第14章11節: 発酵食品との出会い? それとも…
発酵小屋の発見は、私の研究に新たな光を投げかけた。私はグレイアムを通じて町の古老たちに聞き取りを行い、あの小屋と発酵食品について、何か知っている者がいないか調べ始めた。
しかし、意外なことに、町の住民のほとんどは、あの小屋の存在すら知らないか、あるいは「昔からある気味の悪い空き家」程度の認識しか持っていなかった。小屋で作られていた(と思われる)発酵食品を日常的に食べているという話も、全く聞かれない。
「どういうことだ? あれだけの量の発酵食品を作っていながら、誰も知らない、食べていないというのは……」
考えられる可能性はいくつかある。一つは、ごく一部の人間が、秘密裏に作っていた。あるいは、かつては作られていたが、何らかの理由で途絶え、小屋だけが残った。もしくは……あれは、食用ではない、別の目的で作られたもの?
私は採取してきた発酵物(?)のサンプルを、宿屋の部屋で慎重に分析した。pH、塩分濃度、微生物の観察(簡易顕微鏡で)。確かに、乳酸菌や酵母らしき微生物が確認できる
。そして、アミノ酸由来と思われる強い旨味成分も感じられる。これは、間違いなく発酵食品としてのポテンシャルを秘めている。
だが、同時に、微量の、しかし無視できないレベルの、何らかの毒性物質(アルカロイドか、あるいは特定の腐敗菌が産生したものか)も検出された。これは、発酵管理の失敗によるものか、それとも意図的なものか?
「……もしかすると、これは『食べるため』ではなく、『特定の儀式に使うため』あるいは『毒として利用するため』に作られたもの、という可能性もあるな」
そう考えると、住民たちが存在を知らないのも、あるいは意図的に秘匿されてきたというのも納得がいく。
食と禁忌、そして魔法。
この世界の謎は、一筋縄ではいかないようだ。




