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剣聖と呼ばれた者  作者: 茶猫
‐第一章‐ 英雄探し
7/18

英雄の試験

ギルドの町についた二人を待っていたのは、かつての仲間の一人、英雄リックとの速い再開だった。

ちょっとした問題があったもののすぐに解決し、リックも冒険者としてギルドに登録するために、行動を共にするのだった

「にゃはは~、実はオイラ、結構楽しみにしてたんだよ~」

「オレもだよ、やるからには本気だよ?」


闘技場の真ん中、エルとリックは互いに向き合っていた。

手にはそれぞれ、木でできた刀と投剣を持ち、その体からは闘気が溢れ、互いに本気の表情である。



そもそも、なぜ二人が戦っているのかというと、それは数時間前にさかのぼる。







**********************************







宿から出た三人は町の中心部にあるどデカい建物の前にいた。

ドーム状に出来たその建物は天井がなく、所謂、闘技場だ。


「こんなもん昔にはなかったよ」

「そりゃそうでしょ、ギルド組織の設立に合わせて作られた試験会場だもん、あなた達が消えた後の建築物なんだから」


見上げるエルの疑問に説明をつけるアリア。

同じように見上げているリックが、首を回してパキパキと骨を鳴らす。


「見上げてると首が痛いね~、外観は闘技場っぽいけど、中は見れないの~?」

「中では今試験として、冒険者見習いが待機しているわ。

 ここの試験内容は、見習い同士、お互い孤立無援で戦わせて、気絶した時点である一定の戦闘技術がついているとみなされれば合格なのよ。

 あくまで試験だからそれ以上、例えば四肢切断とか、相手を死に至らしめたらその場で『処分』よ。

 まっ最低な奴が来た時の救済措置ね、少なくとも誰かが死ぬ前に、ソイツが死ぬから」

「ふーん、ここのってことは、別の大陸の本部は違うんだ?」

「そうらしいわ、でも詳しくはしらない、あたしもここで相手をボコボコにして合格したから。

 ちなみに、長く戦えば戦うほど、冒険者になったときのクラスが上がるわよ。

 さ、いきましょ、早くしないと受け付けが終わっちゃう」

「「……クラスってなに?」」


二人のつぶやきはアリアの耳に届かなかったらしく、そのまま入っていってしまい、二人もそのあとに続く。

扉を開くと、目の前には内側の会場へと続く扉、右と左に廊下がある。

扉付近に受付と思わしきテーブル、紙と木炭を加工したペンがあり、必要以上になにも装飾がされていない。

廊下の先は円状のつくりとなっているため、カーブしていて先が見れない造りとなっていた。


「え~っと、種族名前、人間、エル、の……職業……旅人かな、武器は刀……」

「オイラは~、ドワーフのリック、旅人で~

 ……ね~これ本当に受付なの~? ちょっとずさん過ぎない~?」


苦笑するリックに合わせてアリアも同じように、あはは……と乾いた笑いをあげる。


「あたしも最初は驚いたけど、まぁいいじゃない、とりあえず武器を出しなさい、預かっててあげるわ。

 説明してなかったけど、ここで使える武器は支給される木でできた武器だけよ。

 それから、大人たちもいるけど、あなたたちは飛びぬけて強いはず。

 いい? 手加減してあげるのよ、もしいきなり気絶しちゃったらその人たちは確実に落ちるわ。

 あくまで戦闘技術を審査する試験だから、審査しようがなくなってしまうもの」

「注文多いなー、できるかな?」

「ん~、努力はするよ~」


アリアに武器を渡す二人から、自然と愚痴がこぼれる。

明るい二人の顔が珍しく困った顔になるのを見ながら、アリアは二人を見比べる。

立ち振る舞い、表情、しぐさ、どんなに見つめても、かの『英雄』にはやはり思えない。

それでいい、そう思うが、英雄ファンのアリアとしては少し複雑な気持ちだった。

そんな気持ちを顔に出さないよう抑え、武器を見ると、リックに問いかける。


「あら? リック、投剣もう後三つしか無かったの?」

「ん~にゃ~、オイラはもともと三つしか持ってないよぉ~」


書き終えたリックが、受付の近くにある木でできた得物を探しながら話す。

その横にいるエルはすでに木刀を見つけたようで、暇なのかリックの代わりに解説をする。


「リックの星術には、『分身(ダブル)』ってのがあってね、物体を増やすことができるんだよ。

 ただ、魔力の封じ込められたクリスタルとか、魔術具なんかは増やせないし、大きすぎるのも無理。

 増やしたとしてもリックが術を解けば消えちゃうけどね」

「へー、そんな便利な物まであるんだ、なかなかずるいわね、卑怯よ」

「卑怯ってぇ~、それを言うなら君ら獣人の身体能力こそずるいよぉ~」

「……もう、行くわ、観客席から見てるから……」


リックの一言で、アリアに一瞬で影ができる。

「どうせ私なんて……」という声とともに、廊下の奥へ歩いていくアリアを、エルは苦笑しながら見送った。

不思議な顔をするリックがエルに尋ねる。


「オイラ……なんかいった?」

「昨日のさ、リック格闘術使ったでしょ? アレ、彼女見えなかったんだってさ……」

「あ~、そりゃオイラはバケモノみたいなアスカに鍛えられたんだもん~、少し本気だったし、さすがに普通の子に見られたらショックだよぉ~」

「でも、彼女はいずれ見える様になるよ? 才能の塊だし、アスカが並みじゃないだけで、アリアは普通の人たちの中じゃ一際原石だもん」

「ふふふ~、でも教えてあげないんでしょ~? 君は昔から、才能ある人を見守りながら育てるの好きだよね~」

「だってさ、言ったら慢心しちゃうじゃん、それじゃ意味ないんだよ。

 言わないでも、自分でも輝けるようオレは手伝うだけだよ」




かなり近くで、英雄の二人に褒められているとはつゆ知らず、廊下をあるいて程なくするとある、観戦席につながる階段をアリアは上っていた。

降りてくる女の人とすれ違うと、優しく声をかけられ、階段で立ち止まる。


「あらあら、元気がないわね?」

「あなたは……」


整った顔立ちに緑色の瞳と、尖った耳、

一目でエルフ族の女性だという事がわかる。


「冒険者見習いは。一階の闘技場で待機ですよ?」

「あっいえ、私は見習いの保護者というか、仲間が試験を受けにきたので、上で観戦しようかと思って……。

 私は一応、Bのブロンズの冒険者です」

「ああ、そうなの? どうりで強そうな子犬ちゃんだとは思ったわ」


うふふ、っと上品に笑っている彼女をみて、アリアは美しいと感じた。

そして、彼女を見て思い出す


「……もしかして、Sクラス、ゴールドランクのセレス・オニキスさんッ!?」

「あらもうバレちゃった、名が知られるのは、あんまり好きじゃないわ。

 ……ねぇ、一緒に観戦しない? 私、試験官のお仕事を本部から承っているんだけど、一人は嫌だわ、未来の後輩には悪いけど、めんどくさいもの」


こういうことは日常茶飯事なのだろう、存在を驚かれても、どうということはなく観戦を誘ってくる。

舌をだし、えへへ、っと笑う彼女には、美しさと気品の中に、可愛さがある。


「セレスさんがいいなら、あたし、お邪魔してもいいですか?」

「ええ、私は締切のために扉を閉めて、受付表を取りに行くから先に上がって好きな場所にいて?」

「はい、わかりました!」





*******************************





あれからしばらく経ち、エルとリックは闘技場の片隅で、支給された武器を弄っていた


「すごいねぇ~、これ木でできてるのに、ちゃんと投げれそうだよ~、中に鉄でも入ってるのかなぁ~、少し重く出来てる~」

「っていうか、ほかの人たちも、斧とか、槍とか、全部木で出来てるんだな、昔はこんな技術なかったよ」


固い土で盛られた大きなフィールドの好きな場所に、いろいろな種族がいる。

ざっと見ただけで50強は居るだろう、それでもエリアが大きいため少なく感じてしまう。

誰もが、そこそこの戦いができるくらいには訓練を積んでそうだった。

と、時間ギリギリになって闘技場の扉があき、竜人族の少年が木剣をもって入ってくる。

白い鱗で覆われた陸竜種と呼ばれる、翼をもたない一般的な竜人。

竜人族特有の二本の角もまだ少しだけしか生えておらず、外見的特徴から12歳前後の少年だということがわかる。

垂れた瞳が元気そうに輝いていて、エルが自然と唾液を飲み込む。


「おぉー、あの子可愛いなぁ、虐めたくなりそう……」


呟き、口元がにやけるエルを見ながら、リックが面白くなさそうに言う。


「君は節操ないよね~、可愛ければどんな種族でも~、女でも男でもベッドに誘うんだもん~」

「ん? もしかして、妬いてるの? ……またオレに可愛がられたい?」

「ちっ違うし~、てかどこ触ってんだよぉ~」

「君の小ぶりなおいなりさん」

「エル~、絶対つぶすから~」


リックの怒りを買いつつ、あたりを見回すエル。

そこにはやはり、20代くらいの大人の姿もちらほら見える。

年下に負けたくはない、そう緊張するものもいれば、年下の弱そうな奴をカモにしてやろう、そういう風に考えていそうな輩もいた。

エルから言わせれば、そんなものを態度に出している時点でここに集まった奴らには勝てないだろうと思う。

そんなとき、頭の中で声が響く。


『え~、みなさん! 今日はお集まりいただいてありがとうございます。

 私、試験官を務めさせていただきますセレス・オニキスと言います。

 私は大きな声を出せないので、今は皆さんの頭に魔法で直接語りかけています。

 ここのルールは、バトルロイヤル方式です、私はきちんと見てますので、最後まで頑張って力の限り戦いください、例え、一人も倒せなくても素質さえあれば、合格にいたします。

 補足として、直接的な攻撃魔法等は原則禁止です、

 もちろん、怪我は私が治しますのでご心配なく、それでは、始めて下さい』


ブツッと頭の中で念話が切れる音が聞こえる。

とともに、各所で近くの者と、一対一、もしくは三つ巴になりはじめる。


「ひぇぇぇぇ!?」


そんな中、変な声を上げる竜人族の少年がいた。

最後に入ってきた少年は、大人の人と一対一になっている。

先ほどエルが見ていた、年下を相手にしてやろう、そういう態度が出ていた輩だ。

リックもソイツの魂胆に気付いたのだろう、エルとともに少年を観戦する。


「わ~、大人げないね~」

「助けてあげないの?」

「冗談~、何のために入る時から気配消してるとおもってんの~。

 エルだって、手加減とかめんどくさいから、最後まで戦わない気でしょ~」

「バレたか、まぁあの子なら大丈夫だよ、でも、おびえた顔も可愛いなぁ~」


呑気に雑談しながら各所の戦いを見ている二人。

気配を消している為なのか、誰一人として寄ってこない。

暫しの間、観戦を続けていると、一人、また一人と気絶していく。

ある者は不意をつかれ、ある者は疲れで倒れる。


「ぐっ……くそっ……」

「わわっまた勝っちゃいました!

 えーっとぉ……」


変な声を上げた竜族の少年も、カモにしようとしていた輩を一人一人確実に返り討ち、もとい倒していく。

と、キョロキョロしたかと思うと、何かに気づきエルとリックのもとに駆けてきた。


「いざ尋常に勝負ですぅ!」


「……(エルぅ~、君、彼に気配飛ばしたでしょ~)」

「……(うんまぁ、でも、気付かない程度だとおもったんだけどなぁ)」


少年に聞こえない声で、唇を動かさず、かつ小声で話す。


「え~っと、あのぉ~、戦わないんですかぁ……?」


木刀を構えるわけでもなく、座り込んだまま動かない二人をみて、困惑する少年。


「攻撃しちゃいますよぉ~」

「後ろ、後ろ」

「え? ひゃぁ!?」


別の奴に襲われて、振り下ろされた剣を受け止める少年と、その隙に座りながらも巻き込まれないよう離れる二人。

今度の男は弱いらしく、剣をはじかれて簡単に胴を殴られていた。

これが刃の付いた剣ならば上半身と下半身がお別れをしていただろう。


「ぐあっ……」


膝から崩れ落ちる男が完全に気絶したのを確認すると、キョロキョロとあたりを見回す少年は、二人の姿を見つけるとまた小走りで近づいてくる。


「ふぅ~……あッ戦ってくださいよぉ、ずるいですよぉ」

「まーまー、君も一緒に観戦しない?」


エルの言葉に、少年は子供ながらに呆れかえる。


「……これ、試験なんですよぉ? 戦わなくていいんですかぁ?」

「だってオレが勝っちゃうしなー」

「ムッ……そういう事は僕に勝ってからいってくださいよぉ」

「可愛いなぁ、んじゃーちとやってみますか」


ようやく立ち上がると、エルは木刀を持って棒立ちになる。


「じゃあ、いきますよぉ、やぁぁぁッ!!」


木剣を力いっぱい振り下ろす少年の攻撃を、木刀で難なく受け流すエル。

受け流された少年は、驚いたそぶりも見せず、次々と攻撃を繰り出していく。

木と木がぶつかり合う鈍い音をききながら、エルは少年を見つめていた。


「(ん~惜しいなぁ、筋はいい、素質もある、速いし攻撃だってそこそこ重い。

 だけど、それだけに惜しい。

 この子は、誰の指導も受けてない……自己流だろう、そうじゃなかったらとてつもなく弱い流派の剣術。

 基本が出来てないから、簡単に読めちゃうし、良くも悪くもまっすぐだ)」


「ハァッ……ハァ……なんで、攻撃、してこないんですかぁ?」

「ん、君の剣、自己流だなぁって思って……じゃ、攻撃しようかなぁ……ほいほい!」

「エッ? ……ひゃっわっ!?」


後ろに下がりつつ、守りに徹していたエルが初めて動き出す。

少年の攻撃を木刀で強めに弾き、体制を崩したところで強めの突きを繰り出す。

辛うじて見えるくらいの速さでの、素早い連突き。

情けない声を上げながら、突きを避けていく少年は、少しずつ、少しずつ早くなる攻撃に、じわじわと追い詰められる。

勝負の決着はもう見えていた。

避けるのに意識を使っていた少年が、足をもつれさせ、転びそうになる。

その瞬間をエルは見逃さなかった。


「ふっ……くぅ……あっ!?」

「すきありー!」

「ぐぅッ!? ……うっうぁッ……ぁ」


気の入らない声と共に、少年の鳩尾に容赦のない突きが決まり、倒れこむ彼はその場で呻きながらのた打ち回る。

まだ幼い顔の、くりくりした目にいっぱいの涙をため、苦しさから唾液が垂れている。

そんな少年の姿を、舌舐めずりをしながら見下ろすエル。


「はぁっ……可愛いなぁ……虐めたくなっちゃうよー……。

 暫くは立っていられないくらいの力で突いたから、ゆっくり休みな?」

「戦いで気に入った相手をいたぶる趣味やめたら~? 一応英雄なんだし~、ほんとドSだよねぇ~」

「こればっかりはやめられないよ、さて、体もあったまった事だし、やりますかぁ!」

「ん、オイラもあっためてきたから、いつでもいいよ~。

 そんな事より、股間にテント張ってるのどうにかしたら~?」


よく見ると、すでに立っている者はエルとリックだけだった。

エルが戦っている間、リックは生き残り全員と戦っていた様で、辺りには気絶した者たちが転がっている。



「にゃはは~、実はオイラ、結構楽しみにしてたんだよ~」

「オレもだよ、やるからには本気だ、手抜いたらぶっ殺すからね?」

「もちろん、オイラもそのつもりだよ~」





**********************************





やっぱりこうなったわね……

アリアは全員の戦いを観戦しつつ、予想通りの結果にこう思った。

それはアリアの隣にいるセレスも同じようで────


「やっぱり、こうなりましたね……」

「セレスさんも、気付いてたんですね」

「ええ、あれがあなたの仲間? 怖いわ、あんなの、可愛いひよこちゃん達の中に竜がいるようなものですもの」

「ですよネー、一応、手加減しろとは言ってあったんですが……」


はぁっとため息を吐いて、闘技場の中央にいる二人を見つめる。

それでも、呆れていても、しかしわくわくしているアリアがいた。

二人の本気、英雄と呼ばれた者同士の戦いだ、そうそう見れるものではない。

どこかでこうなる事に、少なからず期待している、そんな自分がいたことに、アリアは気付いていた。
















カイ「初の前後編ですね

   ランクに、クラスについては、次で解説します」

アスカ「いぃ~なぁ~~私もたたかいたいよー!」

「貴女がやったら、全部ぶっ壊しちゃうじゃないですか……」

「うっさいわねー、エルったら、どんなに頼んでも、

 理由が無きゃ戦ってくれないんだもん」

「あの人は、そういう人ですからね、

 僕でよかったら今度相手になりますよ?」

「へー、じゃあ、今からやりましょ?」

「えっちょ、ひきずらないでください」

「いーからいーから、さ、いくわよー

 今日は寝かさないからね?」

「へ? 戦うんじゃ……ちょっとぉぉぉぉ!?」

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