第15章7節: 多彩なる燻製の饗宴(蘊蓄その3:食材と燻製)
数時間後。
燻製器の扉を開けると、そこには見事な飴色に仕上がった干し肉――いや、もはや「自家製ベーコン」と呼んでも差し支えないほどの逸品――があった。滴る脂がキラキラと輝き、食欲をそそるスモーキーな香りが鼻腔をくすぐる。
早速、薄切りにして試食する。
「……っ! これは……!」
美味い。塩辛さは抜け、代わりに凝縮された肉の旨味と、燻煙材の芳醇な香りが口の中に広がる。食感も、以前の硬さとは比べ物にならないほど柔らかく、それでいて適度な歯ごたえがある。これは大成功だ。
勢いづいた私は、次々と様々な食材を燻製にし始めた。
まずは、村で手に入る鳥の卵。茹でて殻を剥き、醤油もどきと樹液で軽く味付けしてから燻製にする。いわゆる「燻製卵」だ。白身はプリプリとした食感を保ちつつ、黄身はねっとりと濃厚な味わいに。表面には美しい燻製の色と香りが付き、これもまた絶品だ。
次に、シルヴァミルで手に入れた銀マス(塩漬けにして干しておいたもの)。これも燻製にすると、水分が適度に抜け、身が締まり、保存性が高まると同時に、川魚特有の臭みが消え、上品な燻製の香りが加わる。皮目をパリッと焼いて食べれば、最高の酒の肴になるだろう。
森で採取した木の実(クルミやアーモンドに似たもの)も、軽く煎ってから燻製にすると、香ばしさが一層引き立ち、風味豊かなナッツになる。
さらに、アッシュウッド村の硬いパン。これを薄切りにして軽くトーストし、燻製したチーズ(これも試作中だったもの)を乗せてみたらどうだろう? スモーキーなチーズとカリカリのパン。想像しただけで、よだれが出そうだ。
「ハルカさん、すごーい! 燻製って、どんな食材でも美味しくする魔法みたいだね!」
リリアが、目を輝かせながら私の作業を見守っている。
「まあ、ものによるがな。燻製に適した食材、適した時間、適した温度、そして適した燻煙材の組み合わせ。それらを見極めるのが、燻製作りの奥深さであり、面白さでもあるのだよ」
私は冷静に応えつつも、内心では、次々と生まれる美味しい燻製たちに、まんざらでもない表情を浮かべていた。




