6話 原木
食事の後仕事に戻り数時間働いた俺達は、その分の給料をもらって帰路についていた。
「そこそこ稼げたな。でもやっぱモンスターぶっ殺して金稼ぐ方がアタシにゃあ合ってるわ」
「まぁそっちの方が給料もいいしね。ただ安定しないし危険も多いっていうデメリットはあるが」
もらった銅貨が入った袋をブンブン振り回すクラリスと、中身を何度も数えて確認するモモ。これだけでも2人の性格がよく分かる。
「そういや、2人はなんで商人ギルドで仕事貰うことになったんだ?冒険者の依頼がなかったとか?」
「あぁそれは、今ボクの剣を手入れに出しているからさ。剣無しでも戦えなくはないが、やっぱり無いと少し不安だからね」
「へー、やっぱそういうのも大事なんだな」
「そういうアンタはなんで草むしりを?さっきは聞いてなかったが」
クラリスは振り回していた袋をポケットに突っ込み、こちらを向いてそう問う。
「商人ギルドに冒険者ギルドからの紹介状を渡したらんだけどさ、出された3つの候補の中で出来そうなのが草むしりだけだったんだよ」
それを聞いた2人はなんとも言えないような顔になった。
「ウーン…そういや旅人だったね」
「そりゃしょうがねぇか、無法労働か草むしりかだったら後者一択だろうよ」
「ハハハ……」
どうやら、この町での旅人への扱いの酷さは共通認識なようだ。眉を下げる2人を前に、俺は最早乾いた笑いしか出ない。
「ま、元気出せよ!どこもこんな感じってわけじゃねぇだろし、逆にここの町民権取っちまっても良いわけだしな!」
「町民権なんて取れるの?」
そう聞いてみると、反対側のモモから答えが返ってくる。
「ああ、例えば領主様にある程度のお金と、これから税金を払うっていう契約書を書いて送るというのが一般的だね。あとはなにか目覚ましい活躍をして名誉町民になるなんて変わった手もある。ただ一番簡単なのは、やはり冒険者になることだろう」
「冒険者か……あんまり危険な目にはあいたくないんだよなぁ」
「なーんだそんな弱っちいこと言ってよぉ!冒険者は良いぜ?好きなだけ暴れられるし給料も悪かない。それに、なんてったって税が免除されっからな!」
そう言って笑って肩を組んでくるクラリスに力強く引っ張られ、俺はバランスを崩しそうになる。確かにこの腕力があればモンスターを狩ることも余裕だろう。
「税金免除か……」
「良い響きだろう?命をかけて戦うボクらへの、国からの報酬ってやつさ。まぁだからこそ、モンスターに殺されるルーキーがじゃんじゃか増えているわけだが」
「世間はそこまで甘くないってことか……」
そう呟く俺に、モモが肩をすくめる。
「ん、もうそろそろ宿に着きそうだな」
「そう言えば君もボクらと同じ宿だったよね、あそこは安いのにパジャマやらクリーニングサービスやらが付いてて本当にお得だ。ボクらがこの町に止まる理由の8割くらいがあの宿だよ」
「……………あ」
「そういや昨日誰かさんがめちゃめちゃ叫んでたな。アタシ達の部屋にまで響いてたぜ?声聞いてまさかと思ったが………その反応はスボシだな?」
「悪夢でも見てしまったのかい?なんだったら今日はボクが添い寝でもしてあげようか?今日だけ特別、出血大サービスだ」
脳裏に"アレ"が浮かぶ。違う、そうじゃない。あれは"アレ"じゃない、山盛りの柘榴かなにかだ。うん、そうに決まっている。
「ヒャヒャヒャヒャ!オメーじゃ枕にゃあ固すぎるだろぉ!?原木抱いて安眠するヤツなんていねぇだろさ?」
「フフフ、冗談だよ。でも君のそれは冗談じゃ済まないがね」
山盛りの柘榴?馬鹿言え、あんなんがスーパーに並んでたら発狂モンだろ。世紀末でもなかなかないぞ、そんなの。
「………なぁオイ、大丈夫かよ?顔色ワリーぜ?」
「…ああ、それに息も荒い。体調が悪いなら早く休んだ方がいいだろう」
嗚呼分かっている、アレが"何"かなんて。でもそれを理解してしまったら、俺は多分正気じゃいられないだろう。なんでって?理解しきれないからさ。矛盾しているように聞こえるが、きちんと成り立っている。
……つまりアレだ、"なぜ"とか"なんで"とかは分からなくても、状況理解はできる。そして、それができてしまった場合、未知が襲ってくる。そういうことだ。人間ってのは、未知を何よりも恐れる。俺だってそうだ、みんなそうだろう。そういうことだ。そういうことなんだろう。
「畜生、最悪だ……………」
「うん?…なんだって?」
すると突然、俺を呼ぶ声がした。




