表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

615/634

第588話 聴取02

そのまま二人も奥の狭い部屋へと通された。


詰所の奥にある小部屋は、外の雑然とした空気とは違い、妙に閉じた静けさを持っていた。


石壁に囲まれた部屋で、窓はなく、天井近くの壁に煤で黒ずんだランプがひとつ掛けられているだけだった。油の火は弱く、光は部屋の中央にしか届かない。


そのため四隅には暗がりが残り、壁の継ぎ目の影が不気味に重なっていた。


椅子に腰掛けた瞬間、廊下の向こうで扉が開閉する音が響いた。重い木と鉄の蝶番が軋み、詰所の建物全体が小さく鳴るように震える。


フリードとヴェゼルは、その机の前に並んで座らされた。


最初、兵士たちは二人を別々に尋問するつもりだったらしい。廊下の向こうで短い相談が交わされているのが聞こえたが、その内容を聞いたフリードが机に手を置き、低い声で言った。


「子供を一人で尋問するのは承服しかねる」


声は静かだったが、そこには押し込めた怒りがはっきりと滲んでいた。


その一言で、部屋の空気がわずかに固まる。目の前に立っていた若い兵士が、びくりと肩を震わせた。


まだ年若く、顎にはうっすらとしか髭が生えていない。視線を泳がせながら背後にいる同僚の顔を窺い、どう対応すべきか迷っている様子だった。


少し離れた場所に立っていた年長の兵士が短く言う。


「……二人でいい。まとめてやれ」


それで方針が変わった。


結局、尋問はフリードとヴェゼルの二人同席という形に落ち着いた。


フリードは一応、末端とはいえ貴族の身分である。そのため兵士たちの態度も完全にぞんざいというわけではない。言葉遣いは一応整えられており、無礼な命令口調にはなっていない。


だが、そこに含まれる温度は冷たかった。


騎士爵――つまり末端の貴族。帝都にいる兵士から見れば、地方の小領主に過ぎない。礼は守るが、特別に気を遣うほどの相手でもない。そんな微妙な軽さが態度の端々に混じっていた。


やがて一人の兵士が机の向こうに腰を下ろした。


三十代半ばほどの男だった。日に焼けた顔に無精ひげが残り、革鎧の胸当てが動くたびにわずかに軋む。腕は太く、前腕には古い傷跡がいくつか走っている。


長年槍を振ってきた兵士なのだろう。腰には短剣が下げられており、その柄を無意識に指先で叩く癖があるらしかった。


男は机の上から書き板を取り上げ、筆先を軽く湿らせる。


かり、かり、と乾いた音が部屋に響いた。


尋問は、事務的に始まった。


兵士は顔を上げ、二人を順に見た。


「あの女とはどういう関係なのですかな?」


声は淡々としている。だが視線は鋭く、逃げ道を探すように相手の表情を観察していた。


フリードは肩をすくめる。


「道で助けただけだ。魔物に襲われていた」


兵士の筆が止まり、わずかに顔をしかめる。


「魔物?」


「そうだ」


それ以上の説明はしない。フリードは椅子に座ったまま腕を組み、興味もなさそうに答えた。


兵士は少しだけ眉を寄せ、それでも筆を走らせる。書き板の上で木を擦る乾いた音が続いた。


やがて兵士は顔を上げ、今度はヴェゼルの方を見る。


「ここに来るまでの道中、あの女から何か受け取っていないですかな?」


ヴェゼルは特に隠す様子もなく答えた。


「受け取りましたよ」


その瞬間、筆が止まる。


部屋の空気がほんのわずかに変わった。兵士の目が細くなる。


「……何をでしょう?」


「小さな箱です」


「箱?」


兵士の視線がはっきりと鋭くなる。


ヴェゼルは変わらぬ調子で続けた。


「ブガッティさんから俺に渡してほしいと、アプローズさんが託されていたそうです。それを受け取りました」


その言葉を聞いた瞬間、兵士の顔色が変わった。


筆が止まり、机の上に小さく音を立てる。


「……今、なんと言ったので?」


「ブガッティさんです」


ヴェゼルはあっさりと繰り返す。


兵士は一瞬、黙り込んだ。書き板の上で筆先が止まったまま動かない。


その沈黙の間、廊下の向こうから鎧の擦れる音が聞こえていた。


誰かが槍を立て直し、誰かが歩き回っている。城門の詰所はいつも通り忙しく動いているのに、この小さな部屋だけが妙に静まり返っていた。


やがて兵士はゆっくり息を吐く。


「……その箱、今、持っているのですか?」


声の調子が、わずかに変わっていた。ヴェゼルが答える前に、ちらりとフリードを見る。


それだけで十分だった。


フリードが先に口を開く。


「見せる必要はないぞ」


兵士の眉がぴくりと動いた。


「確認です」


「確認でも見せるつもりはない」


フリードの声は低く、短かった。


「それは元から約束されていたものだ。ブガッティ殿がヴェゼルに渡すと決めていた物を、預かっただけ。それの何が問題あるのだ?」


兵士はしばらく二人を見比べた。相手の言葉の隙を探すような目だったが、結局それ以上踏み込める材料は見つからないらしい。


それでも口にした言葉は変わらなかった。


「……その箱を見せてもらえないと、ここからは出せませんな」


空気が少し冷えた。


だがフリードはまったく動じない。


「なぜだ」


「魔法省の物品の可能性があるのです」


「可能性だろう?」


フリードは椅子の背に体を預け、わずかに顎を上げる。


「それを言い出したら、帝都の荷車は全部止めることになるぞ」


兵士は口をつぐんだ。


そこから尋問は、同じところをぐるぐると回り始めた。


アプローズから他に何か聞いていないか。


魔法省の機密に関わる話はなかったか。


箱の中身は何なのか。


質問の形だけが少しずつ変わり、内容はほとんど同じだった。


ヴェゼルとフリードは、同じ答えを返し続ける。


聞いていない。


知らない。


ただ助けただけだ。


やがて時間が過ぎていった。


ランプの火がわずかに揺れ、石壁に伸びた影がゆっくり形を変える。部屋の空気は次第に重くなり、油の匂いも濃く感じられるようになっていた。


どれくらい経ったのか分からない。


帝都に着いたのは午前だった。だが今では外の光もずいぶん低くなっているはずだった。石壁の向こうで、城門を通る人々のざわめきが少しずつ落ち着いてきているのが分かる。


昼食も取っていない。


今日泊まる宿もまだ決めていない。


それでも兵士は尋問を終わらせようとはしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ