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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第366話 道中での遭遇06

徐々に薄く暗くなりかけた空を見上げたヴェゼルは、すぐにその気配に気づき、鋭い光を瞳に宿した。彼はゆっくりと胸ポケットを押さえ、エコニックとフェートンへ視線を向ける。


その目を受けた瞬間、二人の肩が小さく跳ねた。


低い声が雪の上で冷たく響く。


「──これから見せるものを、誰かに漏らすようなことがあれば……あなた方の命はないと思ってください」


その声音には怒りではなく、揺るぎない決意だけがあった。エコニックとフェートンは互いに一瞬だけ視線を交わし、蒼白のまま硬い声で答える。


「……わかりました。誰にも、決して」


その時、エスパーダが苦く笑い、二人の前へ歩み出た。


「ヴェゼルさん。彼女たちは真面目で、心の澄んだ子たちです。大丈夫ですよ。私が保証します」


ヴェゼルはわずかに顎を引いて頷いたが、鋭い目だけは最後まで二人を離さなかった。


夜の帳が、ゆっくりと降りていく。


ヴェゼルがそっとポケットから手を離した瞬間、闇そのものが弾けるように小さな影が飛び出した。


「ぷはーっ! ヴェゼル! もう、お腹がペコペコなのよ!」


雪明かりの中に躍り出たサクラが、勢いのままヴェゼルの膝へと着地する。軽い体がぽすりと乗ると、彼女は胸を張って宣言した。


「私、熱々大盛り、野菜少なめ、肉マシマシマシでお願い!」


ため息交じりの諦観を見せながらも、ヴェゼルは収納箱からサクラ専用の食器を取り出し、注文どおりに盛り付けた。サクラはすぐに頬をふくらませながら、幸せそうにスープを口へ運ぶ。


その様子を見ていたエコニックは、驚きに手を止めつつも、ヴェゼル本人には恐れ多くて聞けなかったのだろう。代わりにエスパーダへ視線を向け、小声で尋ねる。


「エスパーダ様……あの方は……妖精様、なのですよね?」


エスパーダはなんとも言えない苦い表情を浮かべ、肩をすくめた。


「妖精……なんですかねぇ。ねぇ、サクラさん?」


呼ばれたサクラは、リスのようにふくらませた頬の中身を無理やり飲み込み、むせながらも胸を張る。


「なんでそこで疑問形なのよ! 私は闇の妖精サクラちゃん! ヴェゼルの婚約者で、妖精第一夫人よ!」


その堂々たる名乗りに、エコニックもフェートンも息を呑む。


ヴェゼルは頭を押さえ、どうしようもないといった苦笑いを浮かべた。


一方、フェートンの皿はいつの間にか空になっており、フリードが豪快に声を掛ける。


「フェートンさんと言ったか? おかわりはまだまだあるぞ。遠慮するな、ほら食え!」


その流れでエコニックにも視線を向け、温かな声音で言う。


「隣の姉ちゃんも食べろ。腹が膨れりゃ、人はそれだけで幸せになれるもんだ」


焚き火の光に照らされながら、ヴェゼルとサクラが楽しげに談笑している。その横では、シャノンがヴェゼルに羊乳をせがみ、ヴェゼルは文句を言いながらも収納箱から羊乳を出す。その優しい味に、シャノンは満足げに尻尾を揺らした。


ルドルフは腹がいっぱいになったらしく、今度はヴェゼルへ抱っこを要求し、ヴェゼルはスープを食べながらも渋々と抱き上げた。すると、今度はサクラまでもが膝の上を奪われまいと小さな抗議を始め、サクラとルドルフが互いに場所を主張し合う。


ヴェゼルは呆れたように眉を寄せるものの、どこか温かい空気が漂っていた。


その様子を見て、フリードとプレセアは優しく微笑む。ソニアはシャノンが飲み終えるのを待ち、そっと抱き上げてあやした。まるで家族の団欒のような光景に、焚き火の影が柔らかく揺れる。


エコニックはしばらく黙って見つめていたが、おずおずとエスパーダへ囁く。


「……ビック領の領主様と、その嫡男様の噂は、怖く恐ろしいものばかりでした。盗賊に容赦がなかったのは確かですが……これが……本当に日常、なのですか?」


エスパーダは焚き火に照らされた横顔で静かに笑い、ゆっくりと言葉を置いた。


「領民や仲間に対しては、とても良い方々ですよ。優しく、勇気があり、思いやる心がある。──ただし」


炎がぱちりと弾ける音の合間に、彼は続ける。


「領民や家族を傷つける者は……何であれ“許さない”でしょうね。たとえ、それが神であっても」


闇と焚き火の光が交錯する野営地に、夕日が徐々に地平線に吸い込まれていく。そこには静かな確信だけが落ちていった。






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