第16章4節: ハルカの動物学的推論:これは「森のヌシ」か?
ミルトン村の村人たちからの聞き取り調査も行った。彼らの証言は、恐怖でやや混乱しているものの、いくつかの重要な情報を得ることができた。
襲撃してきたのは、たったの一体。
夜行性で、主に日没後から明け方にかけて活動する。知能も比較的高く、罠(村人が仕掛けた簡単なものだが)を巧みに回避したという。そして、何よりもその体毛の色。目撃者の多くが「黒というよりは、深い森のような、暗い緑色がかった毛だった」と証言している。
これらの情報を総合し、私は一つの結論に達した。
「……これは、通常の森熊ではない。おそらく、その亜種、あるいは長年生きた結果、異常に巨大化し、特殊な性質を帯びた『森のヌシ』のような存在だろう」
私はボルガンとリリアに、自身の推論を説明した。
「形態学的特徴――巨大な体躯、強力な爪と顎、五本指の足跡――は、明らかにクマ科の動物のものだ。だが、その体毛の色、異常なまでの凶暴性と知能、そしてミルトン村周辺の生態系への影響(他の動物の気配が薄い)を考えると、単なる大型個体というだけでは説明がつかない」
私は、前世の動物学の知識を援用しながら、巨大化した個体に見られる行動の変化や、特殊な環境下での適応進化について解説した。
例えば、特定の植物や鉱物を摂取し続けた結果、体毛の色が変化したり、異常な攻撃性を帯びたりする可能性。
あるいは、この世界であればマナ濃度の高い地域で長期間生息した結果、魔法的な影響を受けて変異した可能性も考慮すべきだろう。
「森のヌシ……。確かに、古くからの言い伝えには、そういった存在の話が出てくることがある。だが、実際にこれほどの被害をもたらすとは……」
ボルガンは腕を組み、厳しい表情で頷いた。
「いずれにせよ、相手の正体がある程度推測できたのは大きな進展だ。次は、この『ヌシ』をどうやって退治するか、具体的な作戦を練る必要があるな」
私は冷静に告げた。相手が巨大で凶暴な生物である以上、正面からの戦闘は避けるべきだ。知識と工夫で、勝機を見出すしかない。




