表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

635/653

第608話 アプローズの失踪03

本日2026年4月2日の更新で、

608・609・610話の順番を間違えていました。

申し訳ありません。

修正しましたので、ご覧ください。

帝都の喧騒は、いつもと変わらぬ顔で流れていた。


行き交う人々の足音、商人の呼び声、遠くで鳴る馬車の車輪の軋み――そのすべてが日常の音として積み重なり、街を満たしている。


だが、その中心にいるはずのヴェゼルとフリードにとって、その音はどこか遠く、薄く引き延ばされたもののように感じられていた。


目的が定まった時、人の意識は極端に狭まる。


今の二人が見ているのは、ただ一点――アプローズが姿を消したという喫茶店、“ドゥビル”だけだった。


石畳の通りを折れ、目的の店が視界に入る。落ち着いた外観の、ありふれた喫茶店。


だが、その前に立つ数名の兵士の存在が、そこがすでに“日常の外側”であることを示していた。


入口の前には縄が張られ、客の出入りは止められている。


店内の様子は外からは見えないが、低く抑えた声が断続的に漏れ、事情聴取が行われていることは明らかだった。


フリードは足を止めることなく、そのまま兵士へと向かう。


「止まれ。現在取り調べ中だ。関係者以外――」


遮るように、フリードが懐から銀のメダルを取り出した。光を受けて鈍く輝くそれを、無言で掲げる。


「皇帝直参、ビック家騎士爵フリードだ」短く、それだけだった。


だが、その一言で空気が変わる。兵士の目が見開かれ、すぐに姿勢を正した。


「あ、昨日の……し、失礼しました……!」


「今回いなくなった者は、現在はうちの従者だ。事情を把握したい」


低く抑えた声音。余計な圧をかける必要はない。ただ、事実だけで十分だった。


兵士は一瞬だけ迷いを見せたが、やがて道を開ける。


「……どうぞ」


店内へ足を踏み入れた瞬間、外の喧騒が一段遠のいた。空気が違う。わずかに張り詰め、どこか居心地の悪い静けさが漂っている。


客の姿はなく、代わりに店主と数人の従業員が立たされていた。


皆一様に顔色が悪く、視線が定まらない。


その中で、一人だけ椅子に身を預けるように横になっている人物がいた。


フィリーだった。


呼吸は穏やかで、苦しむ様子はない。ただ、意識だけが深く沈んでいるように見える。


ヴェゼルが視線で兵士に問いかけると、兵士は小さく頷いた。


「一度は目を覚ましましたが……すぐにまた眠ってしまいまして」


低い声で続ける。


「おそらく、眠りの薬を使われたのでしょう。体調に問題はなさそうです」


短い報告だった。だが、その内容は十分に重かった。


フリードが小声でヴェゼルに言う。「こういうのは得意だろ、後はお前に任せたぞ」



ヴェゼルは小さく頷き、その光景を一瞥し、すぐに視線を店主へ移した。


「いくつか確認させてください」


声は静かだが、逃げ場を与えない。


店主の肩がびくりと揺れた。


「は、はい……」


「この店で、表の入口以外に出入りできる場所はありますか」


問いは簡潔だった。


店主は一瞬、言葉に詰まる。視線がわずかに泳ぎ、指先が落ち着きなく動いた。


「……裏手に、従業員用の出入口が……」


「この個室から、そこへ抜けることは?」


「き、気をつければ……見つからずに出ることも……」


曖昧な返答。だが、否定ではない。


ヴェゼルは小さく頷き、次の問いを重ねる。


「では、フィリーさんとアプローズさん以外に、この個室へ来た者は?」


店主は、ほんの一瞬だけ躊躇した。


「……男性が、一人」


その言葉が落ちた瞬間、空気がわずかに張る。


ちょうどその時だった。


「……ん……?」


小さな声とともに、フィリーがゆっくりと目を開けた。焦点が定まり、周囲を認識した瞬間、その表情が一気に変わる。


「え……? あれ……? ここ……なんで……?」


声は揺れていた。甘えた調子も、間延びした語尾もない。純粋な困惑。


ヴェゼルは一歩だけ近づく。


「あなたは眠らされていました。その間に、アプローズさんがいなくなりました」


「えぇ!? そ、そんな……!」


反応は自然だった。少なくとも、結果を知っている者のそれではない。


ヴェゼルは一瞬だけその様子を観察し、視線を細める。


――素に戻っている。


少なくとも、この段階では“演技”の気配はない。


「先ほど、男性が訪ねてきたと聞きました。誰ですか」


問いはそのまま続く。


フィリーは一瞬だけ口ごもり、視線を泳がせた後、小さく答えた。


「……魔法省の、ガヤルド様ですぅ……」


その名に、フリードの視線がわずかに動いた。


「なぜ、その男がここに来たのだ?」


低く問う。


フィリーは肩をすくめるようにしながら、言葉を選ぶ。


「そのぉ……アプローズさんに話があったみたいでぇ……でもぉ、直接だと来てくれないからって……フィリーが呼びなさいって……」


「断れなかった、というわけか」


「は、はいぃ……それに……その……手伝ったら、アヴァンタイム様に…後々お口添えも、してくださるって……」


言葉の終わりが曖昧に濁る。


フリードは、視線を兵士へと移した。


「この件、帝都側の関与は?」


低く、無駄のない問いだった。


兵士は一瞬だけ背筋を伸ばし、すぐに首を横に振る。


「我々には、そのような命令は来ておりません。少なくとも、この帝都の治安を預かる保安隊には」


即答だった。迷いはない。


フリードはわずかに顎を引く。


「では、あの時の聴取はどういう経緯だ?」


問いは重ねられる。逃げ道は与えない。


兵士は一瞬だけ言葉を探し、それから口を開いた。


「あれは……魔法省のガヤルド様から、どうしてもと要請があり……」


言い切ると同時に、視線をわずかに伏せる。その仕草が、完全に主体ではなかったことを物語っていた。


短い沈黙が落ちる。その沈黙を、フリードはそのまま押し広げるように続けた。


「ならば、他に考えられる組織はあるか」


静かな声だったが、圧があった。


兵士の喉がわずかに鳴る。すぐには答えず、慎重に言葉を選ぶように視線を泳がせた。


「……正直なところ、断定はできませんが、今回の一連の動きは、あまりに手際が良すぎます」


ゆっくりと、言葉を積み上げる。


「痕跡を残さず、無駄もない。周囲に余計な被害も出ていない。……こうした動きは、統率された組織でなければ難しいかと」


フリードは何も言わず、先を促すように視線だけを向ける。


兵士は一度だけ息を飲み込んだ。


「通常の誘拐や殺人を生業とする者たち……いわゆる荒くれ者では、ここまで整った仕事はできません」


そこまで言ってから、言葉がわずかに詰まる。


「ここまでの手練れで、なおかつ……周囲を傷つけることなく、目的だけを達成するとなると――」


「第三……いえ……」


言い淀む。


その瞬間、ヴェゼルの視線がわずかに動いた。


「第三?」静かな問い。だが、逃がさない響きがあった。


兵士は一瞬だけフリードの方を見る。フリードは無言のまま、ただ鋭く見返した。


その視線に押されるように、兵士は小さく息を吐く。


「……ここだけの話にしていただきたいのですが」


前置きが、さらに重くなる。


「帝国の第三騎士団は、精鋭揃いと聞いております。武力だけでなく、その……表に出ない任務にも長けていると」


言葉は慎重だったが、意味は明確だった。


場の空気が、わずかに冷える。


フリードが低く問う。


「その第三騎士団の直属は?」


短い問い。


兵士は一瞬だけ目を伏せ、覚悟を決めるように答えた。


「……宰相閣下です」


沈黙。


今度の沈黙は、明確な重みを持って場に落ちた。


ヴェゼルはその言葉を、否定も肯定もせずに受け止める。ただ、ほんのわずかに視線を落とし、思考の奥で転がす。


――宰相。


脳裏に浮かぶのは、あの穏やかな笑みと、底の見えない眼差し。


「……宰相か」


小さく呟く。


それ以上は続けない。


だが、その一言で十分だった。


フリードが小さく息を吐いた。


「この件は失踪とかいう曖昧なものでなくて、誘拐として扱ってもらいたい」


「了解しました」


即答だった。


そのやり取りの間、ヴェゼルは店内の空気を静かに観察していた。


店主の視線は落ち着かない。従業員も同じだ。だが、それは“知らない者”の動揺というより――何かを見た者の、それに近い。


そして、もう一つ。


フィリーの手元に、わずかに残る紅茶の香り。


甘い焼き菓子の匂いに紛れているが、わずかに異質な気配が混じっている。


――飲んだ後に、記憶が途切れた。


その事実だけが、静かに引っかかっていた。


「誘拐だとしたら、ガヤルド殿からも話を聞いた方が良いだろう。ここに呼んでもらえるか?」


フリードの言葉に、兵士が一礼し、店を出ていく。


その背を見送りながら、ヴェゼルはもう一度だけ室内を見渡した。


視線は自然に動いているようで、その実、細部を一つずつ拾い上げている。


椅子の位置。距離。扉までの動線。


そして――逃げ道。


まだ、何も分からない。


だが。


「……妙ですね」


小さく、独り言のように呟く。


フリードが横目で見る。


「何がだ」


ヴェゼルは少しだけ考え、言葉を選ぶ。


「なにか、妙に筋が通りすぎている感じがすます」


それ以上は言わない。


ただ、その違和感だけが、静かに残っていた。


アプローズ編の終わりがなかなか決まらなくて

何回も書き直しをしていたら、

話数の順番を間違えてしまいました。。

(まぁ、アプローズはそんなに出てきませんが)



やっぱり、難しいですね。。

何回書き直したことか、、

推理物、自分には絶対無理だとわかりました。

無事にこのアプローズさん失踪編を終えられるのかな。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ