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第04話 そしてヒロイン?だよね?登場

昼前。


村の広場は、すでにお祭りムードで大騒ぎだった。


太鼓的な楽器が「ドンドコドンドコ」鳴り響き、笛?がピーヒャラと追いかける。


広場の真ん中では子どもたちが竹馬モドキで勝負して転び、転んだ拍子に屋台の串肉をひっくり返し、店主に怒られていた。



……のに、俺の胃は別の意味でキリキリしていた。


なぜなら――今日、ついに「アヴェニス登場イベント」の時間だからだ。



「……くるぞ……きっと来るぞ……」


祭りのざわめきにかき消されながらも、まるでホラー映画の被害者みたいに呟く俺。


心の準備? できるわけがない。


昨日転生してきたばっかりの異世界初心者に、「幼馴染再会フラグ」なんて処理できるわけがないだろ!?


だって俺、55歳で心筋梗塞して死んだおっさんなんだぞ!?


どんな顔して「幼馴染」とかやりゃいいんだ。



……と、そんなとき。


人ごみの向こうから。


「ヴェゼルー!」


鈴を転がしたみたいな声が響いた。


――うわ、来たぁぁぁ!!


俺の名前呼ばれた! しかもフルボイス!!


振り返ると、そこに現れたのは瞳が翡翠色で栗色の髪をふわりと揺らす少女だった。


年は……たぶん俺と同じくらい?


いや、俺の肉体基準で同じくらい、って意味だけど。


ただ、振る舞いは完全に「お姉さんモード」だった。


「なによ、その顔! 私と会えてそんなに嬉しいの?」


腰に手を当て、どや顔。


まるで「世界を救ったのは私ですけど?」と言わんばかり。


……え、いや、ちょっと待って?


あの、初対面なんですけど!?


俺の中では完全に「謎の新キャラ」なんですけど!?


「お、おう。アヴェニス……じゃん?」


恐る恐る名前を確認するように呼んでみる。


内心はもう入試の面接試験。


「これで合ってますよね?ね?ね?」って祈る受験生の気分だ。


すると彼女は、ぷくっと頬を膨らませた。


「なによそれ。幼馴染なのに、呼び方がよそよそしいわよ!」


彼女の眉が、ぴくりと跳ねた。


「……はぁ?」


アヴェニスは腰に手を当て、じとーっと俺をにらんできた。


「ちょっとヴェゼル。何それ。“アヴェニス”って、よそ行きみたいに。普段は“アビー”でしょ?」


「えっ、あっ……」


やばい!完全に地雷踏んだ!?


前世で言えば、妻をフルネームで呼んだくらいの違和感らしい。


(あぁぁぁぁ!昨日転生したからそんな情報まだアップデートされてません!)


必死に取り繕う俺。


「あー、えっと、その……久しぶりすぎて、つい、ね? ほら、“アヴェニス”ってちゃんとした響きもいいなーって……」


「ふーん?」


アビー(仮)はぷくっと頬を膨らませ、さらにじっと睨む。


「ま、いいわ。どうせまた“アビー”って呼ぶんだから」


――セーフ!


ギリギリで“幼馴染ルート”のフラグを折らずに済んだらしい。


いや危なかった……!俺の異世界人生、開始5分でゲームオーバーになるところだった!


そのあとアビーは、当然のように俺の腕をがしっと掴んだ。


「ほら、一緒に祭りを回るのは去年と同じでしょ?」


「えっ、そうなの!? ……あ、うんそうだね!」


(去年!?知らんぞそんなの!俺まだ昨日来たばっかり!)


心の中で全力ツッコミを入れながら、俺は人混みに連行されていった。


「え、あー……だよね! だよねー! 幼馴染だもんねー!」


必死に合わせる俺。声が裏返った。


「はぁ……ほんとヴェゼルは昔からそう。肝心なときにぼんやりしてるんだから」


(――昔から!?)


心の中で全力ツッコミ。


俺、昨日転生したばっかりなんですけど!?


昨日! 一昨日とかじゃないぞ!? 昨日だ!!


けど、それを口に出したら即アウト。



その間にも、アヴェニスはずんずん近づいてきて、当然のように俺の腕を取った。


「さ、行くわよ。お祭りは待ってくれないんだから!」


「え、ちょ、ちょっと待っ――」


有無を言わせぬ力でぐいぐい引っ張られる俺。


だから必死に営業スマイルを発動しつつ、ひたすらうなずくしかなかった。


もうこれ、完全に「クライアントの無茶振りに対応するデザイナー」の顔ですやん。


「ま、いいわ。今日はお祭りなんだから、私がしっかり案内してあげる!」


アヴェニスは胸をドン!と叩いて宣言する。


「え、案内してくれるの?」


「そうよ! だって私は“お姉ちゃん”だから!」


――いやいやいやいや。


ちょっと待てコラ。俺たち同い年だろ? 幼馴染らしいだろ? ってか、精神年齢なんて50も上だぞ、オラ!と、心の中でオラついて見る。


なんで勝手に姉ポジションに収まってんの!?


この村でお姉ちゃんキャラの需要が不足してるのか? それとも本人の脳内ランキングで俺は永遠の「弟属性」扱いなのか?


とはいえ、ここで「いや俺、精神年齢55歳なんでお姉ちゃんより上です」とか言ったら、確実に「なに寝ぼけたこと言ってんの」って笑われて終わるやつだ。


結果、俺はサラリーマン時代で培った必殺技――「営業スマイル」を発動。


口角だけが引きつった笑みを浮かべ、うんうんと全力で同意しておいた。




するとアヴェニスは満足げにニカッと笑い、俺の腕をガシッとつかむと――そのまま人混みへと突撃していった。

「さぁ、最初は干し芋よ!」


「え、いや、食べるところから!? 祭りのメインイベントとかじゃなくて!?」


「雰囲気を楽しむのは二の次! まずは甘いものでテンション上げるのが鉄則よ!」


ぐいぐい引っ張られる俺。


腕、完全に子ども扱いされてるんだけど。いや、身体的には確かに子どもなんだけどさ。


人混みをかき分けて進むと、干し芋台の前に到着した。


「ほら、これ二つちょうだい!」


アヴェニスは元気よく手を挙げ、俺の分まで当然のように注文する。


支払いもサラッと済ませて、どん!と俺の手に渡してきた。


「はい、弟のぶん!」


「……ありがとう。でも“弟”って言うな」


返す言葉は弱々しかった。だってすでに片手には巨大な干し芋。顔の大きさくらいある。


子どもが持てば似合うけど、中身アラフィフのおっさんがこれを持つのは拷問に近い。


「ふふん、似合ってるわよ」


アヴェニスは勝ち誇った顔で干し芋をパクッとかじる。


あーあ、この顔。絶対に「私が主導権握ってます」って顔だ。


でも……不思議だ。


胃はまだキリキリしてるし、精神的には混乱してるはずなのに。



記憶はゼロ。昨日までこの子のことなんて知らなかった。


なのに――自然と馴染んでしまう。


「……もしかして、この子、ほんとに俺の“幼馴染”なのか?」


祭りのざわめきの中で、俺はふとそんなことを思った。


そして次の瞬間、アヴェニスは元気いっぱいに次のターゲットを指さす。


「次は焼き魚よ! ほら、早く!」


「おい待て、さっき“甘いものでテンション上げる”とか言ってたろ!? 食べ歩きフルコースかよ!?」


――俺の胃袋、今日で確実に限界突破する。


広場の中央では、酔っ払いが舞を踊りだして周りの人に頭を小突かれている。


そして俺はその人混みを、半ば引きずられるようにアヴェニスに連行されていった。


「次は射的! そして踊り!」


アヴェニスはまるでツアーガイドみたいに指さしながら宣言する。


……あのさ。


俺、昨日までサラリーマンで、今日から転生したばっかなんだ。


チュートリアルすっ飛ばして、いきなり「祭りデート本編」突入ってどういうこと!?


胃のキリキリはさらに悪化する。


でも、不思議なことに。


アヴェニスの後ろ姿を見てると――ほんの少しだけ、安心してる自分がいた。


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