第1章8節: 警戒、そして安堵と興味
カイは姉にしがみつきながら、何かを一生懸命に説明しているようだった。私のスープがいかに「美味しかった」か、ということを伝えているらしい。姉の方は、まだ半信半疑といった様子だったが、カイが無事であること、そして怯えている様子がないことから、少しずつ警戒を解き始めているのが見て取れた。
「……あたしはリリア。カイの姉です。弟を助けてくれたみたいで……その、ありがとう」
リリアと名乗った少女は、まだ少しぎこちないながらも、鉈を下ろし、私に向かって頭を下げた。礼儀は弁えているらしい。
「礼には及ばない。偶然通りかかっただけだ」
私は素っ気なく答える。感謝されること自体に興味はない。むしろ、早くこの場を離れて研究の準備に取り掛かりたい。
リリアはカイを抱きしめながら、ふと、カイが飲んでいた木の葉の器と、焚き火の跡、そして石の即席鍋に残ったスープの残り香に気づいたようだった。鼻をくんくんとさせ、不思議そうな顔をしている。
「これ……あなたが作ったの? なんだか、すごく……いい匂い……?」
この世界にはない「料理」の香り。それは彼女の嗅覚を強く刺激したのだろう。その瞳には、警戒心に代わって、強い好奇心が浮かんでいた。
私は無言で、石鍋に残っていたスープを木の葉の器に少量注ぎ、リリアに差し出した。言葉で説明するよりも、実際に体験させる方が早い。それに、彼女たちの反応は、この世界の食文化レベルを探る上で貴重なデータとなる。
リリアは一瞬ためらったが、好奇心には勝てなかったらしい。恐る恐る器を受け取り、スープを一口、口に含んだ。
次の瞬間、リリアの目がカイと同じように、驚きに見開かれた。
「なっ……!?」
声にならない声を上げ、口元を押さえる。その表情は、困惑と、信じられないという驚愕、そして明らかに「美味しい」と感じていることを示していた。
「こ、これ……本当にあなたが……? ただの木の実に葉っぱ、それに水と……石? なのに、なんでこんな……!?」
リリアは混乱したように私とスープを交互に見る。どうやら、私の予想以上に、この世界の食は単純なもののようだ。これほどの反応を引き出すとは。私の料理知識は、この世界ではあるいは、とんでもない「チート」能力になるのかもしれないな。




