第1章7節: 姉、来たる
カイが未知の味(?)に感動していると、森の奥から切羽詰まったような声が聞こえてきた。
「カイー! どこにいるのー! 返事をしてー!」
若い女性の声だ。おそらく、この少年の関係者だろう。思った通り、近くに集落があるようだ。
声の主は、やがて茂みをかき分けて姿を現した。茶色の髪をおさげにした、そばかすのある快活そうな少女。歳は……十六、七歳くらいか。働きやすいのだろう、簡素なチュニックとズボンを身に着けている。
彼女は弟であるカイの姿を見つけると、安堵の表情を浮かべたが、その隣にいる見慣れないエルフの姿――つまり私のことだ――を認めると、途端に表情を引き締め、警戒の色を露わにした。手に持っていた鉈のようなものを、咄嗟に私に向ける。
「あなたは誰!? カイに何をしたの!」
無理もない反応だろう。美しい森には危険な魔物も棲むという。エルフという種族が、この地域でどのように認識されているかは不明だが、少なくとも友好的な存在と即断される状況ではないらしい。
私は両手を軽く上げて敵意がないことを示し、あくまで冷静に、淡々とした口調で答えた。
「落ち着きたまえ。私はハルカ。この子が森で迷っているのを見つけ、保護していただけだ。危害は加えていない」
私の落ち着き払った態度と丁寧な言葉遣いが意外だったのか、あるいは私の外見(一応、美少女エルフらしい)に毒気を抜かれたのか、少女――カイの姉だろう――は少しだけ困惑したような表情を見せた。
「ほ、本当……? カイ、大丈夫なの?」
彼女はカイに駆け寄り、その体を心配そうに確かめる。カイは姉の登場に安堵したのか、再び涙ぐみながらも、ぶんぶんと首を横に振った。そして、小さな声で何かを姉に伝えようとしている。私の作ったスープのことだろうか。




