第79話 弟子?誰が誰の? 以下略
講義が二人制になった日。
ヴェゼルは、なんともいえない複雑な気持ちで机の前に座っていた。
――右側には、期待に満ちた目でノート(自作の羊皮紙)を抱えて座るアビー。
――左側には、なぜか帽子までかぶって“授業参観全力モード”のヴァリー。
「……なんか、俺、すごい重圧なんだけど」
「大丈夫だよヴェゼル!」
「よろしくお願いします先生!」
「いや、俺まだ六歳だから!? 『先生』って呼ばれる筋合いないんだけど!?」
ツッコミも空しく、二人のやる気はMAXである。
「まずはじめに今からはじめる講義は他言無用! なおかつ、この知識を得ても、魔法の威力が上がるとは断言しないからね!」
コクコクと頷く二人。
仕方なく、ヴェゼルはいつも手に持っている収納箱を斜めがけにかけているバッグにしまう。
そして、チョーク代わりのペンを手に取り、黒板代わりの大きな羊皮紙に字を書き始めた。
◆ 火の魔法(燃焼と酸素)
「まずは火から行こうか。一昨日も少し言ったけど――火ってのは燃えるために“燃料”と“酸素”が必要なんだ」
「ほうほう」
「酸素……つまり空気を多く取り込むと……?」
「そう! 燃焼温度が上がって、炎の色が赤から黄色、さらに青や白っぽくなっていく」
そう言ってヴェゼルはチョークのような枝で、赤い炎→黄色い炎→青い炎、と三段階のイラストを描いた。
(絵心は小学生並みだが、勢いは十分だった)
「なるほど! つまり……酸素を“意識的に”取り込むと火力が上がるのですね!」
ヴァリーの目がギラリと光る。
「そうそう。ただし、やりすぎると爆発するから注意して」
「爆発!? きゃあっ! でも素敵っ!」
「おい待て、なんでときめくんだよ!?」
◆ 風の魔法(気圧差と流体力学)
「次は風だね。風は、ざっくり言うと“気圧差”で生まれる」
「きあつさ……?」
「高いところから低いところに流れる力のことだよ」
ヴェゼルは指で机にあるカップを二つ並べる。
片方のカップに息を吹き込み、もう片方に手をかざす。
「ほら、こうやって空気を押し出すと、もう一方に流れが伝わる。
つまり“風は空気が押し出されて流れるもの”なんだ」
「なるほど! ということは……風魔法を使うとき、“押す”よりも“差を作る”イメージをすればいいんだね!」
「おお、理解早いなアビー!」
「はい!」
「くぅぅぅ! ヴェゼル様に褒められてるぅぅ! 私も頑張らなきゃ!」
ヴァリーはノートをガリガリ書き込み、時折「ふへへ……」と謎の笑みを浮かべている。
(やべぇ……完全に“推し活”の顔してる……)
◆ 土の魔法(成分と性質)
「次は土だな。これはシンプルだ。土にもいろんな種類があるんだよ」
「種類?」
「うん。粘土、砂、石、鉄分を多く含む赤土……それぞれ特性が違う。
例えば粘土は柔らかくて形を変えやすいけど、焼けば硬くなる。鉄分を多く含めば、熱に強くなる」
「おおぉ!」
「つまり、土魔法で扱う素材を意識すると、防御壁の硬さや耐久性を調整できるのですね!」
「そうそう! ただの“土”じゃなく、“何の土か”を意識するだけで格段に精度が上がる」
「うわぁぁぁ、これまでの私の魔法って、ただ“土出せー!”ってやってただけでした! 恥ずかしいぃ!」
「いや、それ普通だから。みんなそうだから」
「ぐふふ……これで私も硬い壁を出せばヴェゼル様に“頼もしい”って言ってもらえる……」
「おいヴァリーさん、声に出てるぞ」
◆ 水の魔法(温度と水圧)
「で、水。水は温度によって性質が変わる。100度で蒸気、0度以下で氷になる」
「え、そんな簡単に……?」
「そう。しかも“圧力”をかければ、水はとんでもない力になる。高圧洗浄機って知ってる? 水でも鉄を切れるんだよ」
「鉄を……切る!?」
アビーとヴァリーの瞳が同時にギラリと光る。
「そう! だから“冷やす”だけじゃなく、“圧をかける”“温度を変える”ってイメージを持つと水魔法は一気に幅が広がる」
「なるほどぉぉ!」
「熱して蒸気にして爆発的に……ひゃあああ! これは応用し放題です!」
「いや待て、応用しすぎると街ひとつ吹っ飛ぶからな!? 俺責任取らないからな!?」
◆ 聖の魔法(人体と自然治癒)
「最後は聖。これは少し難しい。
聖魔法は“治癒”が基本だけど……人間の体の仕組みを意識すると精度が上がる」
「体の……仕組み?」
「うん。血は心臓から送り出されて、全身に流れてる。だから止血するなら“流れを抑える”イメージをするといい。
あと、体には“自然治癒力”があって、傷は時間が経てば治る。だから断言はできないけど、魔法はそれを早めるだけなんだと思う」
「なるほどぉ……今まで“治れ!”って念じてただけでした!」
「俺のイメージとあんま変わらん!」
「ふふふ……ヴェゼル様の講義……尊い……」
「ヴァリー、また声漏れてる」
◆ 実験タイム
「じゃあ、ちょっと試してみようか」
ヴェゼルの一声で、アビーとヴァリーが同時に立ち上がる。
まずは火。
アビーが酸素を意識しながら火球を放つと――
ボッ! と青白い炎が現れた。
「わぁぁぁ!」
「すごい! 本当に色が違う!」
ヴァリーも負けじと炎を放つ。
ゴォォォォッ!!
壁が焦げるほどの高温火炎。
「ひぃぃぃ!? ストップストップ!!」
「す、すみませんっ! でもすごいです!! こんな炎見たことない!」
次は風。
アビーは気圧差を意識して放つと、突風が一直線に走り抜け、机の上のカップを吹き飛ばした。
ヴァリーはさらに発展させて、風の刃を生み出す。
「わわっ、紙が全部切れちゃったぁ!」
土ではアビーが硬い壁を出現させ、ヴァリーは鉄分を意識して赤みのある岩を作り出した。
水では、アビーが氷の槍を、ヴァリーが蒸気爆発を生み出す。
最後の聖魔法では、アビーが自分の小さな切り傷をすぐに治し、ヴァリーはヴェゼルの指先のささくれを一瞬で消した。
「すごい! 本当に威力が全然違う!」
「革命です! 魔法の常識が変わりました!」
二人は息を切らしながら、しかし満面の笑みを浮かべていた。
「ヴェゼル様ぁぁぁ!」
ヴァリーは両手でヴェゼルの手を掴み、そのまま叫ぶ。
「歳の差17歳なんて関係ありません! ぜひ私を……お嫁にしてください!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
アビーの悲鳴が教室に響いた。
「ちょ、ちょっとヴァリーさん!? いきなり何言ってるんですか!?」
「だって! この知識をくれる人なんて世界にヴェゼル様しかいないんですよ!? 絶対に! もはやこれは恋です! 愛です! 永遠の契約なのです!!」
「やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」
だがヴァリーの目は本気だった。
そしてアビーも負けじと立ち上がり、顔を真っ赤にして叫んだ。
「あ、あくまでも第一夫人は私だからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ポケットからは「アビーは第二!」と怒号が聞こえる。
こうして教室(というか大広間)はカオスと化したのだった。
おぅ、、、ヴァリーさんの話が書ける!!書けるぞ!!
ってか、こういう、わちゃわちゃは書いてて、たのしーーー。。




