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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第507話 魔法の競技会の開始01

そして、魔法の競技会がはじまった。


はじめに辺境伯による長い挨拶があったが、ヴェゼルはその内容をほとんど覚えていなかった。


先ほど、壁に開けてしまった“あの穴”が見つからないようにと、内心そればかりを祈っていたからだ。


続いて、辺境伯軍騎士団長――アーバンクルーザー伯爵が前に出て、短く言葉を発した。


「今日の結果は、将来を保証するものではない。だが、今日“何を見せたか”は、我々は忘れん。魔法とは力ではない。使い手の意思と制御、その在り方だ」


辺境伯の言葉は頭に残らなかったが、騎士団長のその一言だけは、ヴェゼルの耳には妙にはっきりと届いた。


そして、いよいよ競技が始まる。


参加者は二十名。そのうち十七人が貴族で、平民はロンシャンを含めて三人に過ぎなかった。


順番は自由に決めてよいということで、ヴェゼルはロンシャンとフルフェンスを誘い、三人まとめて最後に回してもらった。


理由は単純だった。


時間があれば、その分だけロンシャンの精度も、フルフェンスの精度も、引き上げられる可能性がある――そう考えたからだ。


ただし、その前に。


ヴェゼルは二人に、はっきりと釘を刺していた。


「さっきロンシャン君に教えたことは……たぶん、アトミカ教の初代教皇が定めた“魔法の定義”を大きく逸脱してる。

もし他の誰かに知られたら、教会から排除されるかもしれないし、高位貴族に知られれば……監禁されて、洗いざらい吐かされて、そのあと家族がどうなるかも分からない」


少し間を置いて、ヴェゼルは続ける。


「ロンシャン君には、もう教えてしまった。だから後戻りはできない。……ごめんね、後からこんな話をして」


するとロンシャンは、首を横に振った。


「僕は、魔法で親を喜ばせたい。そのためなら、何だってするさ。だから……教えてくれて、ありがとう」


その言葉を受けて、ヴェゼルはフルフェンスに視線を向けた。


「でも、フルフェンス君はまだだ。今なら引き返せる。どうする?」


フルフェンスはしばらく黙り込み、それから意を決したように言った。


「……自分は貴族の嫡男だ。いざというとき、怖くても領民を守る責任がある。だから――僕の魔法が強くなるなら、教えてほしい。誰にも言わないと約束する。さっき、ロンシャン君があれだけ変わったのを見たら……今さら引き返せないよ」


その言葉を聞いて、ヴェゼルは小さく息を吐いた。


「分かった。ただし、すぐに強くなるとは限らないよ。でも、鍛錬を続ければ、確実に魔法の威力は上がると思う」


そう言ってから、ロンシャンをちらりと見て付け加えた。


「正直、あそこまで飲み込みが早いとは思わなかった。ロンシャン君は、もともと魔法の才能があったんだと思う」


ロンシャンは、照れたように頭をかいた。


そしてヴェゼルは、フルフェンスに水魔法の基礎を教えはじめた。


「簡単に言うと、水は温度で性質が変わる。百度で蒸気になって、零度以下で氷になる」


「だから、“冷やす”だけじゃなくて、“圧をかける”“温度を変える”ってイメージを持つと、水魔法は一気に幅が広がるんだ」


理屈の上では、水を冷やし続ければ氷にもなる。


そう前置きしてから、ヴェゼルは腰に下げていた革製の水袋を取り出した。


「……仕方ないか」呟きながら、ナイフで小さな穴を開ける。


ちょろちょろと流れ出した水を、両手でぎゅっと握り込んだ。


次の瞬間、水は勢いを増し、水鉄砲のようにフルフェンスの顔へと飛んだ。


「ちょ、ヴェゼル君、やめてよ!」


抗議するフルフェンスに、ヴェゼルは平然と言う。


「今の、見た? さっきより勢いが強くて、遠くまで飛んだでしょ。これが“圧力”を加えた結果だよ」


「これをもっと強くして、水の流れを細くできれば――石でも、鉄でも、切れるようになるはずだ」


さらに続ける。


「だからまず、水の球を作るときは、形を作るだけじゃなくて、その球をぎゅうぎゅうに握り潰すイメージで圧をかける。そして、その反発で一気に発射するんだ」


そう教え終えたころ、競技開始の合図が近づいていた。


一方、観客席からその様子を見ていたフリードは、ヴェゼルがフルフェンスの顔に水をかけて戯れているようにしか見えず、思わず小さく息を吐いた。


「……うちの息子は、何をやっているんだか。競技前だというのに水遊びとは……肝が据わっているのか、それとも、度胸の使いどころを間違えているのか……」


そのぼやきに、隣にいたエスパーダとリョーガは顔を見合わせ、どちらともなく苦笑する。


ただ一人、事情を知らないアクティだけは、目をきらきらさせて身を乗り出していた。


「ずるい! わたしも水遊びしたい!」


無邪気に声を上げるアクティの言葉だけが、張り詰めた観客席の空気から、どこか浮いて響いていた。



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