第611話 アプローズの失踪06
店内の空気は、わずかに張り詰めたままだった。
先ほどまでのやり取りの余韻が残り、誰もが次の言葉を探るように沈黙している。
その中で、ヴェゼルは一歩引いた位置に立ち、視線だけを静かに巡らせていた。
会話は一度終わっている。だが――終わっていない。
何かが、まだ足りない。表に出ている情報は揃っているはずだった。
アプローズの失踪、フィリーの呼び出し、ガヤルドの関与。だがそれらを繋ぐ“芯”が、どうにも見えてこない。
「……ガヤルドさん」
沈黙を破ったのはヴェゼルだった。声はあくまで落ち着いている。
「今回の件とは少し離れますが、一つ伺ってもよろしいですか」
わずかに視線を上げる。ガヤルドは露骨に面倒そうな顔をしたが、やがて小さく舌打ちを鳴らして顎をしゃくった。
「手短にしろ」
許可は出た。ヴェゼルは頷き、言葉を続ける。
「魔法省の内部で――最近、何か変わった動きはありませんでしたか」
一瞬。ほんのわずかに、空気が揺れた。
ガヤルドの目が細くなる。「……何が言いたいのだ?」
問い返す声音は低い。警戒が混じっている。ヴェゼルは構わず続けた。
「例えば、人事や管理体制の変更。あるいは――通常なら表に出ないはずの出来事とか」
言葉を選びながら、ゆっくりと。その意図を測るように、ガヤルドは数秒、黙り込んだ。やがて――
「……本来、外に出す話ではない」
ぽつりと、低く漏らす。その声音には、明確な苛立ちが滲んでいた。腕を組み直し、視線を逸らす。
「魔法省の恥だからな。だが、今回の件がここまで広がっている以上、完全に伏せておくのも無理か……」
短く息を吐く。
「宮内部の長が替わった。セブリングという男だ。大抜擢だった。本来は私が就くべき…役職だった…」
フリードの眉がわずかに動く。
「だがな――就任して、数週間で亡くなったのだ。自死だというが……どうにも胡散臭い」
言葉は短い。だが、その重さは十分だった。店内の空気が、わずかに冷える。フィリーがびくりと肩を震わせ、小さく視線を落とした。
ガヤルドはそこで一度言葉を切り、周囲を一瞥する。兵士たちの位置を確認し、わずかに声を落とした。
「……ここから先は、本当に他言無用だ」
低く、押し殺した声。
「帝国に存在するエリクサーは三本なのだ」
その一言で、場の空気が変わる。
「それぞれ、保管と識別のために瓶の形状が微妙に異なる。意図的に揃えられていないのだよ。すり替えを防ぐためだと言われている」
フリードが小さく息を吐く。
「……徹底しているんだな」
「当然だろう。あれは国の切り札なのだからな」
吐き捨てるように言い、ガヤルドは続ける。
「そのうち二本が――消えた」
沈黙が落ちた。先ほどまでの“違和感”ではない。明確な、重大な欠落。
「セブリングが盗んだのか、誤って紛失させたのか、それとも――元から別の誰かが動いていたのかは分からん」
苛立ちが混じる。
「勿論、ブガッティ殿の名も上がっていた。ブガッティ殿はこの国のエリクサー研究の中心で、最前線の研究者だったからな」
視線がわずかに鋭くなる。
「だが、いずれも確証はない。何もかもが中途半端なのだ」
フリードが低く言う。
「管理していた者は?」
その問いに、ガヤルドは顎でフィリーを示した。
「宝物庫の管理は、こいつらだ」
視線を向けられ、フィリーがびくりと体を揺らす。
「は、はいぃ……」
「私は部署違いであまりしならい。だから聞きたいのだが、どうだったのだ?」ガヤルドの声は容赦がない。
フィリーはおどおどとしながら答える。
「えっとぉ……そのぉ……普段はぁ……エリクサーは特別区画でぇ……厳重に管理されててぇ……」
視線が泳ぐ。
「フィリーたちでもぉ……直接見る機会は……全くなかったですぅ……」
弱々しい声だった。
ヴェゼルはその様子を静かに見つめる。言葉の内容ではなく、その“重さ”を測るように。
ガヤルドは鼻を鳴らした。
「そういうことだ。魔法省の他部署の現場は、全容を把握していない。だから余計に話がややこしくなる」
苛立ちを隠そうともしない。
「そして――その状況で、さらにアプローズ殿の失踪だ。冗談ではないぞ」
低く、吐き出す。
「これ以上、私の責にされてたまるか」
その一言に、場の温度がわずかに下がる。
ヴェゼルは短く頷いた。
「……ありがとうございます」
それ以上は踏み込まない。だが――それで十分だった。
三本のエリクサー。異なる瓶。二本の消失。そして、それを直接は見ていない管理者達。そして責任者の死。
情報は揃い始めている。
だが――まだ、繋がらない。
ヴェゼルは自然に話を切り替える。
「では、アプローズさんの話に戻りましょうか」
流れを戻すことで、それ以上の追及は避ける。ガヤルドも深くは追わない。ただ不機嫌そうに腕を組み直しただけだ。
室内の空気が、わずかに緩む。だが、その下には確かに別の流れを生んだ。
表に出ている失踪事件。その裏にある、魔法省内部の歪み。そして――意図的に隠された何か。
ヴェゼルは何も言わず、ただ一度だけ視線を落とした。
思考は止めない。
だが、今はまだ――結論を出す段階ではない。
静かに、次へ進めるだけだった。
大まかには、こうしようとプロットがあって書き始めたんですが、
後から話を書いていたら矛盾だらけで、、
どうにかこうにか辻褄を合わせて、、、
なんとか……なったの…かな??
あまり、考えないでさらっと読んでいただけるとありがたいです。
きっとどこかで破綻してるだろうしね。。
本当に推理物?になってるかどうかはわかりませんが、
難しいですね。。
雰囲気で!!読んでください。お願いします。




