第420話 お別れ、しかし◯◯はここにはいない
翌朝。
一行は早朝のうちに軽めの朝食を済ませた。
簡単に部屋を片づけると、プレセアたちと共に神殿前へと向かった。既にそこには、土の精霊と四人の土の妖精、そしてアリアの姿があった。
フリード、ヴェゼル、エスパーダ、プレセア、ソニア。犬と猫が足元をうろつき、ヴェゼルの肩には、いつものようにサクラが鎮座している。
「おう、じゃあ道中よろしくな」
土の精霊が豪快に声をかけると、妖精たちも思い思いに挨拶をした。
「よろしくね」「ねえ、途中で美味しいものある?」「おっす!」「おはようございます。これからの道中よろしくお願いします」
――どうやら、全員かなり個性的らしい。
その様子を見ていたアリアは、そわそわと辺りを見回し、ヴェゼルの肩にいるサクラに気づいて一瞬目を丸くした。
だが、次の瞬間には満面の笑みを浮かべる。
「お母様!」
勢いよく飛びつかれ、サクラが叫ぶ。
「だから! お母様じゃないし!!」
だがアリアはまったく意に介さず、サクラに頬ずりしている。
ヴェゼルたちはその光景を見なかったことにして、見送りに来ていたエコニック、タンドラ、フェートンに挨拶をした。
代表してフリードが一歩前に出る。
「世話になったな。また会える日を楽しみにしている。俺は来いと言えば必ず来るからな!」
互いに握手を交わし、続いてプレセアとソニアとも別れの挨拶をする。
「じゃあな。また遊びに来いよ」
馬車に乗り込もうとした、その時。
ソニアがシャノンを抱きしめ、名残惜しそうに囁いた。
「また、必ず会いましょうね」
今度は意を決したようにフリードの前に立つ。
「……必ず行きますので。待っていてください」
真剣な眼差し。
フリードは一瞬固まり、何を言えばいいのかわからず――
「……おう」とだけ答えた。
それを見ていたエスパーダが、ヴェゼルに小声で囁く。
「あの返事は……大丈夫なのでしょうか」
ヴェゼルは苦笑いした。
「いや、ダメだと思います。ああいうのを曖昧にすると、後で確実に大事件になりますよ。知らんけど……」
「……ですよね」二人は同時に深く頷いた。
そこへ、プレセアがヴェゼルの前に立つ。
「色々あったけど……ありがとう。いい経験だったわ。兄弟がいないから、弟ができたみたいでさ」
「俺も姉がいないので、こういう感覚なんだなって思いました。貴重な経験でした。お元気で」
そう言った次の瞬間、プレセアはさっと抱きつき、ヴェゼルの耳元で小さく囁く。
「……絶対、綺麗になってバインバインになるから。それまで待ってなさい」
顔を真っ赤にして、そのまま馬車へ。
呆然と立ち尽くすヴェゼルの顔が、次の瞬間、ふわりと柔らかな感触に包まれる。
フェートンだった。
「……ありがとうございました」
それだけ言って、名残惜しそうに一歩下がる。
最後にエコニックがヴェゼルの前に立ち、静かに手を差し出した。
「あなた方との出会いが、私――いえ、この国の未来につながるようにしてみせます。どうか、ビック領から見守っていてください」
固く握手を交わす。
エコニックはその後、エスパーダの元へ向かい、何か短く言葉を交わしていたが、その内容までは聞こえなかった。
やがて、馬車が動き出す。
プレセアとソニア、そしてフリード一行は、馬車の窓から体をはみ出して、手を振りながら遠ざかっていった。
神殿前に残されたのは、エコニック、タンドラ、フェートン。
馬車が見えなくなるまで見送る三人。
タンドラがぽつりと言う。
「……実に、気持ちのいい方々だったな」
「ええ。きっと、また会える日が来るでしょう」
そう答えたエコニックの隣で、フェートンが胸に手を当て、少しだけ切なそうに微笑む。
「ヴェゼルちゃん……私の心を、盗んでいってしまったのかもしれませんわね」
エコニックはその真意にも気づかず穏やかに笑った。
「ええ。確かに――心を掴むのが、とてもお上手な方でしたからね」
タンドラは、困ったように苦笑いする。
「まぁ、確かにフェートンの心…………いや、胸が…大好きだったようだからな……」
冬の朝の風が、神殿の前を静かに吹き抜けていった。もうしばらくすると、教国にもやがて春は訪れる。
雰囲気は、『あなたの心です。』と言って、『はい』と答える。
そして車が遠ざかり、、、
山に消えていき、、
Fin
○形警部がいないなぁ。。




