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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第367話 道中での遭遇07

エスパーダの言葉に「神」という響きが混ざった瞬間、エコニックの横顔に硬い影が落ちた。


焚き火の炎が揺れ、その影はまるで彼女自身の良心を引きずり出すように震えた。エスパーダはそれを察し、小さく息を潜めながら続けた。


「ヴェゼルさんは──目の前で、心から愛し合っていた婚約者をクルセイダーに突然襲われ、殺されました。彼女は何も悪くなかった。それでも、殺されたのです。……それを怒らない人間がいますか?」


その問いは、焚き火の熱よりも鋭く空気を裂いた。エコニックもフェートンも言葉を失い、炎のはぜる音だけが耳に残る。エスパーダは淡々と、しかし胸底に沈めた怒りを隠そうともせず重ねた。


「今回も同じです。フリード様もヴェゼルさんも、誰ひとり悪くなかった。それなのに、妖精がいる──ただそれだけの理由で、教国は千もの魔物をホーネット村へ差し向け、風の妖精と十人のクルセイダーを使い、サクラさんを攫うために村を襲ったんです。……そんな暴挙を“許せる”領主が、どこにいると思います?」


エコニックは震える手でスプーンを握りながら首を振った。エスパーダはその反応を見て話す。


「……許せるはずがありません。私も……今なら、はっきり言えます。あれは、クルセイダーたちは殺されても仕方のないことをした。……私は、あの時は教国の主教でした。知らなかったとはいえ……教国の者として、私に怒りを向けられても当然のことだと今は思っています……」


その告白に、エスパーダは静かに目を細めた。エコニックは視線を伏せたまま頷き、その頷きは己の過去を受け入れる苦渋そのものだった。


エスパーダは続けた。


「ビック家を教国が悪く言うのは、まぁ仕方ないでしょう。実際、ヴェゼルさん達はすでに多くの教国のクルセイダーを殺してますからね。……ですが、きっかけを作ったのはすべて教国です。ヴェゼルさん達がわざわざクルセイダーを殺しに行ったわけではありません」


ここでエスパーダは微笑みながらエコニックに語る。


「エコニックさん、一度ホーネット村へ行ってみると良いですよ。あそこは本当に良い村です。領主も、領民も、みな優しい。それに──ビック領では孤児も、飢えて死ぬ者も、一人もいません。一人も、です」


その言葉は、エコニックの中の常識を音を立てて崩した。


教国の聖都ですら一歩裏道に入れば、孤児が溢れ飢えた民の呻きが昼も夜も消えることはない。


それは“世界の常識”であり、どの地方に行っても必ず存在しているのだた。エコニックは施しを与え、癒しの魔法で傷病を治しながら、その現実に目を背け続けた。


自分ひとりでは世界は変えられない……そう思い込むことで、罪悪感に蓋をしてきたのだ。


綺麗な衣装、温かい部屋、美味しい食事──自分は飢えを知らず、しかし同じ国の民は冬に震えながら死んでいく。


その矛盾はいつも胸を刺していた。


あの盗賊でさえ知っていた。教国は民から重い税を搾り取り、上層だけが満ち足りた生活をしていると。


エコニックは心の底に沈めていた苦しみを、今ようやく形として吐き出せた。そしてその重さに押しつぶされるように、エスパーダを見る。


「エスパーダ様……私は、これから……どうしたら良いのでしょうか」


焚き火が落ち、影が深くなる。エスパーダは一瞬だけ逡巡し、やがて腹を括ったように口を開いた。


「フリード様とヴェゼルさんと……私の三人で、今から教国に“戦争”に向かいます。たった三人ですが、総主教と風の精霊を叩き潰すつもりだとフリード様は言っていました。私にはそんな力はありませんが……私は、それを見届けようと思っています」


エコニックの顔から血の気が引く。


「そんな……そんな無謀な……! それではまるで、死にに行くようなものではありませんか!」


しかしエスパーダは笑った。焚き火の光を受けたその笑みは、どこか達観した者のそれだった。


「私は死ぬかもしれませんが、叩き潰されるのは教国の首脳でしょう。あのフリードさんとヴェゼルさんですよ? あのお二人が負けるはずがありません」


その確信に満ちた口調は、誇張でも虚勢でもなかった。エコニックは震える声で尋ねた。


「……そんなに、お強いのですか。噂以上に……?」


エスパーダは短く息を吐き、肩をすくめた。


「噂がどこまで広まっているかは知りませんが……あのお二人が負ける光景は、どう想像しても浮かびません。誰が来ても、です」


エコニックもフェートンも絶句した。


目の前では、サクラとルドルフがヴェゼルの膝の争奪戦がさらに激化し、ついにはシャノンまで乱入してぐちゃぐちゃの大騒ぎになっている。


その騒ぎをヴェゼルは困惑しながら、フリードとプレセアは穏やかに微笑みながら眺め、ただソニアだけがシャノンを心配してそわそわしていた。


焚き火の炎が三人の表情を照らし、騒がしくも温かな光景の奥で、エコニックの胸の奥では静かに価値観が反転していた。




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