第14章13節: シルヴァミルでのささやかな宴と友情の芽生え
シルヴァミルでの調査も、そろそろ終わりに近づいていた。
数日間にわたる聞き取り、水質と土壌の簡易分析、湖の生態系の観察、そして例の発酵小屋と石碑の調査。それらの断片的な情報を統合し、私は湖の不漁と住民の活力低下に関する原因について、いくつかの結論に達していた。
まず、湖の不漁。これは複合的な要因が絡み合っている可能性が高い。
第一に、湖水の一部で検出された微量の重金属(鉛様物質)。
これが湖底の特定の鉱床から溶け出しているのか、あるいは人為的なもの(例えば、古い時代の廃棄物など)かは不明だが、魚類の生殖能力や稚魚の生存率に長期的な悪影響を与えている可能性は否定できない。
第二に、特定の種類の水草(私が「シルヴァウィード」と仮称したもの)の異常繁殖。
これは湖の富栄養化――つまり、生活排水や農業排水(もし存在すれば)による有機物や栄養塩類の過剰な流入――を示唆している。このシルヴァウィードが水中の酸素を過剰に消費し、また他の有用なプランクトンや水生生物の生育を阻害している可能性がある。結果として、銀マスなどの魚類の餌が減少し、個体数減少に繋がっているのではないか。
第三に、吟遊詩人の歌や石碑の記述が示唆する「乱獲」の歴史。過去に特定の魚(「星の鱗を持つ魚」?)を獲りすぎた結果、生態系全体のバランスが崩れ、その影響が数世代にわたって続いている可能性も考えられる。呪いというのは非科学的だが、過去の過ちに対する「自然からのしっぺ返し」と解釈することもできるだろう。
次に、住民の活力低下。
これは、不漁による良質なタンパク源の不足と、それに伴う全体的な食生活の質の低下が主因だと結論付けた。彼らの日常食を観察する限り、アッシュウッド村以上に炭水化物に偏っており、ビタミンやミネラルの不足も深刻だろう。精神的な落ち込み――長引く不漁への絶望感や、生活の困窮――が、さらに食欲不振や活動意欲の低下を招き、悪循環に陥っている。
例の発酵小屋の「発酵物」に含まれていた微量の毒性物質も、もし一部の住民が(知ってか知らずか)摂取していたとすれば、慢性的な体調不良の一因となった可能性も排除できないが、これは現時点では推測の域を出ない。
これらの分析結果と考察を、私は詳細な報告書としてまとめ、辺境伯とグレイアムに提出する準備を進めていた。
もちろん、この世界の技術レベルで即座に全ての対策を講じるのは難しいだろう。だが、原因を特定し、改善の方向性を示すこと。それが、今の私にできる最大限の貢献のはずだ。
私は、調査の礼として、そしてこの町の人々に少しでも元気になってもらいたいという思いから、宿屋の主人に頼み、ささやかな宴を開くことにした。もちろん、私が腕を振るう。
食材は、この町で手に入るものを使う。痩せてはいるが、丁寧に下処理し、ハーブと魔法で臭みを消した「銀マス」の香草焼き。湖で採れた水草を使ったサラダと和え物。そして、アッシュウッド村から持参した味噌もどきと醤油もどき、そして香辛料を使い、湖の小魚で出汁を取った「シルヴァミル風漁師汁」。
リリアとアリアも、私の指示に従い、一生懸命に手伝ってくれた。
最初は戸惑っていた町の住民たちも、料理の良い香りに誘われ、一人、また一人と集まってきた。そして、私の料理を口にすると、皆、驚きと喜びの表情を浮かべた。
「うめぇ! この魚、こんなに美味かったのか!」
「この汁物、体が温まる……!」
宴は、質素ながらも温かい雰囲気に包まれた。そして、その中で、リリアとアリアの間に、確かな友情が芽生えているのを私は感じた。最初は私を巡って張り合っていた二人だったが、共に旅をし、調査を手伝い、そして一緒に料理を作る中で、互いを認め合い、打ち解けていったのだ。
宴の終わりに、アリアがリリアに微笑みかけた。
「リリアさん、あなたと一緒で楽しかったですわ。また、アッシュウッド村にも遊びに行ってもよろしくて?」
「もちろん! アリアこそ、いつでも遊びに来てよ! 今度はあたしが、村の美味しいもの、ご馳走するから!」
二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑い合った。
いつの間にか仲良くなっていたようだ。やはり若い子の心は柔軟だ(私も見た目は少女だが)。
それを見ていると、私の心にも、ほんのりとした温かいものが灯るのを感じた。




