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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第70話 商人の暗躍

実りの秋がやってきた。


そろそろ今年も恒例のお祭りが始まる頃に、一通の手紙がヴェゼルに届いた。


アビーからの手紙には、彼女自身の残念そうな気持ちがにじんでいた。


――「本当はみんなと一緒に祭りを楽しみたかったのに」


だが、彼女が欠席する理由は特別なものだった。


アビーは希少な存在として五属性の魔法を授かっており、その才を帝国の魔法省に注目されていたのである。


今は帝都から派遣された専門の講師が屋敷に滞在し、日々厳格な指導を行っている最中だった。自由に外へ出る時間もほとんどなく、ましてや祭りに足を運ぶ余裕などなかった。


それでも手紙には「村の皆が笑顔で過ごせますように」と添えられていた。遠い場所にいても、アビーの心は確かに仲間たちの、そして自分の傍にあった。




黄金色に染まった畑には、鎌を振るう村人たちの笑い声が響き、山々からは紅葉が降り始めている。例年にも増して豊かな実りがあったことで、村全体が明るい雰囲気に包まれていた。


「今年は大豊作だな! これで冬を安心して越せるぞ!」


そんな声があちこちで上がり、子どもたちも籠を抱えて畑を駆け回っていた。


――しかし、その幸福な空気に、ひとつの影が差す。


ある夕暮れ、領館にやってきたルークスの顔は、刈り入れを喜ぶ村人たちとは対照的に渋い色に曇っていた。


「どうした、ルークス?」


迎えたフリードが声をかけると、ルークスは深く息を吐いた。


「実はな……サマーセット伯爵領の沿岸で魔物が跋扈しているらしい。そのせいで海水からの塩の生産が滞り、この辺りで出回る塩の値が跳ね上がってる。だが妙なんだ。他の領ではそこまで聞かないのに、このビック領周辺だけが極端に値上がりしている」


場に居合わせたオデッセイが、唇をきゅっと結んだ。


「つまり、誰かが意図的に供給を絞っている……そういう可能性もあるわけね」


嫌な予感を抱えつつ、領館では備蓄の点検や、代替の調味料の確保が急務となった。






それから数日後。


街の見回りをしていたグロムとカムリが、険しい顔で戻ってきた。


「まずいことになった」


グロムは机の上に小袋を放り出した。中には白い粉が詰まっている。


「流れの商人が来てな。大量の塩を安く売ると言うもんだから、村民が飛びついたんだ。見本は確かにそれなりの品質だった。だが……各家に届いた品は粗悪品だった。吐き気や下痢を訴える者が続出している」


ヴェゼルは眉をひそめ、袋を手に取った。すぐに鑑定してみる。


浮かび上がった文字列を見て、一同は息を呑んだ。


「硫酸銅……水酸化マグネシウム……カドミウム……亜鉛…マグネシウム…そして、ごく少量の塩化ナトリウム」


ヴェゼルの声は硬い。


「これは……塩じゃない。体を壊す“毒混じりの鉱物粉”ですね」


「なんだと……!」


フリードの怒声が響いた。


「商人はどこへ行った!?」


「売ったその日に領を出たらしい。足取りも掴めていない」


グロムが悔しげに拳を握った。


――領を狙った悪質な仕業。


場の空気が一気に重くなる。





それからさらに二日後。


今度はルークスが、隣村ビートル村の村長と数人の村人を伴って領館に現れた。彼らの顔は青ざめ、今にも倒れそうなほどだった。


「どうしたのだ、皆……」


フリードが立ち上がる。


村長は震える声で語り始めた。


「……ルークス殿の代理と名乗る者が来ましてな。余剰のひえやあわを買い取ると言うので、信じて渡してしまったのです。馬車にして五台分……」


ルークスの顔が見る間に怒りで紅潮した。


「俺はそんな話をしたことはない。代理人など立てた覚えもない。これは、完全に詐欺だな……」


村民の一人が泣きそうな声を上げる。


「今日の朝、代金の相談をしようとルークス殿に伺ったら、何も知らぬと言われ……わしら、まんまと騙されたのですか……」


場は一気に凍りついた。


穀物を失った衝撃と、村人を守りきれなかった悔しさ。


「安心せよ」


重い沈黙を破ったのはフリードだった。


「領として、その損失分は必ず補填する。村民が飢えることはない」


村長たちは深々と頭を下げたが、その顔からは不安の色が消えない。




フリードは拳を震わせながら言った。

「このままでは済まん。塩の件といい、今回の詐欺といい……狙われているのは間違いない。この領そのものが標的だ」


オデッセイが深刻な表情で頷く。


「偶然にしては出来すぎている。誰かが背後で糸を引いているとしか思えないわ」



ヴェゼルは唇を噛んだ。


祭りを楽しみにしていた村人たちの笑顔が脳裏に浮かぶ。


――あの笑顔を曇らせてはならない。



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