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第320話 そして帰る04

ヴェゼルはようやくグールを殲滅できたと、ひと心地つく間も無く後方を見る。


森の奥に沈んだ闇から、遠くネクロウィンドルフがこいらを一瞥する。鋭い青の瞳が一瞬ヴェゼルを捉えた後、森の中へと姿を消した。まるで、次の襲撃のタイミングを計っているかのようだった。


四人もその場で雪に倒れ込む。雪の上で寝転がり、吹き抜ける冷たい空気が頬を刺す。しかし、幸いなことに怪我は軽く、雪を払いながらすぐに立ち上がる。


キャブスターは馬橇の横に腰を下ろし、セプターのたてがみを撫でながら息を整えて、ヴェゼルを見つめて言う。


「まったく……若いのに、度胸と知識が半端じゃないな。さすがバーグマン様が見込んだ子供だ。アビー様の婚約者として相応しいな」


プレセアはまだ驚きの余韻からか顔を紅潮させて、ヴェゼルを見つめる。


「あ……あんな魔法……はじめてみたわ? 土? 風? 火の魔法?」


ヴェゼルは肩で息をして、体の雪を落としながら、冷静に説明した。


「土や水の性質を利用して、瞬間的に爆発を起こしたんです。今回は攻撃で使いましたが、防御にも使えると思いますよ」


ソニアも息を切らしながら目を見開いた。「危険な魔法だ……だが、この威力で私たちは救われたんだな。ありがとう」


その時、プレセアが一歩前に出て、事情を説明し始める。


「今回は助けてくれてありがとう。私たちは旅人です。フォルツァ商業連合国から来ました。私は商人の娘でプレセアと言います。こちらのソニアは護衛として同行しているの。最近、フォルツァで話題のホーネット村を見に行きたくて、旅をしていたのよ。森に入ったら突然暗くなって、嫌な匂いと共にグールの群れに襲われたの」


ヴェゼルは穏やかに微笑み、深呼吸して言葉を丁寧に置いた。雪で凍える状況でも、彼だけは、ひどく落ち着いて見える。


「あいさつがまだでしたね。俺はビック領のフリード・フォン・ビックの嫡男、ヴェゼル・パロ・ビックです」


プレセアとソニアは一瞬目を丸くし、互いの顔を見合わせる。想像していたよりあまりにも幼く、それなのに不思議な威圧と冷静さを纏っている子供に興味が湧いた。


「あなたが……あの噂の……?」


ヴェゼルは肩をすくめ、ほんの少し皮肉っぽい笑みを作った。「どんな噂かは知りませんが、多分、そのヴェゼルで合ってますよ」


プレセアは慌てたように口元を押さえた。「っ……失言だったわ! ごめんなさい!」


ヴェゼルは首を軽く横に振った。「もう慣れっこですよ。大丈夫です」


雪を払うように息を整え、馬橇の積載を確認する。二人の身なりと疲労。それを見れば、他の選択肢は無いとすぐに分かる。


「キャブスターさん。この橇に、あと二人……乗れますか?」


キャブスターは一度だけ視線をセプターに、そして橇に向ける。馬も微かに息を鳴らすだけで、拒絶はなかった。


「少々窮屈ですが、大丈夫ですよ」ヴェゼルはプレセアとソニアの方へ向き直り、短く手を差し伸べる。


「乗りますか? このままホーネット村まで行きますよ」


二人の返事は、雪で冷えた空気よりずっとはっきり、迷いなく響いた。「もちろん! ありがとう……助かるわ!」



雪原に吹き渡る冷気の中、セプターは鼻を鳴らし、群れを払いのけた興奮をまだ覚えているかのように、息を荒げながらも穏やかに立っていた。小さな雪の粒が馬のたてがみに降り積もる。


森の暗い影が徐々に後方に遠ざかる中、四人と一頭の橇旅は再び静かに進み始めた。


森の奥にはまだ不気味な気配が残るが、今はこの瞬間、無事に生き延びた者たちの笑顔と安堵が、雪景色に溶けて光っていた。

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