第1章6節: 未知の味への反応
少年は、私の問いかけにすぐには答えられなかった。ただ、こくこくと頷き、しゃくりあげるばかりだ。名前はカイ、と言うらしい。空腹と不安で、言葉を発する余裕もないのだろう。
ちょうど腹も空いているようだし、何か食べさせるのが先決か。私は先ほど採取した木の実の中から、比較的安全で渋みの少ないものを選び出し、少年に差し出した。
「これを食べるといい。毒はない」
カイは恐る恐る木の実を受け取り、小さな口で齧った。生の木の実だ。味は期待できないだろうが、今はカロリー摂取が優先だ。
しかし、それだけでは心もとない。そうだ、先ほどの焚き火がまだ熾き火として残っている。あれを利用できないだろうか。
私は近くにあった大きめの石(幸い、少し窪みのある形状だった)を拾い、水場で汲んできた水を注いだ。焚き火の熱で石を温め、水を沸騰させる。原始的だが、即席の鍋だ。そこに、炙って砕いた木の実と、安全を確認した葉、そして偶然見つけた岩塩のような鉱物を少量削り入れて煮込んだ。いわば、即席のコンソメスープもどきだ。味の保証はない。ただ、温かいものを摂取すれば、多少なりとも体力と気力が回復するだろうという判断だ。
出来上がったスープを、木の葉で作った簡易的な器によそい、カイに差し出す。
「熱いから、気をつけて飲みなさい」
カイは戸惑いながらも、ふうふうと息を吹きかけ、スープを一口啜った。
その瞬間、カイの動きが止まった。小さな目が、驚きに見開かれる。そして、次の瞬間には、その瞳からぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した。
「……っ、おい、しい……?」
嗚咽と共に漏れた、か細い声。それは、単なる空腹が満たされた安堵だけではない、未知の感覚――「美味しい」という概念に初めて触れたかのような、純粋な感動に満ちていた。
カイは無我夢中でスープを飲み干すと、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、ただじっと私を見つめてきた。その瞳には、先ほどの怯えは消え、代わりに強い好奇心と、そして……何か、キラキラとした憧憬のようなものが宿っているように見えた。
解せない。
あんな即席の、味の調整もろくにできていない代物だ。なぜこれほどの反応を? この世界の食のレベルは、私の想像を遥かに下回っているのかもしれない。




