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第34話 りんご一個分の箱を作る  ついでに積み木ができたった。。

森の入口近くにある小屋に来ていた。


中からは、木の削れる音が絶えず響いていた。


ここはガゼールの自宅兼木工場だ。ガゼールは森の猟師であり従者のトレノの兄。


今日は留守だが、がっしりとした体格で褐色気味の肌。髪は短く刈り、口元には無精ひげがあり、狩人らしく鋭い目つきをしているが、笑うと人懐こさが出る。今はちょうど、森へ見回兼狩猟に出ていた。


妻の木工職人のパルサーは、長い髪を後ろでひとつに束ね、作業中は布を巻いている。背丈は中肉中背で、しなやかな腕に木屑の粉がついていることもしばしば。瞳は明るく快活な色。


二人とも狩猟と木材の扱いに長け、この辺りでは頼りにされていた。




その日、ヴェゼルは母オデッセイ、妹のアクティ、そして従者トレノを連れてパルサーのもとを訪れた。


「パルサーさん、作りたいものがあるんだ」


「おや、ヴェゼル坊。何を作るんだい?」


「十センチ四方の、できるだけ頑丈なりんご一個分の箱が作りたいんだ」


パルサーは眉を上げ、すぐにうなずいた。


「それくらいなら朝飯前さ。ちょっと待ってな・小一時間で作ってやるよ」


彼女は慣れた手つきで材を選び、鋸を走らせる。木槌の音とともに木の香りが漂うなか、アクティは工房の端に積まれた木片を拾って遊び始めた。


「アクティ、危ないから気をつけなさいね」


オデッセイが声を掛けるも、妹は夢中で木片を積み重ねている。


その様子を見たヴェゼルの頭に、ふと前世の記憶が蘇った。


――積み木。


単なる木のかけらだが、形を整えてやれば子どもが夢中で遊ぶおもちゃになるし、危険も少なく、情操教育にも最適だ。


「お母さん、パルサーさん。これ、子どもの知育玩具にできると思います」


「知育……玩具?」オデッセイが首をかしげる。


「はい。四角や三角、円柱の木を組み合わせて遊ばせるんです。子どもの頭を育て、形を覚えさせる。安全で長く使えるおもちゃになります」


パルサーの目が輝いた。


「なるほど……ただの木っ端も、形を揃えれば商品になるってことか・新しい玩具だね。」


オデッセイもすぐに察した。


「冬の農閑期、仕事がなくて困る人も多いわ。積み木づくりを各家庭にお願いすれば、収入にもなる。ビック家の印を焼き入れした物を最高級品として、贈り物にもできるかもしれない」


母の言葉に、ヴェゼルは小さく笑った。思いつきが本当に形になりそうだった。


パルサーはすぐに木材を削り出し、小さな四角柱や三角柱を整えていく。面を磨き、角を丸めて、子どもの手でも安全に扱えるように仕上げる。


「できたぞ。アクティちゃん、試してごらん」


差し出された積み木を受け取ったアクティは、大喜びで床に広げた。積み、崩し、また積む。その小さな両手が夢中で木を動かす姿に、大人たちは自然と笑みをこぼす。


「よし、これで決まりだな」


パルサーはうなずき、作業台に目を戻した。「基本の大きさは決めて、仕上げはきれいに。ビック家の焼き印は私が押そう。農閑期の仕事としてはうってつけだ」


「ありがとう、パルサー」オデッセイが深く礼をした。「まずはアクティ用にひとつ。そして、最高級品として我が家の焼き印入りを一揃い」


そうして作業の合間に、最初の目的である小箱も完成した。手のひらほどの木箱は丁寧に組まれ、蓋もきっちりと閉まる。小さいが、力強さを感じさせる出来映えだった。


「母さん、これで……試してみます」


ヴェゼルは箱を受け取り、胸の奥で熱いものがこみ上げるのを感じた。




翌日。


畑仕事の合間、ヴェゼルは木箱を手に取り、そっと意識を集中させた。箱をちらっと見てから、「種」の構成物質を一瞬思い浮かべる(多分、水分、種の皮、胚とか、脂質、たんぱく質や糖質あたりかな?)


――すると、すうっと、一瞬で何かが引き寄せられる感覚。


次の瞬間、庭に収穫されずに溢れていた種が10センチ四方の箱の中にたくさん吸い込まれるように収納されていた。


「やった……!」


彼は思わず声を上げた。これまでぎこちなくしか使えなかった収納魔法が、箱という「形」と物質の「構成」を得たことで、一気にスムーズに扱えるようになったのだ。


オデッセイに報告すると、母は目を細めてうなずいた。


「やはり形を持たせることで力が安定するのね……。よくやったわ、ヴェゼル」


「これからはこの小さな箱はいつでも持ち歩くことにします!」


母と子の小さな挑戦は、確かな成果を手にして新たな段階へと進もうとしていた。

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