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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第497話 エスパーダの思索

先に馬車で帰った面々が宿で寛いでいると、ようやくフリードとリョーガ親子が宿へ戻ってきた。すると自然とフリードの部屋に人が集まっていた。


ヴェゼルは影に忍び込んでいたルドルフとシャノンを、いったんアクティたちの部屋へと預けてくる。


ヴェゼルが部屋に行くと、鑑定を終えた安堵と魔法を授かった喜びが、部屋の空気を明るくしている。


セリカは、もう何度目になるかわからない祝いの言葉を、またアクティに向けた。


「アクティ様、本当に……本当におめでとうございます」


胸元で手を組み、目尻を押さえながら続ける。


「錬成だなんて……今まで聞いたこともございません! それほど尊く、素晴らしい魔法を授かられるとは……さすがでございますわ。私が丹精込めてお育てした甲斐がありました……!」


そう言い切った瞬間、また涙がぽろりと零れる。それが一度や二度ではないものだから、周囲も苦笑混じりに見守るしかなかった。


当のアクティはというと、照れたように頭をかきながら、困ったように笑うだけだ。


「セリカ、もう……泣きすぎよ」


だが、その声にも責める調子はなく、どこか嬉しさが滲んでいる。


フリードはその様子を眺めながら、静かに言った。


「魔法が何であれ……アクティが、その力で幸せな人生を歩めるなら、それでいい」


余計な飾りのない言葉だったが、重みがあった。アクティは一瞬きょとんとしたあと、素直に頷く。


ヴェゼルも小さく笑い、続ける。少しだけ苦笑を混ぜながら、アクティを見る。


「俺の魔法も、まあ……だいぶ変わってるけどさ。アクティの魔法も同じくらい特殊だね。でも――これは、良い意味での特殊だよ。きっと価値のある魔法なんだと思うよ。本当に、おめでとう」


その言葉に、アクティは少しだけ背筋を伸ばし、照れ隠しのように笑った。


エスパーダは腕を組み、先ほどから思考を巡らせたままだ。やがて独り言のように、しかし確かに場に届く声で呟く。


「錬成魔法……。錬金の上位に位置するのでしょうが……いったい、どこまで“できる”魔法なのでしょうかね」


祝福の空気の中に、わずかな思索の影が差す。だがそれもまた、アクティが授かった力の大きさを物語っているようだった。



場がひとしきり落ち着いたところで、エスパーダが静かに口を開いた。先ほどから沈黙を保っていたが、その瞳はどこか思索に沈んでいる。


「一般に、錬金魔法とは“成功率が上がる魔法”と説明されることが多いですが……それは正確ではありません」


そう前置きしてから、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「正しくは、物質の“成立条件”を魔力によって補完し、補正する魔法です。温度が僅かに足りない、配合比が完全ではない、素材の質が落ちている、あるいは術者や職人の技量が不足している――そうした“未達”の要素を、魔力で強引に成立させる」


フリードが腕を組み、ヴェゼルは黙って耳を傾ける。


「ですから、錬金魔法を授かった者は特殊なのです。成功率が高いだけではなく、熟練すると通常なら、一晩かかる調合を数分で終わらせることも可能になりますし、素材の鮮度もある程度は無視できる。本来なら理論上不可能とされる配合すら、成立させてしまうことがあるのです」


そして、少し間を置いて続けた。


「劣化した素材を、“使える状態”にまで引き戻すこともできます。ただし――派手さはありません。戦闘で直接役立つ魔法でもない。ゆえに魔法体系の中では、『平民向け』『裏方』『ハズレ』と軽んじられがちです」


だが、とエスパーダは首を横に振る。


「しかし、戦闘を基準にしなければ、これほど人々の生活と親和性の高い魔法はありません。錬金魔法でも、その術者によっての得意不得意がありますが、医療、建築、農業……あらゆる基盤を下支えする、極めて有用な魔法になり得るのです。オデッセイ様は医療に特化している錬金魔法使いですが」


その視線が、自然とアクティの方へ向いた。


「そして――その上位に位置するとされる“錬成魔法”。正直に申し上げて、非常に興味深い」


ヴェゼルが小さく首を傾げる。「……というと?」


エスパーダは頷き、思考を言葉にするように続けた。


「まだ私の仮説に過ぎませんが。錬成魔法とは、単なる補完ではなく、構造そのものを再設計する魔法ではないかと考えています」


空中に指で線を描くような仕草をする。


「既存の理論を前提とせず、それを無視して“成立させる”。属性の壁を越え、素材が持つ本来の“役割”を書き換える。薬草を単なる治癒素材ではなく触媒に変え、金属を器ではなく魔力の導管として機能させる……そうした再定義です」


そして、静かに結論を述べた。


「すなわち、物質の構造と意味そのものを書き換える上位魔法。もしそうであるなら――ヴェゼルさんの“共振位相”とも、非常に近い概念を持つはずです」


部屋に、短い沈黙が落ちた。


ヴェゼルはアクティを見つめた。


それは“祝福”なのか。希有な魔法として、人々の暮らしを豊かにし、未来を静かに支える力となるのか。あるいは、人の行く先を大きく変え、幸福へ導く灯となるのか。


――それとも。


扱い方ひとつで、世界の均衡すら揺るがしかねない力なのか。


まだ、そのどれでもあり得た。力の価値も、意味も、善悪さえも、今は定まっていない。


ただ一つ確かなのは、アクティの魔法が、その希少性ゆえに、アクティや自分たちの未来に深く関わるものなのかもしれない、ということだけだった。


その答えが示されるのは、まだ少し、先の話である。






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