたま叫びたい気分だったんだろ」


驚く音々に八郎が勝手なことを言う。

九郎はどうすれば穏便に事を済ませられるか、必死に頭を巡らせた。


こと、音々に関する限り、八郎は本気だ。

このままでは、本気で殺される。


「そういえば、今日は緋呂さんと八郎は何か予定があるの?」


「私? また薬草採取をしようかと思ってるけど」


「おれは誰か誘って、もう少し奥の方に行ってみようかと思ってる」


「別段急ぐ用事がないんなら、八郎がログインしてから一緒に行けば良いんじゃない?」


「でも、八郎君には昨日も付き合ってもらいましたし」


最初に八郎の予定を確認したよね。

思わずそう突っ込みたくなったが、九郎はかろうじて我慢した。


「そんなの気にするな。いくらだって付き合ってやるよ」


爽やかな笑顔で八郎が応えた。


「八郎君・・・ん、ありがとう」


音々が恥ずかしそうな、嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「一件落着かな。うん、良かった、良かった・・・殺されずに済んで」


どんなにリア充が嫌いでも、命には代えられない九郎だった。


九郎はこの話はこれで終わったと思っていたのだが、実はまだ終わってはいなかった。




「藻部、ちょっといいか?」


「? 江田君、どうしたの?」


放課後、帰る準備をしていた九郎は、思いがけない人間から声をかけられて驚いた。


「今日、ログインしたらちょっと付き合ってくれないか?」


「付き合う? 何に?」


"可能性の檻"の話だろうとは見当が付いたが、これまで全く接点がなかったので戸惑ってしまっていた。


「音々から聞いたんだけど、採取できない草を見つけたんだって?」


「ああ、あれか」


「実は治療師のクエストで探してるクエストアイテムがあってさ、お前の見つけたのがそのアイテムじゃないかと思ってんだ」


それで音々が興味を持ったのか。

音々のメインクラスが治療師だったことを思いだし、九郎は納得した。


「へぇ。でも、江田君って治療師だったの?」


「いや、俺は治療師じゃないけどな。クエスト報酬が回復薬作成のスキルなんだよ。ウチのパーティーの治療師が覚えればパーティー全体の戦力が上がるからな」


「? ウチの治療師って、緋呂さんじゃないの?」


「音々もだけど、友達に他にも二人いるんだよ。サブクラスだけどな。音々と一緒に行こうかとも思ったけど、割井が嫌そうな顔してたからやめといた」


「まあ、馬に蹴られる前に、八郎に蹴られそうだからね」


「いや、そういう意味では・・・あれなんだが・・・」


いつもハッキリと話す江田らしくない。なにか言い淀むように言葉を詰まらせた。


もしかして、結構、緋呂さんのこと気になっているんだろうか?

煮えきらない守人の態度に、ふと九郎は思い付く。


まあ、彼女ができた経験がないどころか、女子の知り合いすら緋呂以外にいない九郎の勘など、全く信用はできないのだが。

この高校の生徒のほとんどが地元の人間なので、クラスの七割が幼馴染と呼べる環境にあることを考えれば、九郎がどれほど女子と縁がないか分かるだろう。


悲しいことを再認識しそうになった九郎は、それらを脇に追いやることにした。


「なんにせよ、村への道に沿って探せばすぐに見つかるから、僕と一緒に行く必要はないよ」


「でも、本当に目的のアイテムなのか分からないし、お前も気にならないか。生産職だろ。治療師をやることもあるだろうし、その時の為に結果を確かめといた方が良いだろ」


「それはそうだけど・・・」


九郎は悩んだ。


音々を巡って、友人である八郎は守人のことを良く思っておらず、守人と行動を共にするのは裏切りとも思える。




などという理由ではない。


リア充と一緒なんてゴメンだ!!


というのが本音だった。

目の前で守人のリア充っぷりを見せつけられるなど、九郎にとっては拷問でしかない。


だが、リア充を敵にまわせば別の意味で拷問が待ちかまえている。


おそらく守人は断られても気にしないだろうが、彼の友人達はちがう。

まず間違いなく、あんな冴えない奴が守人の誘いを断るなんて生意気だ、と怒り狂うだろう。

クラスで孤立するのは勘弁して欲しかった。


「はあ。なら、探しているアイテムか確認するまでは付き合うよ」


「おう。よろしくな」


守人が爽やかな笑顔で頷いた。




「すまない、待たせたな。こっちで会うのは初めてだったよな。チャリオットとハーミットだ」


中央広場でジャックが待っていると、友人達を引き連れた守人ことレイモンがやってきた。


一緒にきたのは隣のクラスの男女、チャリオットこと馬頭ばとうと、ハーミットこと鹿野しかのだ。

馬頭は長身細目が特徴の草食系男子だ。そして、鹿野は穏やかな眼差しが特徴的な草食系女子である。

二人はいつも一緒に行動しており、周囲からいつ付き合いだしてもおかしくないと噂されているのだが、両方とも草食系なのでなかなか関係が進展しない。

あらかじめ守人からはこの二人が治療師のスキルを必要としていると聞いていた。


だが・・・


「で、何で鷹尾先輩がいるんですか?」


「ここではカタリナよ。何でここに居るのかといえば、今日は守人と約束があるからよ」


「昨日は紗奈・・・カタリナは遅れてログインしたから、一緒に狩りができなかったんだよ。その代わりに、今日はこの後一緒に狩りをする約束をしたんだ」


腕を組んでふんぞり返っていた鷹尾ことカタリナの台詞をレイモンが補足する。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」


「長いわよ。この私とパーティーを組めるというのに不満そうね」


「あの訳の分からない噂がなければ歓迎できたかもしれませんけどね」


「噂ねぇ。私も聞いたけど、嘘は一つも含まれてなかったわよ」


「悪意は山ほど含まれてましたけどね」


「ふふふふふ」


「ははははは」


「恐いぞ、お前等」


レイモンが呆れたような顔をして突っ込んだ。




「間違いない。そうだよね、鹿野さん」


「ええ、間違いないわ、馬頭君」


ジャックが見つけたあの草を見つけると、チャリオットとハーミットが目を輝かせて採取した。


なんでもこの草は"黎明草"といい、あるNPCの治療師がスキルを教える代償として要求してくるものらしい。


「いやぁ、ありがとう、ジャック君。この草がずっと見つからなかったんだ。そうだよね、鹿野さん」


「ええ。森の中をいくら探しても見つからなかったの。まさか、チュートリアルの途中にあるとは思わなかったわね、馬頭君」


二人は手を取り合って喜んでいた。


「あの二人、なんでわざわざ最後にお互いの名前を呼んでるの? かなり不自然なんだけど」


「バカップルだからよ。なんでもいいから、相手の名前を呼びたいんでしょ」


「まあ、まだ付き合い初めてはいないけどな。この機会にもう少し仲が進展するといいんだが」


レイモンが苦笑を浮かべる。


おそらく、彼の言うこの機会とは、このクエストのことではなく、このゲーム自体のことだろう。


リア充は自分のことだけでなく他人を気遣う余裕まであるらしい。


ジャックの胸の奥にざわざわと嫌な気分が広がった。


彼はどこまでも卑屈な人間だった。




「この後狩りに行くんだけど、藻部君・・・ジャックも一緒にどうだい?」


「狩りって、何処へ?」


初心者向けのフィールドは一度町に戻ってから西門から出る必要がある。

町で分かれるつもりだったジャックは当惑に眉をひそめた。


「ここから町に向かう途中に脇道があって、その奥に行くと最初のフィールドの奥の森に繋がっているんだ。獣道みたいな道だから、多分気付かなかったと思うけど」


「森って、あのグレイウルフがいる?」


以前、レイモンがトレイン(?)してきたグレイウルフに死に戻りさせられたジャックは、嫌そうな顔をした。


「僕のレベルじゃグレイウルフの相手はできないよ」


「今、何レベルなんだ?」


「鍛冶屋も盗賊もレベル3だな」


昨日、ログアウトした段階でジャックのレベルはメインクラス、サブクラス共にレベル3になっていた。

競合イベントに勝利したときと、クエストをクリアしたときにそれぞれレベルが上がっていた。


「そういや、レイモン達って今何レベルなんだ?」


「俺は魔法使いと剣士で両方12レベルだな」


「私は魔法使いと弓使いで両方5レベルよ」


「あたしは盗賊が4レベル、治療師が3レベルよ」


「私は弓使いが5レベル、治療師が2レベルです」


「12レベル!?」


一人だけレベルが明らかに違った。


「ああ、俺はグレイウルフでレベル上げしたんだけどな。何故か他の奴らはグレイウルフと闘いたがらなかったんだ」


「当然だろ」


「何でだ?」


「「「はははは・・・・」」」


ジャックは思わず突っ込んでしまうが、レイモンは本気で何故か分からないようだった。

カタリナ達は虚ろな笑い声をあげている。


ジャックは本気で頭が痛くなった。


「・・・グレイウルフ相手なら、僕は遠慮するよ」


「いや、大丈夫。グレイウルフは森の中でも特に奥の方でしか群で活動していない。脇道から入ってすぐの辺りなら単体でしか出現しないから、俺に任せてくれれば何とかするよ」


「じゃぁ、何が狙いなの」


ジャックの質問に、レイモンはニヤリと笑って答えた。


「ユニークモンスターだよ」




「最初のフィールドでは、ワイルドラットとグレイウルフに他にゴブリンも出現するんだよ」


レイモンはジャックの気付かなかった脇道に入りながら、目標とするユニークモンスターについて説明した。


「でもここのゴブリンは武器を持っていないし、群も作らないからグレイウルフに比べるとかなり弱い。で、このゴブリンのユニークモンスター"ファナティック・ゴブリン"が出現する場所の情報があったんだ」


「でも、そのユニークモンスターが運良くポップするとは限らないだろ」


「それならその場所の確認だけでもするさ」


レイモンはジャックの質問に平然と答えながら・・・ゴブリンを瞬殺する。


ゴブリンは人間に比べるとかなり背が低い緑色の肌をした醜いモンスターだ。

ワイルドラットよりは遙かに強く、一対一ならジャックではかなり手こずる筈のモンスターなのだが、レイモンにとっては雑談しながら片手間に倒せる相手でしかない。

高レベルのリアルチートの成せる業だ。


「それで、そのユニークモンスターって強いのか」


「いや、戦闘能力自体はグレイウルフより少し強いぐらいらしい。でも・・・」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


レイモンが説明を続けようとしたときだった。森の奥、レイモン達の向かう先から、プレイヤーの悲鳴が聞こえてきた。


「!? 急ぐぞ!」


「ええ!」


レイモンとカタリナが素早く反応して走り出し、取り残されそうになったジャック達は慌てて後を追った。


「なっ!」


「そ、そんな・・・」


先にたどり着いた二人が立ちすくんだ。

彼らの足下には怯えきったプレイヤーと覚しき少女がうずくまっていた。


そして、打ちのめされたプレイヤーの元へジャック達が追いつき、その姿を見てしまった。




最初に目に入ったのは、キラキラと舞うレースのフリルだった。


ピンクの可愛らしいワンピース。

店売りの服とは明らかに違う。プレイヤーメイドの服でもまだこれほどのワンピースはないだろう。

現実に存在したならかなりの値段になるだろうワンピースだ。

女の子ならせめてゲームの世界なら一度でも良いから手に入れたいと望むに違いない。


その見事なワンピースはあまりにも悲惨な状況になっていた。


そう、そのワンピースは・・・そのワンピースを・・・




ゴブリンが着ていた。




「「「「「おえぇぇぇ」」」」」




ジャック達は吐きそうになった(リア充含む)。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ