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第213話 エスパーダ・アリアロス・トランザルプ03

エスパーダはその少年の後を静かに追った。


小さな足が、薄暗い貧民街の石畳を踏みしめる。やがて彼らは、一軒の荒れ果てた家の前に立ち止まった。壁はところどころ崩れ、かろうじて建っているような、見るからに貧しい家である。


扉が開き、中から現れたのは、酒瓶を抱え、目に澱みを宿す中年の男だった。焦げ茶の髪は伸ばし放題で、顔はやつれ、生活の疲労が滲んでいる。男は怒声を上げた。


「カムシン! 今日の稼ぎはどうした!」


エスパーダは小さく息を吐き、心の中で思った。


――ああ、やはり。


きっと、この子の腕に欠損があるのは、この父親が関わっているのだろう。貧民街では、物乞いで憐れみを乞うために、親が子を虐待するという話を耳にすることがある。稼ぎが増えるという理由で、子を傷つける親がいるのだ。


ある時聞いた男の声が頭に響く。「だが、足はやめておけ。運ぶのが大変になるからな」


その下卑た笑い声にも、もうエスパーダの胸は何も揺れなかった。ただ、淡々と事実を観察するのみだったのだ。



そして、目の前では、少年は迷わず、カムシンの家に入り、そして言った。


――「この兄妹を買います」


この世間を知らない少年の言葉に、苛立ちの感情が、エスパーダの胸にわずかに芽生えた。


しかしその少年は、躊躇せず兄妹を引き取り、見窄らしい家を出る。


その時、少年が何か小さく呟き、父親の唸り声が聞こえたが、もうどうでも良いことに思えた。


付き添っていた 女性にが → 女性が 歩けず意識も衰弱しているカテラをそっと抱く。ヴェゼルはもう一人の少年、カムシンの手を取り、どこかへ歩き出す。


エスパーダはその後ろ姿を追った。やがて、少年たちは大きな商会の裏通用口から入っていく。


自分もなんとなく後を追うと、中で自分の素性を問われた。エスパーダは静かに告げる。


「私は旅の神官、エスパーダと呼ばれています。


 ルミナントに例えるなら、浮浪者や孤児のように、誰からも見えぬ存在――透明な存在です」

部屋の空気がわずかにざわめく。皆が不思議そうに顔を見合わせる。


そこでエスパーダは、ルミナントがピクシーとなり、妖精になる過程を簡単に説明した。この程度の話なら、禁忌には触れないだろう。


だが、その時だった。少女の容態が急変する。


エスパーダは思わずその子を見る。光がほとんど残っていない――もう、余命幾許もないだろう。


しかし、胸の奥で、何かが動いた音がした。何のためかもわからず、手を伸ばす。


自然と聖魔法を行使し、少女に光を送り込んだ。


――そして、少女は奇跡的に命をつなぐことができた。


後に、エスパーダは隣の部屋へ案内された。そこで聞いたのは、予想もしない驚愕の事実だった。


「僕はヴェゼル・パロ・ビックです。ビック領フリード・フォン・ビック騎士爵の嫡男です」


自分が助けた少年が、ビック領の領主の嫡男だったのだ。


本来なら、エスパーダはこの少年を調査するために派遣される立場だった。


神を信じる気持ちは、もはや擦り切れていた。祈りを捧げる心も、尽き果てていた。


だが、その瞬間、何者かが自分に何かを背負わせようとしているのを感じた。


そして、ふと気づいた。自分が抱えていた何か――重く、澱んだもの――を、この少年が変えてしまうのだろうと。


――自分は、この少年に、知らず知らずのうちに何かを託していたのかもしれない、と静かに、しかし確かに理解した。


やべー、、、

話を新たに投稿すると、すぐに読んでいく人がいるんですね。。

非常にありがたいことでです。


が、時々、投稿する順番を間違うことがあってですね。。

先ほど一瞬、順番が逆になりました。。

申し訳ありません。その辺を察して読んでくださいませ。。

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