第415話 錬金の妖精アリア03
そして椅子に座ると、眠ってしまったアリアを、ヴェゼルは両手で包み込むように抱え直し、そのまま土の精霊へ向き直った。指先に伝わる体温は小さく、けれど確かに鼓動を感じる。
「教国との件も、これで全部終わりました。早ければ、明日にでも帰ろうと思っています」
そうヴェゼルが告げると、土の精霊は腕を組み、うんうんと大きく頷いた。
「そうじゃな。面倒じゃから、ワシもそれに便乗してお主の所へいこうかの」
フリードを見ると、フリードも特に深く考えた様子もなく、頷いた。
すると土の精霊が、ぱっと思い出したように声を上げる。
「そうじゃ! フリード殿とヴェゼルよ。こやつらもワシについて行きたいと言うておる」
そう言って指さした先で、四人の妖精が慌てて横一列に整列した。
「ルーミーです!」「タンクだよ!」「トールっす!」「ジャスティと申します!」
ルーミーは元気いっぱいの女の子、タンクは少しふっくらした男の子、トールは背の高い男の子、ジャスティは眼鏡をかけたおっとり真面目そうな女の子。揃いも揃って、見るからに土の妖精だった。
「こやつらは、ワシの仕事も手伝ってくれるじゃろう」
「なるほど……」
ヴェゼルは頷きながら、ふと腕の中のアリアへ視線を落とした。
「それで……一つ聞いてもいいですか。どうして、この子だけ一人で教国のあの奥の部屋に残っていたんですか?」
その問いに、四人の妖精は顔を見合わせ、少し気まずそうに口を開いた。
「アリアはね、精霊様がいないから仲間はずれなの」「暗いし、いつも一人だし」「誰とも話さないし」「食べないから、やせっぽちで髪もボサボサ!」
遠慮という言葉を知らない直球回答だった。
土の精霊が、咳払いを一つして説明を引き取る。
「アリアはのう、上位の属性精霊がおらんのじゃ。普通、属性ごとに精霊がいて、同じ属性の妖精に恩恵を与える。魔力を分け、力を与え、共に格を高める。持ちつ持たれつの関係じゃ」
ヴェゼルは静かに聞いている。
「だが錬金は違う。錬金の精霊は存在せんのじゃ。だから同じ属性の妖精もおらん。常に一人じゃ。上位精霊がおらんから馬鹿にされ、蔑まれてきた……」
そして、ちらりとサクラを見る。
「ある意味、闇よ。お前と同じじゃ。闇もまた、同じ属性の精霊も妖精もおらん。その辛さは、わかるじゃろう?」
サクラはしばらく黙っていたが、小さく頷いた。
そのやり取りを聞いていた土の妖精たちが、はっとしてサクラを見た。
「えっ……?」
「この人、闇の精様なの?」「え、あの……国堕とし……?」「こ、怖い……」「僕を食べるの?……」
一斉にぶるぶると震え出す。
ヴェゼルは深くため息をついた。
「サクラは怖くないよ。いい子だし」
そう言って、さらっと続ける。「俺の婚約者だしね」
「えっ!?」今度は妖精たちが揃って声を上げた。
「精様と人間って、結婚できるの!?」
「……うーん」
ヴェゼルは一瞬、言葉に詰まった。体の大きさも違うし、きっと体の構造も違うのだろうし、染色体はどうなのだろうか、そもそも子供ができるかもわからない。
「まあ、その辺は……大人になってから考える……かな」
言葉を濁した。
そして、ヴェゼルは気を取り直して告げた。
「土の精霊様がうちの領に来ることになったのは聞いたよね? 君たちも一緒に来るなら、約束を守ってもらうよ?」
内容を聞く前に、四人が揃って元気よく叫ぶ。
「わかった!!」
「……まだ何も言ってないけど」苦笑しつつ、ヴェゼルは指を折って条件を並べる。
「人間と仲良くすること。妖精同士も仲良く。もちろんサクラとも仲良くね。サクラは先に住んでる先輩だから、サクラの言うことは絶対」
サクラが胸を張る。
「それから、うちではみんな何かしら仕事をしてる。ただ食べてゴロゴロするだけはダメだよ?」
そこで、ちらりとサクラを見る。
「特に、俺の頭の上で食っちゃ寝して、ゴロゴロして、涎を垂らして寝るのは絶対禁止」
四人の妖精は、神妙な顔で手を上げた。
「はいっ!!」
そこで、メガネのジャスティがぼそっと呟く。「そんな自堕落な妖精なんているんですか?」
しかしその横で、サクラがじっとりとした目でヴェゼルを見上げる。
「……それって、私も含まれる?」
ヴェゼルは満面の笑みで、即答した。
「もちろんさ!」
サクラの眉が、ぴくりと動いた。
――教国を後にする準備は、思わぬ賑やかさを増して進んでいくのだった。
トヨタ&ダイハツ四兄弟!




