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第40話 白樺でシロップを作ろう、、、が?

 森の端で先日採取してきた樹液を、ヴェゼルとオデッセイは大きな鍋に移していた。


 アクティもセリカと一緒に、何かの液体を茶碗に移す。。


ヴェゼルが鍋に入れた樹液は透明でほのかに甘く、白樺の自然な香りが漂う。


「このままでは保存が効かないし、もっと濃縮しないと甘味として使えないわね」


オデッセイは手際よく説明し、錬金塔での経験から、火加減を調整する。


ヴェゼルも前世の知識を思い出し、火を弱めてじっくり煮詰める。


オデッセイとヴェゼルが台所で樹液を煮詰めているのを見ていたアクティは、目をきらきらさせて「わたしもやる!」と大張り切り。


アクティもセリカの手を借りて何かを煮詰めていく。


「コトコトー、コトコトー」と言いながら。


どうやら、台所にあった――魚の煮汁やら、残り物の野菜の汁やらを片っ端から鍋に投入。ぐつぐつと得意げに煮込み始めた。


やがてアクティの鍋からは、どこか酸っぱいような、焦げたような、形容しがたい香りが立ちこめていた。


そんな怪しい臭いの液体を横目に、


ヴェゼルが「焦がすと風味が落ちるから、温度を一定に保つんだよな……」


鍋の中で樹液がゆっくりと透明から琥珀色へと変わっていく。


煮詰める間も、灰や石灰で調整した薪の火で温度を安定させる。


オデッセイは鍋の周りでかき混ぜながら、香りを確かめる。


「良い香り……自然の甘味だけで、これほどの風味になるのね」


ヴェゼルも小さなスプーンで少量を舐める。


「うん、十分に甘い。これなら保存もできる」


煮詰めることで水分が飛び、濃度が増し、瓶に詰めれば長期間の保存も可能だ。


アクティも興味津々で鍋の縁に寄り、香りを吸い込む。


「すごーい、あまーい、におーい!」


小さな声に、オデッセイとヴェゼルは微笑む。


最後に火から下ろし、熱いうちに消毒した小瓶に樹液を注ぐ。


「これで甘味を料理や保存食に使えるね」


ヴェゼルは、将来の領民への配布や保存食作りのため、ラベル代わりに焼印を押した小瓶も用意することを考えた。


こうして森の恵みを活かしたシロップ作りは、戦国の東北でも十分に実現可能であることを、ヴェゼルたちは確信する。


甘味の確保は、村人の士気や食生活の向上にもつながり、現代知識を生かした領地運営の第一歩となるのだった。





アクティも「できたー! おとーさーん、あーんして!」


木匙に掬ったドロリとした液体を、父フリードに差し出した。


フリードは愛娘の期待に満ちた瞳を前に、逃げられるはずもない。


「……こ、これも父の務めだな」


覚悟を決めて口に含んだ瞬間――


「う、うぉっ!!!」


フリードの顔が青ざめ、目がぐるぐる回る。


しかしアクティは大満足。


「えへへ、おとーさんも、きにいったー!」と満面の笑み。


館には、笑いとツッコミが響き渡った。





引き続き、台所には、先日カムリたちに集めてもらった白樺の樹液の瓶が再びいくつも並んでいた。


前回シロップ作りに成功したので、また集めてもらったのだ。


ヴェゼルとオデッセイは、アビー一家が来たり、森でオークに遭遇した騒動があったため、樹液のことをすっかり忘れていた。


「あれ、そういえば……」


ヴェゼルが思い出すと、二人は慌てて台所へ向かった。


瓶に目をやると、樹液は透明なままではなく、表面に小さな泡がプチプチと浮かんでいる。


「……ん? これ……発酵してる?」


オデッセイも目を丸くする。


そう、台所で使っていたパン用の酵母が樹液に入り込み、ちょうど一次発酵を終えた状態になっていたのだ。


樹液はほのかに琥珀色を帯び、甘味に発酵の香りが混ざっている。ほんのりアルコールの香りも漂った。


「これ……お酒になってる!」


ヴェゼルはびっくりしつつも、自然発酵の偶然に目を輝かせる。


オデッセイも驚きと喜びを隠せず、瓶を手に取って確認した。


「台所の酵母でここまで発酵するなんて……この香り、結構上質ね」


それを聞いたフリードは飛び上がるように大喜びする。


「おおっ、これはまさに辺境の我が領では滅多に手に入らない逸品だ!」


普段は地味な作業ばかりの採取や樹液集めが、こんな豪華な結果になるとは思ってもみなかった。


翌日、フリードとカムリは再び森に出かけ、白樺樹液を大量に採取してきた。


「今回は本格的にお酒作りだな!」


ヴェゼルは笑いながら頷き、オデッセイも鍋や瓶を用意して作業の準備を整える。


再び火にかける前に、樹液を丁寧に濾し、温度を調整してじっくり煮詰める。


前回の偶然の成功を踏まえ、今回は計画的に発酵・アルコール化させる段取りを考える。


高級なお酒として保存するため、瓶や保存方法にも注意を払った。


樹液が琥珀色に濃縮されるにつれ、香りが台所に立ち込める。


「いい匂い……これなら村人や領民にも喜ばれそうね」


オデッセイが微笑むと、ヴェゼルも嬉しそうに頷いた。



アクティも先ほどから作っていた、また新たな液体の煮込み?をフリードへ試飲してもらうために、たっぷりとお茶碗に注いでいた。匂いがきついのか顔をしかめながら。



その後、フリードの執務室からまた絶叫が上がったとか。。





こうして、森の恵みは偶然の発酵によって初めてその価値を示し、再び計画的に加工されることで、ビック領の辺境でも珍しい高級酒として仕上がることとなった。


フリードやカムリの笑顔、オデッセイの満足そうな表情、そしてヴェゼルの誇らしげな顔、アクティの極悪?な表情が、、台所を明るく彩った。


これから先、白樺樹液の収穫と加工は、村の生活や保存食・贈答品作りの大きな柱の一つになっていくことだろう。

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