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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第612話 アプローズの失踪07

店内の聴取は、一通り終わりを迎えていた。兵士たちはそれぞれの証言をまとめ、店主と従業員からの聞き取りもひとまず区切りがついている。


先ほどまでの緊張はわずかに緩み、だがその代わりに、重く沈むような疲労が場を覆っていた。


そんな中で、ヴェゼルはまだ動かなかった。視線は静かに残っている面々へと向けられている。


「……少し、よろしいですか」


穏やかな声音だった。だが、その一言で、場の空気が再び引き締まる。


ガヤルドが露骨に顔をしかめる。


「まだ何かあるのか」


「はい。確認です」


短く返し、そのまま視線をフィリーへと移した。


「先ほど、ブガッティさんの魔法省の研究室の整理をされたと伺いましたが」


フィリーがびくりと肩を揺らす。


「あ、はいぃ……」わずかに視線が泳ぐ。


「その際、エリクサーの研究資料の類などは見つかっていたのですか?」


間を置かずに重ねる。逃げ場を作らない問いだった。


フィリーは一瞬だけ言葉に詰まり、一ガヤルドに視線を這わせた後、慌てて首を振った。


「えっとぉ……そのぉ……ほとんど何も残ってなくてぇ……」


曖昧な言い方。だが、その“曖昧さ”が逆に浮いているようにも感じる。


ガヤルドが横から低く言う。


「報告でもそう上がっている。重要な資料は確認されていないとな」


「……そうですか」


ヴェゼルは頷く。その表情は変わらない。だが、そのまま次の問いを落とした。


「では、フィリーさん。あなたのエリクサーの研究は、どの資料を基に進めていたのですか」


空気が、わずかに止まる。


フィリーの指先がぴたりと止まった。


「えっとぉ……そのぉ……」


言葉が出てこない。視線が泳ぐ。


「断片的な資料を……つなぎ合わせてぇ……」


絞り出すような返答。だが、それに対してガヤルドが即座に被せた。低い声で一歩詰める。


「そもそも、貴様の担当は宝物庫の管理だろう。研究職ですらない。それがあの難解なエリクサーの研究? まぁ、不可能ではないがな………」


言葉は淡々としているが、遠慮がない。


「どの部署の、誰の許可で進めていたのだ?」


フィリーの口元が引きつる。


「え、えっとぉ……そのぉ……独力でずっと研究をしていてぇ……」


ヴェゼルはそのやり取りを静かに見ながら、さらに一つ、重ねた。


「どのくらいの期間、研究を続けていたのですか」


逃げ場を塞ぐように、しかしあくまで自然な流れで。


フィリーは目を泳がせてから一瞬だけ黙り込む。


「……まだ、はじめてから数ヶ月くらいですぅ」


小さく答える。だが、その後に続いた言葉が、わずかに歪んでいる。


「でもぉ……エリクサーの研究自体は、そのぉ……見たのでぇ……だから、なんとなく流れはわかっててぇ……」


フィリーは慌てて言葉を継ぎ足す。


「そのぉ……資料とかでぇ……過去の研究記録とかぁ……」


だが、その説明はどこか噛み合っていない。即座に返される問い。


「どの資料なのだ? 魔法省の正式な研究記録に、エリクサーの詳細な工程が残っているとは聞いていないが。あったとしても、通常の閲覧は禁止のはずだぞ」


フィリーの喉が小さく鳴る。


「そ、それはぁ……そのぉ……断片的な資料を、つなぎ合わせてぇ……フィリーなりに、こうかなぁ〜って……」


視線がまたもや泳ぐ。指先が落ち着きなく衣の端をいじる。


ガヤルドが鼻で笑う。


「それで“最終段階”まで到達したというのか?」


言葉は冷たい。フィリーは何も言えず、ただ曖昧に笑うしかない。


その沈黙の中で――


ヴェゼルは、静かに結論を組み上げていた。


数ヶ月。研究職ではない。正式な記録は存在しない。それで、最終段階まで?――あり得ない。それに、数ヶ月というのも果たして本当かどうかも怪しそうだ。


ならば、答えは一つ。


「……なるほど」


ヴェゼルは、あえてそれ以上は追及せず、小さく頷いた。だが、その視線だけが、わずかに鋭くなる。


――“見た”のではない。

――“持っている”。


もしかして、誰かの研究資料を手に入れたのだろうか。


このフィリーは宝物庫にも入れて、ブガッティの研究室の整理をしたと言っていた。


それも、断片ではなく――完成直前のものをと断言したのだ。


フィリーはまだ気づいていない。自分が、どれだけ致命的な“ズレ”を口にしたかを。


室内には、わずかな沈黙が落ちる。だがその沈黙は、先ほどまでのものとは違う。


見えない歯車が、確かに一つ噛み合った音がしていた。


フィリーは何も言えない。曖昧に笑うだけだ。


ヴェゼルは続ける。


一つ。「魔法省の正式な資料は存在しない」


二つ。「研究職でもない」


三つ。「研究期間は数ヶ月」


静かに、積み上げる。


「――それで、最終段階まで。少し、不自然ではありませんか?」


断定ではない。だが、十分すぎる圧だった。


フィリーの顔から血の気が引く。


ガヤルドが腕を組み、低く唸る。


「……当然だな。説明がつかん」


短く認める。その一言で、空気が変わる。フィリーの立場が、明確に揺らいだ。


ヴェゼルはそれ以上追い詰めない。ただ、自然に話題を切り替える。


視線を兵士たちへ向ける。


「もう一つだけいいでしょうか? 先ほどの話を踏まえると、今回の件――エリクサーが関わっている可能性が高いですよね?」


兵士たちが小さく頷く。


「そして、その研究の中心にいたのがブガッティさんです」


一歩、踏み出す。わずかに言葉を選ぶように間を置く。


「……本来であれば、ガヤルドさんも、魔法省のブガッティさんの研究室だけではなく、ご自宅の捜索を望まれていたのではありませんか」


その言葉に、ガヤルドの視線がわずかに動いた。


「……当然だ。エリクサーと、もしも残っているならその資料、だがな」


苦々しく吐き捨てる。


「窃盗の嫌疑だけでは流石にそこまでは踏み込めん。相手は仮にも元第一席だ。理由が足りなければ、こちらが処分される可能性があるのだ」


苛立ちを隠さない声音。


ヴェゼルは静かに頷いて、そのまま、視線を兵士へと向けた。


「ですが――アプローズさんの失踪。この件が、エリクサー、あるいはブガッティさんと関連している可能性があるのであれば、兵士の方が同席のもとであれば、捜索理由としては、十分ではありませんか?」


場が、止まる。兵士たちの表情が変わる。思考が一斉に回り始める気配。


フリードが腕を組み、低く続ける。


「アプローズ殿はブガッティ殿の弟子だ。そしてヴェゼルにエリクサーを渡すように託された。確かに無関係とは言い切れんな」


ガヤルドがゆっくりと息を吐く。その目に、わずかに光が戻る。


「……なるほどな。失踪事件の捜査、という建前か」


口元が歪む。ようやく、道が見えたという顔だった。


兵士の一人が頷く。


「……それなら、正当な手続きとして動けます」


ガヤルドが短く言い切る。


「よし、ならば決まりだ。すぐに手配しろ」


兵士たちは即座に動き始める。その流れを見届けながら、ヴェゼルは静かに息を吐いた。


――繋がった。まだ全てではない。だが、確実に一歩進んだ。


視線を落とす。フィリーは俯いたまま、何も言わない。その沈黙が、逆に重く響いていた。


そして――次に向かう先は、決まっている。


ブガッティの自宅。そこに、何が残されているのか。あるいは――何が“残されていない”のか。


答えは、まだその先にある。


そのとき、ヴェゼルがふと顔を上げた。そして何気ない調子で口を開く。


「……ああ、そうだ。明日の確認ですが、フィリーさんにも立ち会っていただきましょう」


一瞬、フィリーの空気がわずかに張る。


ヴェゼルはそのまま兵士へ視線を向けた。


「念のためです。今回の件、まだ不確定要素が多い。……再び誘拐などの事態が起きる可能性も否定できません」


穏やかな声音のまま、続ける。


「明日までの間、フィリーさんの身辺警護をお願いできますか」


言葉は丁寧だった。だが、その実――選択肢は提示していない。


兵士は一瞬だけヴェゼルを見つめ、すぐに大きく頷いた。


「承知しました」


短い返答。その横で、フィリーの顔がわずかに強張る。


その変化を、ヴェゼルは見逃さない。


ほんのわずかに視線だけを向け――口元だけが、僅かに動いた。


「……よかったですね。これで、安全ですよ?」


静かな声。柔らかな言い方だった。だが、その言葉には逃げ道がなかった。


フィリーの喉が、かすかに鳴る。


ヴェゼルはそれ以上何も言わない。


ただ静かに視線を外し、何事もなかったかのように歩き出した。


すでに次へと、思考は進んでいる。


すべては――明日、明らかになる。



ふぅ、、、

書いた通りストーリーに集中しすぎて、

投稿を間違えてしまいまして。。

謎解き的に、、なって、、、るのだろうか。。

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