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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第94話 アクティの救出

サマーセット領都の片隅にある赤牛亭。酔客の笑い声と木卓を叩く音が響く中、ルークスたちは奥まった席に座り、例の人物を待っていた。


事の始まりは数日前。酒場で情報をくれた庭師に、少しばかりの金を握らせ、秘密裏に手紙をハスラーに渡させたことだった。


その手紙はハスラーの元へ届けられ、赤牛亭での密会に繋がる手はずとなっていた。


やがて、扉を押し開けて入ってきた男――ハスラーが周囲を警戒するように目を走らせる。痩せた顔立ちだが、背筋は伸びており、ただの従者とは思えぬ落ち着きがあった。


すぐにルークスが席から立ち上がり、手を上げて合図する。


「こっちだ。安心しろ」


「……あれ? おい、まさか……ジールじゃないか!」


ハスラーの目が見開かれる。驚きと戸惑いが混じった表情で、ジールを凝視した。


「ジール……!? 本当に……お前なのか」


二人は思わず駆け寄り、固く握手を交わした。


「やっぱりか、ハスラー、お前だと思ってたよ。久しぶりだな! まさかこんなところで再会するとは」


「俺もだ……もう二度と会うことはないと思っていたがな」


ルークスとトレノは顔を見合わせた。


「知り合い……だったのか?」


ジールは苦笑しながら頷く。


「昔、ちょっと世話になったことがあったんです。多分、そうだとは思っていたんですが、万が一赤の他人ということもあるかと思って。でも、コイツは確かに信頼できる男です」


ハスラーも深くうなずくと、全員と共に卓についた。



ルークスは隠さず切り出した。


「腹を割って話そう。――俺たちはビック領の者だ。攫われたアクティ嬢を救出に来た」


ハスラーの表情が一変した。


「……アクティ嬢を……お前たちが……!」


ジールが間に入る。


「ハスラー、この人たちは信用できる。話してくれ」


しばし逡巡したのち、ハスラーは小さく息を吐いた。


「……分かった。実を言うと、アクティ嬢はうちで預かっている」


全員が息を呑む。ハスラーは声を潜め、続けた。


「あの子が連れて来られた時、クリッパーの奴が言ったらしいんだ。『万年騎士爵の小娘。兄のヴェゼルもハズレ魔法しか持たないクズ』とな」


トレノの拳が卓を叩いた。


「……なにっ……!」


「アクティ嬢は反論した。だがクリッパーに殴られ、気を失った。父スタンザは人質として利用するつもりだったが……クリッパーは鼻で笑い『どうせすぐ潰れる領だ。人質なんて不要。魔物の餌にでもしろ』と、スタンザの命令を無視してそう命じたそうだ」


怒気が立ち込める。トレノが低く唸った。


「最低の連中だな……」


「兵士は怖気づいたのか、俺に押しつけてきた。だから主のローグ様に相談して、保護して手当てをした。今はローグ様と奥方のアルト様、息子のスイフト様と共に過ごしている。特にスイフト様とは同じ年で仲良く遊んでるよ」


ルークスは安堵と怒りの入り混じった声を漏らす。


「……無事で良かった」


だが、ハスラーは顔を曇らせる。


「だが状況は悪い。戦が始まり、領館の警備は厳重だ。あの娘を連れ出すのは容易じゃない」


沈黙。重苦しい空気が流れる。


ルークスが顎に手を当てて呟いた。


「……何か突破口は?」


ハスラーは小声で続けた。


「数日後にアルト様の実家の子爵家の者がここへ来る。ローグ様が幽閉されたと聞いて、弟君が様子を見に来るらしい」


ジールが身を乗り出す。


ハスラーが言う「……子爵家の弟殿なら、話が通じると思う」


「その時を狙おう。子爵家の弟を味方につければ、内部への侵入は可能だ」


トレノが拳を握る。


「やるしかないですね……」


ルークスは一同を見回し、力強く言い切った。


「決まりだ。――俺たちは領館に潜入し、アクティを救い出す」


ジールも「やりましょう!」と笑みを浮かべ、ハスラーは静かにうなずいた。


「……あの子のためだ。俺も全力で協力しよう」


赤牛亭の卓上で、密やかに救出は計過された。


数日後の潜入と決戦を胸に、彼らはその時を待つことになる。







領館の離れでは、スイフトとアクティが無邪気に遊んでいた。玩具を手に取り、笑い声を響かせる二人の姿は、戦争の影を忘れさせるかのようだ。


ただし、アクティの頭には包帯が巻かれており、少し痛々しい印象を与える。



ローグとアルトは、その光景を穏やかに見守っていた。アルトはそっと微笑み、ローグは安堵の息を吐く。


「よかった……頭の怪我も、どうやら跡が残るほどではなさそうだ」


アルトも頷く。


「本当に。あの子は強いわね」


ローグは静かに呟く。


「それにしても、父スタンザと、弟クリッパーには困ったもんだ……」


アルトが眉を寄せる。


「どうしたの?」


ローグは少し苦い笑みを浮かべる。


「現状、領自体も税率が上がって、領民の生活も困窮していると聞く。父上もクリッパーも、贅沢三昧の生活だ。領民があってこその貴族だというのに、そのことを完全に忘れている」


アルトは頷き、低くため息をつく。


「……本当に、民を守るどころか、領民の苦しみもお構いなしなんですね」


ローグはさらに続けた。


「ましてや、何の落ち度もないビック領に因縁をつけて戦争を仕掛けるとは……。たとえ勝っても、他の貴族からは軽蔑されるだろうし、無理矢理に制圧したビック領の統治もうまくいくはずがない」


そのとき、静かに扉が開き、ハスラーが姿を現す。緊張感を漂わせつつも、表情は落ち着いていた。


「ローグ様、アルト様」ハスラーが小声で告げる。


「ビック領の者たちが、アクティ嬢の救出に来るそうです」


ローグが顔を上げる。


「……本当に?」


ハスラーは頷く。


「ええ。数日後、アルト様の実家の馬車の護衛として、この領館に訪れることになります。その時に、アクティ嬢をこっそりお引き渡しして、ビック領に連れ帰ってもらう予定です」


アルトは目を見開き、一瞬息を呑む。


「……それって……アクティには言わないの?」


ハスラーは静かに首を振る。


「まだ幼いですし、驚かせたり不安にさせる必要はありません。今回の計画は内緒にしておくのが最善です」


ローグも頷き、遊んでいるアクティを見つめる。


「そうだな……無事に連れ戻してやるまで、あの子には何も知らせず、笑顔を守ってやろう」


アクティは無邪気に笑いながらスイフトと遊び続ける。頭の包帯も、彼女の笑顔の前では気にならないようだ。


アルトはハスラーに目を向け、静かに言った。


「……頼むわね。絶対に無事に連れ帰って」


ハスラーは軽くうなずき、決意の色を滲ませた。


「もちろんです。全力で守り、必ず安全に連れて帰ります」


ローグとアルト、そしてハスラーの視線が交わる。


戦争の影が迫る中、ひと時の穏やかな空間で、彼らは固く心を結んだ。アクティの無垢な笑顔を守るため、計画は静かに、しかし確実に進行していくのだった。





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