幸せの魔法
「先生、魔法が使いたいです!」
「あら? 君はもう使えてるじゃない。誰もが出来ることで、君しか出来ない魔法がね」
「先生、それは何なんですか?」
「あら? 君はもう知っているじゃない。君はその魔法を人に教えたことがあるじゃない」
「先生、僕は――――」
「君はもう魔法が使える、その事実だけで充分じゃない」
先生はそれだけ言うとポンと君の頭に手を起き、優しく撫でる。
君はくすぐっそうに顔を緩ませた。
「ほら、君の魔法は特別」
咲いたような笑顔の先生に見られたあなたは、嬉しさと恥ずかしさの混ざったよく分からないけど悪い気はしない気持ちで、一層頬を緩ませた。
先生のそんな笑顔が君は大好きだった。
君は先生と別れて適当に町の中をぶらぶらと歩いている。そこかしこにある店から知った顔の笑顔に君は呼ばれながら、律儀に止まって返事をしながら君は町をどんどん進む。
それだけで町に笑顔が、活気が沸き上がっている。君は町の盛り上がりに埋もれながら、どんどん進む。
道を外れた近道を使って向かった先は、小高い丘に備え付けられた町を一望出来る展望台、君のお気に入りの場所だ。
君はそこにいるもう一人を、まだ歳の若い少女、見て、また、顔を綻ばせた。
少女は無表情、いや、僅かにだが確かに頬を緩ませて、かろうじて笑顔と判断出来る表情を作った。
「久しぶり!」
「ひさ、ひさし……ぶり」
たどたどしい言葉の中にある嬉しさに君は喜ぶ。そして嬉しいと思わせる。
「元気だった?」
「……うん」
「辛いこととかなかった?」
「あったよ……、でも、でもね……、約束、したから。だから私ね、頑張った……よ」
途切れ途切れでも確かに伝わる気持ちに君はまた思わされる、良かった、と。
幾分にも柔らかくなった少女の笑顔。まだ自然というにはほど遠いが、確かな笑顔に君は頬を更に緩ませられた。
約束。君が少女と結んだ約束。
「笑顔でいて」
「あなたの笑顔が、私の笑顔」
それだけ。しかし唯一無二。
「もっと凄い魔法があったら君の世界にいけて、君をもっと助けてあげれたのに」
「……違うよ。私は、もう、大丈夫。向こうも安定した、し。だから私は一番、大切な気持ちを、伝えるために……、ここにきました」
君は居住まいを正して僅かに紅潮した少女に見つめられる。
「好きです。もう嘘はつきません、私はあなたが大好きです」
やっぱりまだまだ笑顔がなってないなと思わせるが、それでもやっぱり少女の笑顔が嬉しい君はやはり笑顔で答えた。
「もっともっと、いつまでも、君の笑顔を見させてください」
「――――はい! 約束です。あなたの笑顔は」
「君の笑顔。二人で永遠に」
君は笑う。つられて少女も。
楽しくて笑う。
誰もが使えて十人十色。それ故にたった一人の魔法となるもの。
しかしその結果は変わらない。
笑顔の後の、幸せだけは。
永遠に。