第45話 ループが、、もう、終わらないじゃない!
A、B、Cとしてますが、実際はこの世界の文字になります。
どんな文字なんでしょうかね?
帝都の宮廷に、辺境のビック騎士爵家のホーネット村からの小包がバネット商会を通じて、また届いていた。
中身は追加の精緻に作られた木製の積み木である。包装を解くと、滑らかに磨かれた木片が顔を出す。四角や三角、円柱といった形は豊富で、ひとつひとつにはビック家の紋が刻まれていた。
木目の美しさと手触りの良さは、一目で子供の遊び道具を超えた価値を感じさせる。前回よりもさらに洗練されていた。
皇妃エプシロン・トゥエラ・バルカンは、手紙と積み木のセットを受け取ると、思わず微笑んだ。
「まぁ……あいかわらず素敵ね……」
皇妃の手の中で、木片を転がす。子供の遊び道具でありながら、教育的価値が見える、
――指先を使うことで器用さを養い、形を認識することで想像力や認識力も育つ。積み木の構造はシンプルであるが、遊び方は無限である。
その説明書に書いてあること、それが真実であることが一目で分かった。
その手紙を読むと、オデッセイからの丁寧な挨拶文と商品説明に続き、最後にはこう書かれていた。
「もし、お礼を賜れるのなら、息子が才ゆえに災いを招いたときは、その折にだけ、庇護を願いたい」
手紙を読んだ瞬間、皇妃は眉をひそめた。
「息子が、才ゆえに……災いを招く?」
思わず執事を振り返る。控えめに立つ執事は、少し言い淀む。
「その……はい、オデッセイ様の御子息でございますが、特殊な魔法の力を持っておりまして……」
皇妃は問い返す。「どのような力なの?」
執事は低い声で説明する。
「影が言うには、りんご一個分の収納魔法のようでございます。通常、収納魔法を授かる者は教会に所属しますが、その容量の少なさのために教会所属にはなれず、一般には“できそこない”と評されているようです。いつも小さな箱を持っているので、奇異の目でみられているとか」
皇妃は眉をひそめ、手紙をもう一度見返す。
なるほど、世間では“できそこない”とされているが、オデッセイはその“できそこない”の息子の非凡さを知っているのだ。
そして、「才ゆえに災いが起こるかもしれないが、その折に庇護を願いたい」と書かれていることから、世間が思っている以上に、この子は並外れた力を持っているのだと直感した。
「なるほど……オデッセイの目は間違いないなさそうね」
手紙を読み終えると、オデッセイの慎重かつ計算された配慮が感じられる。
単なる礼状や贈答ではなく、お金や珍しい品を求めるでもなく、自らの息子の非凡な能力を認めつつ、帝国や皇帝ではなく、皇妃にだけ庇護を願う――そのバランス感覚が、皇妃の心に強く印象づけられた。
手紙と一緒に、オデッセイからの積み木も届いた。前回献上された積み木は皇子シェルパ用として、今回は新たに3セット届いたのだ。
ひとつは皇女エストレヤへ、もうひとつは皇妃の実家の兄の子供へ、最後のひとつは皇城の待合室に置く玩具として試してみることにした。
子供たちは目を輝かせ、積み木を次々と手に取った。色と形が豊富で、手触りも滑らか。木の温もりと適度な重さは、手に馴染み、遊ぶたびに楽しさと学びが融合する。
「これが……!これがわたしのものなのね」エストレヤは叫ぶ。
「これで取り合いすることがなくなったね! 僕が作るのは今日は塔だぞ!」シェルパも負けじと積み木を重ねる。
そこに、さらに国語セットと算数セットが届いた。オデッセイの便りには「知育玩具」とあり、皇妃はその文言に目を細める。
「なるほど、遊びながら学べるように設計してあるのね」
子供たちは国語セットと算数セットで文字や数字を並べ、簡単な計算や言葉遊びを始めた。床に並べられた「+」「=」「A」「B」「C」の文字の山は、見事なカオスを作り出す。
「ちょっと!“1”を、とらないで!」エストレヤが叫ぶ。
「“S”は僕の!」シェルパが応戦する。
皇妃はくすくすと笑いながら手を叩く。「まあ……でも、オデッセイは絶対にわざとこうしているわね。1セットずつしか送らなかったなんて……」
子供たちは楽しみながら、自然と集中力や協調性、計算能力を養う。まさに知育玩具の狙い通りだ。
子供たちは取り合いながらも楽しそうに学び、床には色とりどりの文字と数字の山が広がった。皇妃はため息をつきつつ、オデッセイの非凡さと教育観に敬意を表す。
「……まったく、オデッセイ。子供たちの笑顔と学びを一度に作り出すなんて……」
その日の午後、子供たちは大笑いしながら積み木と国語・算数セットで遊び、皇妃は微笑を浮かべつつ、次の追加注文の手配を考えるのだった。
皇妃はすぐさま執事を呼び、紙と筆を手渡した。手紙には感謝の意を示すとともに、今後の追加注文や教育的価値を記して送る。
皇妃は積み木や算数セットと国語セットの形や組み合わせ方を観察し、将来的に学園や教育熱心な貴族たちがこぞって欲しがるだろうことを直感する。これを見て、皇室御用達として使用許可を出すことを決める。
そして、子供たちはまだ取り合いをやめない。国語セットと算数セットも持ち出され、床に積み上げられた木片が散乱する。
「まぁ……また取り合いね」皇妃は微笑むと、そっと呟いた。
執事は苦笑しながら、必死に子供たちの手から木片を回収する。皇妃の目は、微笑みつつも次の戦略を練る教育者のものだった。
知育玩具としての価値はもちろん、皇室の子供たちの遊び道具としても安全性・教育性ともに高評価を受けた。
オデッセイの便りには明確に「知育玩具」と書かれており、皇妃はこの文面からも遊びだけでなく学びを重視した意図を読み取る。
「これなら、将来の学園も飛びつくだろうし、教育熱心な貴族たちは間違いなく懇願してくるわね」
さらに皇妃は、子供たちが取り合いをして遊ぶ様子を見て、オデッセイの狙い――遊びを通じて学びの競争心を刺激する手腕――に感心する。
「ホーネット村から届いたのは、単なる玩具じゃない……教育の種よ」
皇妃はそうつぶやき、再び執事に筆を渡した。追加注文と感謝の意を迅速に返送させる手筈を整える。
子供たちの笑い声が部屋中に響く中、皇妃は最後にまた、微かに呟いた。
「でも……また国語と算数セットも1セットずつなんて、絶対オデッセイはわざとよ。これじゃ、また追加をお願いしなくちゃいけないじゃない……」
子供たちは無邪気に算数セットと国語セットを組み替え、取り合い、時折笑い転げる。皇妃はその光景を見守りながら、オデッセイとその息子の非凡な可能性と、そして教育者としてのオデッセイの才覚を改めて認識するのだった。
こうして、ビック家の積み木は皇室においても教育的価値を証明し、子供たちの遊びを通して学びを育む一方で、追加注文の確定という形で、ホーネット村の名産品としての道を着実に歩み始めるのだった。




