9話 言い訳
宿屋の扉を開け、そのまま固まっている彼女の名はモモ。この町の冒険者で、数日前に俺と一緒に草むしりのバイトをした仲である。
「む、誰じゃこの小娘は。身なりからしてどうやら冒険者のようじゃが……グラクの知り合いか?」
俺と幼女の謎の組み合わせを見てフリーズしていたモモは、その言葉でハッと我に帰る。……どことなく嬉しそうなのは、アリスベルが彼女を女だと一瞬で見切ったことが理由だろうか。
「そうだよ、何日か前に同じ仕事をした同僚だ」
「アレは仕事とは呼ばんと言うとるじゃろうに…」
「まぁボクもそれには概ね同意するが………少し待ってくれ、今質問を整理する」
「ブルータス……ッ!」
顎に人差し指を当てて宙を見るモモは、30秒ほど時間をかけて考えをまとめている。…どうやら整理ができたようだ。
「まず聞きたいが、その子は誰なのかな?もしかして君の隠し子だったりして」
「なわけあるか!コイツは…………まぁ、成り行きで一緒に行動する事になったんだよ」
「ふーむ、じゃあもう一つ。この前のあれはなんだったんだい?あの神父さんがあんなに焦ってるところなんて今まで見た事無かったよ」
「あー…それは」
「実を言うと私は所謂やんごとなき立場というものでの、どうやらその為にあの神父を焦らせてしまったらしい。……まぁ、気にするようなことでも無いぞ」
「成程、よく見ると耳が尖っているし、エルフのお偉いさんだったりするのかな?…まぁ詮索はここらで辞めておくとしよう。国際問題というのは面倒らしいからね、妙な事に巻き込まれたくは無い」
やんごとなき立場とはよく言ったものだ。確かに高貴な立場(吸血鬼の中で)というのはあながち間違いでも無い、彼女は高等吸血鬼なのだから。とはいえ取り敢えずモモは納得してくれたらしく、次の質問は来なかった。ここアリスベルは感謝すべきなのだろう、多分俺にはこんな風にぼかして説明出来なかっただろうし。
「ええと、ちなみになんだけどさ」
「分かってる、クラリスの事だろう?」
俺はコクリと頷く。
「あの子は今任務の真っ最中さ、明確に言えばボクもなんだがね。ボクがここに居る理由は食料や回復薬の補充、それと他の冒険者へのサポート要請の為だよ」
そこで不安そうな俺の気配を察知したのだろうか、モモはなんてことないように笑いながらヒラヒラと手を振った。
「大丈夫だよ、クラリスに怪我は無い。ただ奴らに移動でもされたら厄介だからね、見張りとして残っているだけだよ」
ホッと息を吐く俺の隣で、妙に目を爛々とさせているアリスベルがモモに話しかける。
「奴ら、とは一体なんのことじゃ?さては中々の強敵だったりするのではないか?」
急に話に食い付くアリスベルを見て少し苦笑すると、モモはあっけらかんとした表情になる。
「強敵では無いね。ただ、面倒臭いというのが最も当てはまる言葉だろうか」
俺とアリスベルは彼女が立てた人差し指に目線を集中し、話の続きを待つ。
「依頼内容はゴブリンの集落の偵察、並びに奴らの一斉駆除さ」
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「なぁ、聞きたいことがあるんだけど……」
「なんだい?まぁ物にもよるが、気軽に聞いてくれて構わないよ」
俺たちは今、町の外にある山道を歩いている。ゴブリンの集落が形成されたのは、少し離れた場所にある広場らしく、そこに行くには小さな山を越える必要があるのだと。
「やっぱり冒険者って辛い事とか多いんだろ?そういった事をコイツに教えてやって欲しいんだよ」
そう言って指差した先には、俺の隣で気楽そうに歩いているアリスベルがいる。これから大勢のゴブリンを抹殺しに行くというのに随分と余裕そうだ。
「うーむ…そうだね、まずその為には冒険者という仕事が何故存在するのかを説明する必要があるだろう」
「ああ、頼む」
「まず大事なのは、冒険者は税金が免除されるという事だ。これは前にも話しただろう?」
「そうだな」
「それじゃあ、この特権を最も望むのはどんな人達だと思う?」
免税を最も望む人達?そんなの……
「やっぱ商人とかなんじゃないか?自分が稼いだ金を取り上げられるのなんて1番嫌がりそうだし」
「確かに彼らも欲しがるだろう、だが危ない目にあってまでは欲しがらない。正解は貧乏な農民だ」
「農民…?」
「子供に受け継がせる程の畑を持っていない、しかし子供は多い為食費はどんどんと減っていく。そんな農民からすれば、免税の2文字はよほど輝いて見えるだろうね」
「それで冒険者に…」
「しかし、そんな美味い話はある筈が無い。田畑を継ぐ長男以外の子供達、彼らは自身の税金を無くす為に冒険者となり、そしてギルドから課される任務によってその命を散らしていく。…言ってしまえば、これは非常に効率の良い口減しなんだ。」
「………なるほどな」
「つまり逆に言えば、それ程難しい任務が存在しているという事だね。それと…かなりの高頻度で発生する依頼の引き受け義務も、冒険者の死傷率に繋がっていると言えるだろう」
俺達は昼頃にゴブリンの集落に到着し、それまで冒険者の過酷な実態を聞き続けた。
モモから聞いた冒険者の実態一覧
・農民の内、殆どの場合は次男や三男が冒険者となり、高い税金を払わずに済む代わりに任務でその命を散らす。
・任務の例としては、モンスター退治や薬草の摂取、悪徳な団体の調査などがある。農民出身の初心者にはあまり難易度の高いものは任されないが、ゴブリンやオークなどとの戦闘での殉死率は高い。
・冒険者を始めるのは大体10代半ば〜後半程度が多い。そこでギルドに入れたり師匠を見つける事が出来れば生き残れる可能性が上がるが、基本それは幸運な一部だけである。
など……




