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第63話 ルークスのウハウハ ムフフフ 捕った狸の皮算用

すいません。どうしても気になりまして、第60〜65話を2025年9月18日6:00〜7:00の間に、話を大規模に入れ替えました。

むふ、むふふふふ……!


いま、ルークスは笑いが止まらなかった。


いや、笑ってはいけない場面で笑いがこみ上げることは人生において何度か経験したが、ここまで「むふむふ」するのは初めてである。


それこそ今なら何時間でも笑っていられる。


いや、一日中でも笑っていられるだろう。


「むふっ……ふ、ふふふふふ……!」


周囲の人々が不審そうな目を向けているのもおかまいなし。


今の彼にはどうしても、どうしても抑えられない高揚感があったのだ。


なにしろホーネット村が、今、完全に波に乗っている。


いや、波どころか大津波である。


「ルークスさん、畑、見てってください!」


元気いっぱいの村の子供たちに引っ張られて畑へ向かうと、そこには緑がもりもりと繁った作物の海が広がっていた。


ひえ、あわ、むぎ、そば、大豆。


そのどれもが昨年の比ではないほど青々と茂り、穂を垂れ始めている。


「これは……これは豊作だぞ……!」


ルークスは両手を腰に当て、ふふんと胸を張った。


自分が畑を耕したわけでも、種をまいたわけでも、肥料をやったわけでもないのに、なぜか自分の手柄のように誇らしい。


「むふむふ……! これを皇都の連中に見せつけてやりたいな!」


今年から初めて大規模に植えたウマイモも、葉を広げて順調に育っている。


収穫したらそのまま食べても良いし、粉にしてパンや団子にもできるだろう。


保存性も高い。


「むふむふむふっ! これで飢饉だって怖くないぞ!」


子供たちは意味もわからず、ただ「むふむふ」に釣られて笑っていた。


次にルークスが思い出してにやけたのは、魔物の燻製肉の件だ。


「燻した肉を送ったが……あれは絶対に当たる!」


そう、皇都の貴族は塩漬けの肉しか知らない。


この地もそうだが内陸は塩が高価すぎて庶民の口には入らないし、家畜の肉すら高嶺の花だ。


だが、ホーネット村の魔物の肉は、ちょっと森に行けば取り放題で、元手はタダだ。


そしてあの燻製肉は――。


程よく塩気があり、燻した香りが染み込み、しかも日持ちがする。


戦争や遠征の際には、糧食としてうってつけだ。


「むふふふ……! 兵站を握る者は戦を制す、というじゃないか。つまり燻製肉を握る者は……!」



「ルークス」


オデッセイが横から冷たい目で言った。


「あなたはただ運んだだけです」


「……う、うむ。その通りなんだが……」


だがルークスは負けなかった。


「しかし! 運んだからこそ皇都に届いたのだ! これは大いなる功績である! つまり私も戦を制する者である! むふふふふふ!」



次なる大ヒット商材候補はハッカ油。


「これを抽出して、虫よけにするんだ……! 皇都の婦人たちには大人気になるぞ! なんせあの連中、夜な夜な蚊に刺されただけで翌朝一日機嫌が悪いんだからな!」



「……ルークス…」オデッセイがまた冷ややかに突っ込む。


「お金儲けのことしか頭にありませんね」


「違うぞ! 健康を守ることは、結果として財を成すのだ! むふふふ!」


しかも香りも良い。


サクラが瓶を振りながら、「これはわたしの必殺アイテムになるわ!」と宣言していたが、ヴェゼルとアクティが同時に「やめろ」と止めたのは記憶に新しい。


「しかし困ったこともあるな……」


ルークスは少し真剣な顔になった。


そう、パルサーの負担である。


教育玩具も積み木も、毎月皇都に送っているが、即売り切れ状態。


需要が爆発的すぎて、パルサーはついには弟子を抱えたがそれでも大忙し。


村内のご婦人やお年寄りも駆り出しているが仕事量が一向に減らない。


「もう誰か雇わないと、本当に倒れるぞ……」


村人たちも協力しているが、それでも追いつかない。


ただ、パルサーはなぜかイキイキしているようにも見える。


「作るのが楽しいんだ」と言いながら。


「やれやれ、これは弟子が十人でも二十人でも足りんぞ」


ルークスは空を見上げ、大きく伸びをした。


「まあ、嬉しい悲鳴というやつだな! むふふふふふ!」


ホーネットシロップは冬の限定品。


だが、今年は新たに「ホーネット酒」が出せそうだ。


「白樺酒とは言えないからな……名前を隠さないと……」


「ルークス!」オデッセイがピシャリ。


「名前を隠すって、いってもホーネット酒って……」


「ヴェゼルが前に言ってたろう!ブランド戦略だ! 『ホーネット酒』


――この名前の響き、強くて甘美で、ちょっと危険な香りがするだろう! 皇都の連中が飛びつかないわけがない!」


「……ルークスが一番危険だわ」オデッセイは呆れた。


こうして畑も順調、商材も豊富、人も育ち、村はどんどん賑やかになっている。


どうやら、徐々に移住者も増えて、人口が右肩上がりのようだと聞いた。


ルークスは胸の中で何度も自分を褒めた。


「この村に本腰を入れる決断をした俺……偉い! 天才! 商売の神に愛されている!」


「むふむふむふむふ……!」


その笑いは止まらない。


いや、止められない。


たとえ誰に白い目で見られても、むしろ見られるほど高揚して、笑いがこみ上げる。


ルークスは心の底から、ホーネット村に来てよかったと思っていた。



「よし! これからもっと稼ぐぞ!」


「ルークス」オデッセイが最後にため息をついた。


「……もう少し静かにしてもらえないかしら? 仕事が進まないわ」


「むふふふふふふふふふふふふふふ!!!」


その時、アクティがつかつかと歩いてきて、首をかしげながら一言。


「おじさん、さっきから“むふむふ”しかいってない……もしかしてあたまからっぽになった?」



「がああああああああああああああっ!!」


ルークスは崩れ落ち、床に四つん這いになった。


オデッセイは無言で頷き、サクラはお腹を抱えて転げ回り、ヴェゼルは淡々と書類を片付け、フリードは「どんまい!」とだけ言って肩を叩いた。


ルークスのむふむふ笑いは、こうしてあっけなく撃沈。


村には笑いとともに夕暮れの鐘が鳴り響いた。



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