第16章2節: ボルガンの苦悩とハルカへの相談
リリアからもたらされた情報は、すぐにボルガンにも伝わった。その日の夕方、彼は深刻な顔つきで私の小屋を訪れた。その表情には、元騎士としての責任感と、村の指導者としての苦悩が色濃く浮かんでいる。
「ハルカ殿、リリアから話は聞いたか?」
「ああ。ミルトン村の件だな」
「うむ。ただ事ではない。ミルトン村からの避難民も一部、アッシュウッドに流れ着き始めておる。彼らの話を聞く限り、相手は並の獣ではないようだ。目撃者の話では、通常の森熊の倍はあろうかという巨体、そして異常なまでの凶暴性……。爪の一振りで丸太小屋が半壊したという話もある」
ボルガンの声は重い。
彼自身、かつては数々の魔物や盗賊と戦ってきたのだろうが、今回の相手には尋常ならざるものを感じているようだ。
「このままでは、アッシュウッド村もいずれ奴の標的になる。村の男たちを集めて防衛体制を敷こうとは思うが、正直なところ、どれだけ持ちこたえられるか……。若い者たちは実戦経験が乏しいからのぅ」
彼は深いため息をついた。その目は、私に何かを期待しているように見えた。
「ハルカ殿。不躾な願いとは承知の上だが……お主の知恵を貸してはくれまいか? 何か、この危機を乗り越えるための手立てはないものだろうか」
辺境伯の息女を救い、村に新たな食文化をもたらした私の知識と能力に、ボルガンは最後の望みを託そうとしているのだ。
確かに、これはただ事ではない緊急事態だ。私の静かな研究生活を守るためにも、この脅威は排除する必要がある。
「……よかろう。私も調査に協力しよう。まずは、襲撃されたミルトン村の現場を見て、情報を集める必要があるな」
私の言葉に、ボルガンの顔にわずかな安堵の色が浮かんだ。




