第8章10節: 辺境伯の決意
アリアの目覚ましい回復ぶりは、辺境伯にも大きな喜びと安堵をもたらしていた。彼は、日に日に元気を取り戻していく娘の姿に、何度も涙ぐみ、私への感謝を繰り返した。
そして、アリアが自ら「庭を散歩したい」「料理を作ってみたい」と言い出したことを報告すると、辺境伯は感極まった様子で、私に深々と頭を下げた。
「ハルカ殿……本当に、何とお礼を申し上げたら良いか……。あなた様は、アリアだけでなく、この私、いや、この家そのものを救ってくださった」
彼は顔を上げると、決意を秘めた目で私を見つめた。
「ハルカ殿、あなた様の知識と力は、計り知れない。もし、あなた様さえよろしければ……今後も、この地に留まり、我々を導いてはいただけないだろうか? もちろん、相応の地位と報酬はお約束する。研究に必要な支援も、可能な限り行おう」
これは、予想外の申し出だった。辺境伯家付きの顧問、あるいはそれ以上の地位の提案か。確かに、彼の支援があれば、私の研究は飛躍的に進むだろう。書庫の利用も自由になるし、必要な資材や人材も手に入るかもしれない。
だが、私は特定の組織に縛られることを好まない。私の目的はあくまで自由な研究だ。
「辺境伯、お気持ちはありがたいが、私は特定の地位を望むものではない。アリア嬢の治療が完了し、私の調査(世界の謎に関する)がある程度進めば、また別の場所へ旅立つ可能性もある」
私の返答に、辺境伯は少し残念そうな顔をしたが、すぐに理解を示した。
「……そうか。無理強いはできんな。だが、ハルカ殿がこの地に滞在される間は、我が家は全力であなた様を支援することをお約束しよう。必要なものがあれば、何なりとグレイアムに申し付けてほしい」
「感謝する」
これで、当面の研究環境は保証されたと言えるだろう。辺境伯との間に、良好な協力関係を築くことができた。これもまた、大きな成果だ。




