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第91話 戦場でヴァリーが無双している頃(そこそこグロいシーンがあります)

前線のリードの修羅のような猛攻に、本陣を守っていた兵士たちすら投入せざるを得なかった。


そして、それを待っていたかのように、空に眩い閃光が貫いた。


今回だけはヴァリーの放ったオレンジの魔力の奔流。


――その閃光はまるで天の雷撃のように戦場を照らし出してた。




敵本陣裏。そのオレンジ色の雷撃がヴェゼルたちへの突撃の合図だった。



「今だ――!」


ヴェゼルは喉を裂くように叫び、全身をばねのように弾き飛ばした。全員が顔を布で覆った状態だ。左手にはいつもの箱を握りしめて。


距離、約百メートル。


その短いはずの間合いが、永遠のように長く感じられる。しかし、敵本陣から見れば、それは悪夢の疾走。


先頭を駆けるのはグロムだった。


「おおおおおおッ!」


雄叫びと共に両腕で陣幕を力任せに押し倒す。支柱が折れ、分厚い布が地面に崩れ、敵兵の視界が一瞬にして覆われる。


次の瞬間。


ヴェゼルは左手の収納箱から、あの商人が村民に売りつけた「粗悪な塩袋」を掴み、そのまま敵本陣へと放り投げた。


白い粉が空気に舞い上がる。目に入れば焼けるように痛み、肺に吸い込めば喉と胸を焼き裂くような感覚が広がる。


「な、なんだこれは!?」「目が、目がァ!」


狼狽する参謀たちの顔に恐怖が浮かぶより早く、ガゼールの火矢が空を裂いた。


轟音が轟く、白煙が青白い炎へと変わり、本陣を丸ごと飲み込んだ。


悲鳴と爆炎。参謀の一人は全身を火に包まれ、骨が軋む音を立ててその場で焼き崩れた。


別の兵は、顔面が真っ赤に膨れ上がりながらも声にならぬ断末魔を上げる。


「ひ、ひぃぃっ!!」


その惨状をものともせず、グロムとガゼールは飛び込む。


「退けえええええッ!」


グロムの大剣が参謀の首を撥ね飛ばし、血飛沫が舞う。


ガゼールは槍で別の兵を胸から串刺しにし、息絶える前にその体を蹴飛ばした。


血と炎に包まれる本陣。


その只中を駆け抜け、ヴェゼルはついに実用的ではない煌びやかな軍装をした場違いな子供の眼前に立った。


「クリッパー!」


クリッパーは剣を抜き放ち、怒気を込めて虚しく叫ぶ。


「くっそー!万年騎士爵息子風情がっ!」


ヴェゼルも叫ぶ。「この場で直ちに降伏しろ! クリッパー!命だけは助けてやる!」


しかし、クリッパーの顔に浮かんだのは恐怖ではなく、狂気の笑みだった。


「ははは! ハズレ魔法の小倅ごときに、誰が屈するか! アビーも俺がいただく! 今頃お前の妹は魔物の餌だ! 貴様もすぐに同じ運命を辿るんだよ!!」


その言葉。


ヴェゼルの目が血走り、怒りが頭のてっぺんまで燃え上がった。


「貴様ァーーーーーー……ッ!!」


剣を握る手が震え、怒りに視界が赤く染まる。


ヴェゼルは即座に剣を投げ捨て、右手で収納スキルを発動。


――クリッパーの右手首が瞬時に消えた。


「ぎゃあああああああああああッ!!」


絶叫。


鮮血が噴水のように吹き上がり、肉片と骨が地に叩きつけられる。


続けざま、左膝を収納。


バキンッと乾いた音と共に、膝下が切り取られたように消え失せ、残った大腿骨が皮と肉を裂きながら地面に崩れ落ちた。


「うぎゃああああッ! やめろォ! やめてくれぇええええ!」


血と涙と涎を垂れ流し、クリッパーは地面を這いずる。


その惨状に本陣の兵たちすら後ずさりし、誰も声を上げられなかった。


「降伏しろ……今すぐ、命乞いをしろ!」


ヴェゼルの声は怒号というより咆哮だった。


クリッパーは、とうとうその心を折られた。


「た、助けてくれ! 降伏する! 降伏するから……殺さないでくれええええ!」


無様に泣き叫び、地に額を擦りつける大将。


だが、それでも怒りの炎は収まらなかった。


「……いや、許さない……!お前はそう言われて、許したことがあるのか!」


ヴェゼルは右腕を振りかざし、左手で握っている収納箱へと心臓に対象を定めた。


クリッパーの胸に鋭い痛みが走り、心臓が引きずり出されるその瞬間――。


「ヴェゼル!!」


グロムが腕を掴んだ。


「そこまでだ! 殺すより人質にした方が価値がある!それにこんな虫ケラを殺すことに価値などない!」


「離せ! こいつだけは……!」


「ヴェゼル! 我を忘れるな!」


ガゼールの叫びが響き、ヴェゼルの意識に冷水を浴びせかける。


その刹那、彼は我に返った。


呼吸が荒く、手は震え、右手はまだクリッパーに向けられていた。


だが、ついに右手を下ろし、収納スキルを解除した。


血まみれで転がるクリッパーをグロムが拘束し、ガゼールが声高に叫ぶ。


「敵将を捕らえた! 武器を捨てろ! 今すぐ投降しろ!」


その声は周辺の戦場に響き渡った。炎に照らされた戦場に、沈黙が訪れる。




――その時。


「おおおおおおッ!!」


返り血に塗れたフリードが、戦場を切り裂いてヴェゼル達に合流した。


全身は赤黒い血に覆われ、髪も顔も滴るほどの血で濡れている。


その眼光はなおも燃え盛る。そして、この本陣の様子をフリードはすぐに理解し、剣を掲げて叫んだ。


「俺たちビック軍の勝利だああああああああ!!」


その声は雷鳴のように轟き渡り、味方の胸を震わせ、敵の心を粉砕した。


味方兵士たちは歓喜の叫びを上げ、武器を掲げて勝鬨をあげる。


「勝った! 俺たちが勝ったぞ!」


「百人で……五千を……!」


「ビック領万歳! フリード様万歳! ヴェゼル様万歳!」


戦場は歓声と涙と安堵に包まれた。


この戦――。


百対五千。


誰もが不可能と思った戦いは、ビック領の勝利で幕を閉じた。


そして、歴史に刻まれる、空前絶後、前代未聞の戦果として。




「目が、目がァ!」のセリフがでると、

「時間だ、答えを聞こう」とか、

「次は耳だ!跪け!!命乞いをしろ!!」とか、

「人がゴミのようだ!」 とか言いたくなる性。。

だから「3分間待ってやる!」と言れたら「40秒で支度しな!」と言ってしまう。


ん??


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