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第418話 最後の晩餐01

そして一行は、施術院へと戻ってきた。


帰路につく際、例の近道――あの「穴」を再び通ろうとしたところで、見送りに出てきたエコニックに呼び止められた。


「今日は……どうか、お願いですから正門からお帰りください」


苦笑い混じりの、しかしどこか必死な頼み方だった。


フリードは一瞬だけ視線を泳がせ、状況を察したように肩をすくめる。


「……まぁ、そうだよな」


こうして一行は、堂々と正門を通って施術院へと帰還することになった。


徒歩で数分の道のりを、あれこれと雑談しながら歩く。その中心で、フリードの胸には――どう見ても冒険者風の装いには不釣り合いな、やたらと輝く勲章が鎮座していた。


明朝にはエコニックが馬車を用意してくれるという。神殿前で集合し、土の精霊と、アリアを含む妖精たちと合流する手筈だ。


なお、アリアはサクラと離れるのを全力で嫌がったが、

「明日からは、ずっと一緒だから」と何度も言い聞かせ、なんとか納得させた。


……結果、大泣きされたのは言うまでもない。


そして同時に、プレセアとソニアとも今夜で別れとなる。


「せっかくだから、最後の夜は一緒に過ごしましょう」


そう言って、二人は施術院に泊まることを選び、皆で同じ部屋へと戻った。


今夜は、名残を惜しむ晩餐である。


ヴェゼルは「最後だから」と少し奮発し、収納箱から羊乳のシチューと、ふわふわに焼き上げた白いパンを取り出した。


「わあ……!」パンが並んだ瞬間、歓声が上がる。


祈りもそこそこに、誰からともなく手が伸び、気づけばパンとシチューは次々と姿を消していった。


シャノンはソニアの膝に乗り、得意げに口を開けて食べさせてもらっている。


ルドルフはヴェゼルの隣に陣取り、満足そうにシチューを舐めていた。


食卓では、プレセアとソニアを中心に、ホーネット村からの道中、施術院での騒動、神殿突入時の顛末など、思い出話に花が咲く。


ひとしきり笑った後、プレセアがふとヴェゼルを見て、にやりとした。


「それにしてもさぁ、ヴェゼルちゃんって……ほんと分かりやすい子よね」


「え、なにがです?」


「ほら、フェートンさんのときとか。あんなに――バインバインが好きなのって」


その瞬間、ヴェゼルは一度だけ鋭い視線を向け、次いで背筋をぴしっと伸ばした。


「……男なら、誰だって憧れはありますよ。ね、父さん?」


突然振られたフリードは、咳払いを一つして視線を逸らす。


「……コメントは差し控える」


そこへ、首を傾げたソニアが、妙に柔らかな声で尋ねる。


「そうなのですか、フリード様?」


「…………」


答えられず、赤くなって黙り込むフリード。


食卓に、ほんの一瞬だけ、奇妙な沈黙が落ちた。


その空気を察してか、エスパーダが淡々と告げる。


「私はアトン一筋ですので。大きさは特に問いません」即答だった。


それを聞いたプレセアは、わざとらしく天を仰ぐ。


「あーあ。どこかに、気の利いた素敵な男性、転がってないかしらねぇ」


視線は、完全にヴェゼルを捉えている。


するとその隣で、少女ほどの大きさになったサクラが、平たい胸を張って言う。


「私にはヴェゼルがいるから大丈夫。よね?」


「え、あ、まぁ……」


歯切れの悪い返事に、プレセアが声を上げて笑う。


さらに、ルドルフからの念が飛んできた。


『私も、人型になって、バインバインになる!』


「目標、そこなんだ……」


ヴェゼルは苦笑いし、軽く咳払いをして話題を切り替えた。


「でも、プレセアさんも素敵な女性だと思いますよ」


「ほんと!? やだ、嬉しいじゃない!」ぱっと花が咲いたように喜ぶプレセア。


――が、次の瞬間。


「……もっとも、僕個人としては、まったく興味ありませんけど」


一瞬の静寂。


「きーっ!」


椅子を蹴りそうな勢いで立ち上がるプレセアを、慌ててエスパーダが制する。


「まぁまぁ、お二人とも。最後の夜なのですから、そう、じゃれてないで」


「「じゃれてない(ません)!」」


声がぴたりと重なり、部屋はどっと笑いに包まれた。


エスパーダは肩をすくめる。


「本当に……姉弟のように仲がよろしいですね」


その言葉に、ヴェゼルとプレセアは同時に心の中で否定する。


――それは、大きな勘違いだ。


するとプレセアが、何かを思いついたように手を打った。


「そうだ! 私とソニアは姉妹同然だから、もしソニアがフリード様と結婚したら、私がヴェゼルちゃんの実質お姉さん――」


「ならねえよ!」即座に飛ぶツッコミ。


再び部屋は笑いに満ちる。


一方で、フリードとソニアは揃って顔を赤くし、視線を逸らしていた。


その様子を横目に、ヴェゼルは内心で思う。


(……この反応を見る限り、案外ほんとに夫婦になるのかもしれないな)


(母さん――オデッセイは、許してくれるんだろうか)


そんなことを考えながら、最後の夜は、笑い声に包まれて、ゆっくりと更けていった。



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