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第228話 ヴェゼル一行を阻むもの03

ゼトロス団長は馬上で苛立ちを露わに叫ぶ。


「第一部隊、第二部隊、あの馬車と荷物を調べろ! 妖精殿はその中にいるはずだ!」


その命令に、クルセイダーたちの鎧が擦れる音と金属の鳴動が森の空気を震わせる。砂利が小さく弾け、馬の蹄の衝撃が地面に伝わった。


馬車へ向かおうとした瞬間、ヴァリーがその前に立ちはだかる。髪が風に揺れ、魔力が肌にまとわりつくほどに膨れ上がっていた。


「私は元魔法省第五席ヴァリー! これ以上、近づくと……命はないと思いなさい!」


その声は烈火のように響き、騎士たちの足が一瞬止まった。だが、怯む者はいない。聖印を掲げ、なおも進もうとする。


エスパーダが前に出る。「待て!ゼトロス団長! 落ち着け! 話せば――」


その腕を鋭く掴む者がいた。キャリバーだった。低く、冷たい声で告げる。


「エスパーダ様……ここにいてはなりません。あなたは、この場に“いなかった”ことにしなければなりません」


「何を言っているんだ、キャリバー!」


「こんな下賎な連中と、あなたがいる理由などありません」


エスパーダの表情が一瞬凍る。包囲の一端に、信頼していた仲間までが関わっていたのか。だが覚悟はすでに決まっていた。キャリバーはクルセイダーに向かって冷たく命じる。


「エスパーダ様は混乱されています。後方へお連れしろ」


騎士たちが無言で従い、エスパーダを連れ去った。それはヴェゼルの視界には入らなかった。


ゼトロス団長の怒声が峠に響く。


「妖精殿をすぐに出せ! これが最後通告だ!」


数人の騎士がカムシンとカテラのもとに走り出す。だがその前にステリナが立ちはだかる。


「やめなさい! この子たちは関係ないではないですか!」


鋼の鎧を着たクルセイダーの蹴りがステリナの腰に直撃する。鈍い衝撃音とともに、彼女は砂利の上に転がり、体が二転三転弾む音が響いた。


「ステリナさん!」ヴァリーが叫び、駆け寄る。


クルセイダーの一人が、不気味に笑いながらカテラの腕を乱暴に掴んだ。鋼の手甲が少女の細い腕を締め上げる。刃を抜きざま、低く唸るように言い放つ。


「お前も――そこの子供みたいに、腕を切り落としてやろうか!」


 その言葉の終わりを待たず、風が弾けた。ヴァリーの魔力が一瞬で爆ぜ、空気が震える。白い閃光が奔り、騎士の右腕を肩口から切り裂いた。金属の破片と血が飛び散り、耳をつんざく悲鳴が森にこだまする。


 カテラが怯えてヴァリーにしがみつく。「こ、怖いよう……」


「大丈夫よ、もう大丈夫……」ヴァリーは震える肩を抱き寄せ、背を優しく撫でた。呼吸が少しだけ整いかけた――その瞬間。


 別のクルセイダーが地を蹴った。剣が振り上げられ、殺気が一直線に迫る。ヴァリーは反射的にカテラを抱き、身を伏せるように横へ転がった。


 刹那――金属が肉を裂く嫌な音が響く。偶然にも、振り下ろされた刃がヴァリーの右肩を貫いていた。


「っ……!」


 息が詰まり、熱い痛みが肩を焼く。鉄と血の匂いが風に乗り、頬を撫でた。


 ヴァリーは歯を食いしばり、左腕でカテラを抱き締めたまま右手を掲げる。


「……燃えろ!」


 瞬間、青白い線上の炎が閃光のように走り、男の胸を貫いた。騎士の鎧の隙間から光が漏れ、心臓を内側から焼き切る。男は喉を鳴らし、口から血を吐きながら膝をついた。


 ヴァリーは荒い息を吐き、肩から滴る血を押さえながら視線を落とす。腕の中のカテラが泣きじゃくっていた。


「大丈夫……もう、終わ――」その言葉を言い終えるより早く、正面に別の影が飛び出した。


 三人目のクルセイダー。刃が反射光を放ちながら、突き出される。ヴァリーは立ち上がりざまにカテラを脇へ押しやり、構え直す。


 だが――背後の空気が揺れた。足音はなかった。ただ、風の流れが不自然に変わった。次の瞬間、背後から突き刺すような冷たさが胴を貫いて貫通した。


「――え?」


 ヴァリーの体が小さく震えた。口から微かに血が零れ、胸元から温かい感触が溢れ出す。視界が滲み、空気が遠のく。カテラの泣き声が、どこか遠くで聞こえた。



「ヴ、ヴェゼル……さま……」


震える唇でその名を呼ぶと、ヴァリーの体はゆっくりと傾いだ。血の匂いが森に広がり、夕陽のような赤が砂利を染めていく。

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