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第69話 領の運営と流民対策

ビック領の豊作と好景気の噂は、秋風のように広がるのが早かった。


「ビック領のホーネット村やビートル村がにぎやかになってきたぞ」


「商人も流民も、みんなあそこを目指してるらしい」


と、近隣の村々でも話題になり、人の流れは日に日に大きくなっていった。


もちろん、良いことばかりではない。


道端には行商人が勝手に荷を広げ、路地は混雑。物乞いと商人の声が入り交じり、治安の悪化も懸念される。領主館にも「どうするのか」と相談が舞い込んできた。



そんな折、領館で会議が開かれた。オデッセイとフリードの前に立ったのは、まだ若いヴェゼル。


「お母さん。流民を受け入れるには、“長屋”という仕組みがよいかもしれません」


「ながや?」とオデッセイは小首を傾げる。


ヴェゼルは、まるで学者のように語り出した。


壁を共有すれば建築費は安く、狭い土地にも建てられる。隣人同士は近いから助け合えるし、戸ごとに仕切れば個人の空間も保てる。不審者がいればすぐに気づけて、防犯にも効果的。


「要するに、お金も手間もあんまりかからない上に、住む人も安全ってことです!」


オデッセイは、ぽんと手を打った。


「なるほど! 良い考えね」


フリードも腕を組んでうなずく。「なるほど、理にかなっているな」


こうして即決。ビートル村に長屋が建設され、流民には畑が与えられた。領主館からは穀物が貸し出され、収穫が出た時に少しずつ返す仕組み。いわば農民育成プログラムである。



だが問題は、ホーネット村のごった返す商人たちだった。


「ねえ母さん、露店ばっかりじゃ危ないし、道も通れなくなるよ」


「そうなのよねぇ」とオデッセイは頭を抱える。


そこでヴェゼルは再び手を挙げた。


「なら、“商人用のモールを作りましょう! 屋根付きで、居住もできる簡易宿泊所付きの貸店舗です!」


「……商人モール?」


「そうです! 商人の長屋です!一箇所にまとめれば防犯も楽だし、人も自然に集まって商売繁盛!」


「いいじゃない!」オデッセイは二度目の即決。


フリードも、「息子よ、発想が商売人じみてきたな」と苦笑いを漏らした。


こうして、ホーネット村に新たな商業の核が生まれた。



完成した長屋とモールを見に来たヴェゼル。


ヴェゼルの顔からそっと顔を出しひそひそと囁く。


「ねえ、あの流民の中に変なのが混じってるよ。あの商人も、やたら落ち着いてて怪しい……」


「まあまあ、色んな人が来るからね」ヴェゼルは苦笑い。


「……絶対なんかあるってば!」


サクラは人の流入が多くなったので、最近はオデッセイに諭された事もあって、人前にあまり出なくなったのだ。


妖精の勘は鋭い。しかし残念ながら、この時は誰も耳を貸さなかった。



領地の拡大とともに、館も忙しくなった。


「人手が足りないぞ」という話が出た時、ルークスが声を上げる。


「昔世話になった一家が流民の中にいるんだ。信用できる連中だ。ここで雇ってやらないか?」


そうして現れたのが――ジール一家。

ジール(35歳):がっしりした体格の元商人。頭が切れ、事務も人の扱いも得意。

アルテイシア(30歳):おっとり妻。侍女仕事を淡々とこなす。

セロー(10歳):元気いっぱいの娘。


セローは館に来るなり、アクティと意気投合。侍女の仕事を覚えながら、領館のそばから毎日通うようになった。


「かけっこしよ!」


「いいよ!」


そのまま廊下を全力疾走して、オデッセイにしこたま怒られる毎日だ。


ジール一家はすぐに館に馴染み、フリードも「うむ、働き者だな」と上機嫌。



ビック領・領館の人員おさらい:

フリード:領主。書類に署名するのが仕事(と本人は言い張る)。

オデッセイ:領政の中枢。実質的な最高責任者。

ヴェゼル:領内開発担当。アイデアマン。

アクティ:にぎやかし&いたずら魔。

サクラ:闇の妖精。収納箱の住人。警戒心は一級品。

ルークス:オデッセイの実弟。商会所属。商売熱心。ほぼビック領の商材を扱う。

グロム:従士長。真面目一徹。

カムリ:執事。ガゼール、トレノの父。内政担当。帳簿管理に強い。フリードの元冒険者仲間。

セリカ:カムリの妻。侍女長。アクティの教育係兼お目付け役。

トレノ:ヴェゼル付き従者候補。

ガゼール:従者兼猟師。森の番人。大工仕事もする便利屋。

パルサー:ガゼールの妻。家事の支援役。

日勤の侍女二人:村の奥様方が交代でお手伝い。

ジール一家:新加入の元商人一家。

こうして館はさらににぎやかに、そしてにぎやかすぎるくらいに忙しくなった。




…だが、その中にひっそりと潜む影――それが策謀とつながっていくのであった。


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