第62話 ハッカの話
すいません。どうしても気になりまして、第60〜65話を2025年9月18日6:00〜7:00の間に、話を大規模に入れ替えました。
オデッセイの弟、商人ルークスは、商材の匂いを嗅ぎ取るのが誰よりも早い。
だからこそ、ヴェゼルが次に持ち出した「水蒸気蒸留によるハッカ油抽出計画」にも、真っ先に耳を傾けた。
「ハッカ油……消臭、虫よけ、薬にもなるし……これは皇都で売れるな!」
興奮して早口になるルークスを横目に、ヴェゼルは次の一手へ動いた。
フリードの紹介で訪れたのは、村の鍛冶屋ナバラさんの工房。大柄で無骨なナバラさんは、腕組みをして図面を見下ろす。横には息子のマイラーくん、10歳。
「これを作れば、ハッカの香りを抽出できるかもしれません。金属と木工の組み合わせで、蒸留器になりるはずです!」
小さな手で図面を広げるヴェゼルの姿は、子供とは思えぬ真剣さだった。
「……ふむ。子供がこんな複雑なものを?」
ナバラさんは難しい顔をしていたが、ヴェゼルの説明が進むごとに眉間のしわは伸び、やがて目がきらりと光った。
「こりゃ……面白ぇ! マイラー、お前はどうだ!」
「やってみたい! すごく楽しそうだよ!」
少年同士の声が重なり、場の空気は一気に熱を帯びる。
「よし、二週間で試作を作ってみせよう!」
ナバラさんが豪快に笑い、約束を交わす。
ヴェゼルはさらにパルサーにも図面を見せ、木工部分の協力をお願いした。パルサーもにっこり笑って「任せてください」と応じる。こうしてハッカ油計画は、着実に動き出した。
その日の夕暮れ。森を抜ける風は心地よく、どこからともなくハッカの香りが漂っていた。
「今日も色々進んだね」
窓辺でヴェゼルが小さくつぶやくと、フリードが胸を張って頷く。
「おう! これでまた村が豊かになるぞ!」
サクラは真っ平らな胸を張り、羽をぱたぱたさせて笑った。
「ふふ、まだまだ面白くなるわね、ホーネット村!」
――こうして、燻製肉と並んで「ハッカ油」という新たな可能性が加わり、小さな挑戦は、日々形を変えながら未来へと膨らんでいった。
二週間後――。
ナバラさんとマイラーくん、パルサーまで総出で作り上げた「謎の樽と管が組み合わさった装置」がついに完成した。
「さぁ、いよいよ点火だ!」
ナバラさんが豪快に火を入れると、装置から「ゴポッゴポッ」と怪しい音が響き始めた。
「おお!煙じゃないぞ!なんか透き通った霧だ!」
フリードが目を丸くする。
「これが蒸留です!」と胸を張るヴェゼル。
だが次の瞬間――
「シューーーーーッ!」
ものすごい勢いで蒸気が噴き出し、マイラーくんの頭にちょっとかかった。
「ひゃああ!熱っつい!けどなんかスースーするー!」
頭からハッカの香りをぷんぷんさせるマイラーくんに、工房は爆笑の渦。
「ちょ、ちょっと!管を締めろ!」
ナバラさんが慌てて工具を掴むが、逆に弁を全開にしてしまい――
「ぶっしゃああああっ!」
辺り一面、爽快すぎるミントの香りが充満!
「うわぁっ、目がスースーする!」
「鼻までつんつんするぞ!」
「でも……なんか気持ちいいかも!」
サクラはふわふわ飛びながら、思わず鼻歌交じりに。
「ははは、これはまるで“涼風の祭り”だ!」
フリードも大笑いしながら鼻を押さえ、ルークスは商人らしく「むしろこれ、部屋に置くだけで売れるんじゃないか?」と新たな商材に目を輝かせていた。
こうして実験した部屋中が爽快なハッカの香りに包まれ、初めての蒸留実験は「大成功……ときどき失敗!」という結末を迎えたのであった。
後からきたオデッセイが烈火の如く怒って、ただいただけのフリードが責任者として怒られて、劣化していたが。アクティは大喜びしていたが。
サクラは小瓶を握りしめ、ニヤリと笑った。
「ふふふ……日頃の「おにんぎょう」の仕返し、今こそ果たす!ヤツの鼻にこのハッカ油をちょんっとつければ……くしゃみ地獄よ!」
妖精の小さな指先で、そーっとアクティの顔に近づく。
だが――「……おそい!」
アクティは気配を察知したかのように、すっと身を引いた。
伊達にフリードの鍛錬に参加しているわけではないのだ。
その瞬間――小瓶を構えたサクラのお尻に、アクティの指がチョンッ!
ハッカ油が直撃した。
「ひゃあああああ!? な、なにこれぇぇぇ!!!」
サクラはお尻を押さえて飛び上がる。翼をばっさばっさ動かして空中を飛び回るが、その風がまたお尻を直撃し、スースー感は倍増。
「ひぃぃ!余計にスースーするぅぅ!いやぁー!」
ぐるぐる回るサクラは完全に暴走ミント妖精。
周囲は爆笑の渦。ヴェゼルは腹を抱えて転げ、フリードは「な、なんて恐ろしい……!」と青ざめ、ルークスは真剣に「……これは新しい薬効があるかもしれない」と商売の匂いを嗅ぎ取っていた。
そして、黒い笑みを浮かべたアクティが、静かに一言。
「わたしにかつなんて――ひゃくおくまんねん、はやいのよ」
「ぐぬぬぬ……!」涙目のサクラは、スースーしながら悔しさに震えるしかなかった。




