第203話 皇妃様からお茶会のお誘い04
庭園のテーブルに豪華な菓子が並べられる。
琥珀糖のような宝石菓子、果実のお菓子に紅茶。
エストレヤが優雅に紅茶を飲む横で、カジャールは口の端に白砂糖をつけて笑っている。
その光景を見て、ヴェゼルはつい頬を緩めた。
「今日も楽しかったようですわね」と皇妃が微笑む。
「ええ……(体はバキバキですけど)」
食後、カジャールがそっとヴェゼルの袖を引く。
「さっきの背中で止めるやつ、教えて」
「……ほんとにやるんですか?」
「もちろん! 次はあれでエストを驚かせたい!」
皇女が「わたくしは驚きませんわ」と涼しい顔で言うのを見て、ヴェゼルは笑いながら立ち上がった。
「よし、じゃあ、基礎から教ますね」
おやつ後、皇子と皇女と公子、兵士たちが並んでリフティング練習を始めた。
カジャールは何度も失敗しては笑い、エストレヤは真剣な眼差しで足さばきを学ぶ。
その姿を眺めながら、ヴェゼルは思う。
——まぁ、こういう時間も悪くないか。
おやつタイムになると、庭園に用意されたテーブルに、色とりどりの菓子や果物、紅茶が並ぶ。
皇子や皇女がキャッキャと楽しそうに取り分ける中、エプシロン皇妃がヴェゼルに微笑みかけた。
「ヴェゼル殿、あなたは色々な遊びをご存じなのね?」
ヴェゼルは少し考え込んでから答える。
「いえ、サッカーボールがより多くの人に遊んでもらえるように、母のオデッセイと色々考えただけです」
皇妃の目が少し光る。
「商人でも、商品を売ってしまえばそれで終わりなのに、その商品の遊び方まで考えて販売戦略まで練るなんて、本当に素晴らしいわね。オデッセイは……」
含みを持たせた言い回しに、ヴェゼルは内心でツッコミを入れる。
(いや、皇妃、誤解してる。僕を高く買いすぎだよ……)
もちろん、実際には未来知識をもとに遊び方を披露したのはヴェゼルで、完全な嘘ではない。けれど、皇妃の中では、ヴェゼルがすべて考案した天才少年に見えているらしい。
おやつを食べ終え、子供たちの目が再び輝き出す。
カジャールはまだボール遊びを続けたくてヴェゼルを引っ張るが、エストレヤは腕を組み、首を振った。
「もうボールは飽きたの。別の遊びがしたいわ!」
そこでヴェゼルは思案し、軽く微笑む。
「よし、じゃあ……『兵士と盗賊』と、『コボルドが転んだ(だるまさん)』をしましょう!」
子供たちは目を輝かせ、すぐにルールを理解して遊び始める。
『兵士と盗賊』では逃げ回る子供たちの笑い声が庭園中に響き渡り、『コボルドが転んだ』では微妙にバランスを崩して転ぶ子供たちを、皇妃様等は微笑ましく見守る。
兵士たちも参加しており、体を動かすことで、単なる遊びがまるで小さな競技会のようになった。
夕方が近づき、日差しが傾き始める。そろそろ帰る時間だ。ヴェゼルはみんなに挨拶をしながら、少し名残惜しさを感じる。
そのとき、エストレヤが真っ直ぐヴェゼルに駆け寄り、上目遣いで手を伸ばした。
「もっと、ヴェゼルと遊びたい!」
皇妃が微笑みながら宥めるが、エストレヤの目には決意の光が宿る。
「そうだ! 私、ヴェゼルと結婚する! そうすれば、ずっと遊べるでしょ!」
ヴェゼルは思わず苦笑い。
「いや、エスト……ちょっと待って。もう、この歳で僕には三人の婚約者がいるんだよ。これ以上は……」
それを聞き、エストレヤは泣きそうな顔になった。
目を潤ませ、唇を震わせている。皇妃がそっと彼女の肩に手を置き、慰める。
「まあ、少し落ち着きなさい。ヴェゼル殿とはそろそろお別れの時間よ」
ヴェゼルは深呼吸し、涙目のエストレヤに頭を撫でながら、微笑んだ。
「次に来るときは、また遊びましょうね」
去り際、エプシロン皇妃が小さな声で囁いた。
「ごめんなさいね、エストレヤが駄々をこねて。でも……私個人としては、ヴェゼル殿との婚約は、アリだと思うわよ?」
ヴェゼルは言葉を失い、ただ目を丸くするしかなかった。皇妃は満足げに笑みを浮かべ、庭園を後にする。
「では、また遊んであげてね?」と小声で付け加え、去っていった。
ヴェゼルは馬車に乗り、窓越しに小さく手を振る。
——いや、本当に、皇妃の采配には勝てそうにないな。
馬車はゆっくりと走り出す。庭園の賑やかな声が遠ざかる中、ヴェゼルは思う。
(でも……楽しかったな。子供たちの笑顔、最高だ)
振り返ると、夕日が皇城の塔を金色に染め、庭園に残る影が長く伸びていた。
——今日も、なんだかんだでお遊び&社交地獄は無事に乗り切ったようだった。




