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第39話 アビーの帰郷 そして木の木陰で、、、

朝の光が領館の窓から差し込み、冷たい空気を優しく照らしていた。


ヴェゼルが朝食を食べに一階に降りると、そこには、泊まり込んでいたアビーと父親のバーグマンの姿があった。


どうやら、昨夜の出来事を知って、二人は心配でそのまま寝泊まりしてくれたらしい。


「ヴェゼル、大丈夫?」アビーの声には屈託のない笑顔が混ざっていた。


目をぱちくりとさせたヴェゼルに、彼女はそっと手を差し出す。


「守ってくれて、ありがとう……」小さな声だが、感謝の気持ちは十分に伝わる。


ヴェゼルは少し照れながら頷く。


「……うん、気にしなくていいよ」


バーグマンも少し笑みをこぼし、ヴェゼルの肩に手を置く。


「娘を守ってくれたな。礼を言う。お前の勇気と覚悟を誇りに思う」


フリードは、なぜか胸を張って誇らしげにしている。


「ふむ、なるほどな。やはり我が家の若き守護者は頼もしい限りだ」


その言葉に、ヴェゼルは小さく照れくさそうに目をそらす。


アビーはにっこり笑いながら、さらに付け加える。


「今度会えるのは、来年のあのお祭りかな? 絶対に手紙を書くのよ!」


ヴェゼルは小さく頷く。お祭りでの再会を楽しみにしながらも、日常に戻る喜びが胸に広がる。


朝食を済ませると、アビーは帰路につく時間が近づいた。





領館の出口、古い大木の下で、彼女はふと立ち止り、ヴェゼルの袖をとって木の影に引き摺り込む。




彼女は小さく息を整え、ヴェゼルの顔を見つめる。


「……ヴェゼル……ありがとう」


言葉を口に出す前に、アビーは一瞬迷った。


胸の奥で、礼と感謝、少しのときめきが入り混じり、心臓が高鳴る。


彼の目を見つめると、自然と顔が赤くなるのを感じ、手は軽く握りしめられたまま。


ヴェゼルもまた、視線が合った瞬間に胸がざわついた。


アビーは少し息を呑み、心の中で自分を励ますように小さく頷く。


そして、そっと手を伸ばすと、ヴェゼルの頬にチュッと軽く口づけした。


その瞬間、二人の間に静かな時間が流れた。


ヴェゼルは驚きと温かさで顔が赤くなり、心臓が跳ねる。


「え、あ……あ、ありがとう……」


小さな声が漏れたが、自然に笑みがこぼれる。


周囲には大人たちが見守っているが、誰も口を挟まない。


察しているのだろう、互いの気持ちを尊重し、静かに見守っている。


アビーは頬をほんの少し赤くして、恥ずかしそうに笑いながら、でも心からの安堵感を胸に抱いて立ち去る準備をする。


その背中に、ヴェゼルは小さく手を振った。


二人の心に、短いけれど濃密な感情の瞬間が刻まれた――礼と信頼、少しのときめき、そして守るべきものへの決意。




アビーは最後に振り返り、手を振った。


「じゃあね、ヴェゼル。手紙、楽しみにしてるわ!」


ヴェゼルも手を振り返し、笑顔で応えた。


「うん、必ず書くよ!」


そしてアビーたちは帰って行った。



オデッセイは温かい目で二人を見守り、フリードは日常の仕事に戻る。


窓の外には、冷たい風が森を揺らし、冬の気配が静かに訪れていた。木々の葉は落ち、枯れ枝が地面に散らばる。冬の寒さが迫り来る中で、領地の生活は厳しさを増していく。


だが、ヴェゼルは知っていた。恐ろしい力も、困難も、笑いと愛する者たちの存在があれば乗り越えられる――と。


森の静寂と、冬の冷たい空気の中で、少年は小さく深呼吸した。これから先、どんな厳しい日々が待ち受けていようとも、大切な人々と守るべきものがいる限り、日常は続いていく――。


温もりに包まれた朝は、冬の訪れと共に、静かに幕を閉じようと、したその時――――





そんな中、アクティが突然、ぽんと手を叩く。


「おにーさま! アクティにもチュッてして!」


小さな体から溢れる元気と無邪気さに、全員が一斉に吹き出す。


アクティの無邪気な一言が、朝の緊張を一気に溶かした。


ヴェゼルは苦笑しながらアクティを抱き上げ、頬に軽くキスをする。


「よしよし、分かったよ」


アクティは大喜びで手足をバタバタさせ、笑い声が小屋いっぱいに響いた。


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