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第253話 モノづくりフェイズ01

ヴェゼルは、教国との万が一の争いに備え、オデッセイと共にビック領の防衛強化に着手することを決めていた。


領を守るためにはまず堅固な防御体制が必要であり、それに加えて監視塔や連絡網といった情報系の整備も欠かせない。


特に防壁は時間と労力を要するため、どのように効率的に構築するかを思案していた。壁を高く厚くするだけでなく、移動経路や守備兵の配置も考慮しなくてはならない。


監視塔の位置、遠方からの連絡手段、補給経路、作業の段取り。小さな領ではあるが、戦略上の課題は山積していた。


ヴェゼルがオデッセイに話す。


「母さん、前世では、かなり離れた場所同士で情報をやり取りできる装置があったんだ。モールス信号っていうものなんだけど、それを作って、送ったり受け取ったりできないか考えたんだけど、聞いてくれる?」


ヴェゼルは少し興奮気味に問いかけた。オデッセイは机に肘をつき、穏やかに眉をひそめて答える。


「モールス…信号…って、具体的にはどういうものなの?」


ヴェゼルは紙に軽く図を描きながら説明を始めた。


「簡単に言うと、文字や文章を『短い符号と長い符号』で表して、それを相手に送るんだ。符号は光でも音でも電気…小さい稲妻のようなものでも、もしかしたら魔力のような力でも使えると思う。それを送信機が符号を出して、受信機がそれを受け取る。符号の組み合わせが文章の意味になるから、遠く離れた相手と、目の前にいなくても文字として会話できるんだ」


オデッセイは図面を手に取り、じっと見つめながら首をかしげる。


「なるほど…光や音の長さで意味を作るのね。面白そうだけれど、こういう研究はしていなかったわ。資料も研究装置もないし、今から始めるには時間が足りないわね。でも、概略を聞く限り、魔力を使えば代用はできそうね。昔なら、私も真っ先に挑戦していたかもしれないわね」


ヴェゼルは、少し肩をすくめて小さく笑った。


「そうですよね…残念だけど、でも母さんがそう言ってくれるだけでも希望があります」


ヴェゼルは、心の中で防御計画をさらに整理した。まずは道具作りから始めることにし、木工職人パルサーを招くことにした。パルサーとは久々の再会だった。


「久しぶりですね、パルサーさん」ヴェゼルが微笑みかけると、パルサーも静かに頭を下げた。


「ヴァリー様の…お悔やみ申し上げます」


そして、二人は静かに領館の脇にあるヴァリーの墓へ足を運ぶ。冬の冷たい風が頬を撫で、墓石の陰に残る花びらがひらりと舞う。パルサーは手を合わせ、短く祈りを捧げた。沈黙の中、胸の奥に去来する守るべきものへの覚悟が交錯する。


部屋に戻ると、ヴェゼルはスコップやツルハシの設計を説明し始めた。全てを鉄製にすると材料も時間もかかりすぎるため、先端を鉄で補強した木製品とする方針だ。机の上に描かれた図面を指差しながら、ヴェゼルは作業の流れや材料の量、製作手順を一つずつ説明する。


「なるほど、なるほど…これは面白い!」パルサーの目が輝いた。


「木工は弟子に任せていますから、私は研究に集中できますね。鉄の先端部分も、うちの知り合いの鍛冶屋と組めばすぐに量産できそうです」


さらにヴェゼルは荷運び用の一輪車の図面も広げた。ゴムはまだ存在しないため、代替案を相談する。鉄の軸の周りに木を筒型に加工し、その周囲に樹脂を巻き付けることで、多少の弾力性を持たタイヤにする計画だ。


パルサーはこれなら試作してみる価値があります」とうなずいた。上階の窓から差し込む光で、机上の図面に影が長く伸び、作業の輪郭を際立たせてる。


「それと、うぐいす笛も作ろうと思うんです」


ヴェゼルが図面を取り出すと、パルサーが首をかしげた。そして、竹を使えばすぐに作れると説明を添える。


「うぐいす……? そんな鳥、この辺りにいましたっけ?」


「あ、いないか。じゃあ……小鳥笛って名前にしておきましょうか」


「なるほど、小鳥笛! 竹を使うんですね」パルサーの目が輝く。


「ふふ、これは私も燃えますよ。本来は子供の玩具のようですが、見回りや従者用の緊急連絡手段にするとは! 実に面白い。すぐに作ってみましょう!」


ヴェゼルはほっと息をつき、頭の中で構想を整理した。強化防壁、監視塔、通信手段。道具を揃え、鍛冶屋や木工職人を動かすだけでも、準備は着実に進む。


だが心の奥には、戦いの現実と、守る者たちを思う重さが残っていた。窓の外、庭の樹々が風に揺れ、光が葉の隙間を縫って揺らぐ中、ヴェゼルは小さく拳を握った。これから、ビック領を守るための試行錯誤がはじまるのだ、と。



ヴェゼルはみんなと領を守り、村人を守る。防御と通信、そして魔力の応用。どこまでできるかはわからないけど、小さな領地での戦略は、こうして確実に動き出したのだった。


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