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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第22話 魔法の深淵 錬金塔

夜。食卓の後、寝静まった屋敷に残るランプの灯りの下で、オデッセイは書物を開き、ヴェゼルを膝の前に座らせていた。


彼女の瞳は真剣でありながらも、母の温もりを宿している。


「ヴェゼル。もう夜だけど少しだけお話に付き合ってくるない? 今日は、あなたに私が知りうる“収納魔法”の核心に近い話するわね。これは帝国の魔法省の錬金塔でも隠され、教会でも表には出ない歴史よ」


ヴェゼルは背筋を伸ばした。今日の剣の基礎訓練の疲れがまだ残っているが、母の言葉にはどうしても耳を傾けずにはいられない。


「まずね……今でこそ教会が収納魔法を囲い込んで大切にしているけど、もともと収納魔法は“忌み嫌われた魔法”だったの。理由は単純よ――役に立たないと思われていたから」


オデッセイは、淡々と語る。


「戦乱の世では、火や水や風や土や聖……五属性の魔法こそが力と価値を決めた。領地を守れる者、兵を倒せる者だけが『貴族にふさわしい』とされたの。

けれど収納は? “ただ物を仕舞うだけ”。武器にもならない。だから“無能の証”と蔑まれた」


ヴェゼルは小さく眉をひそめる。昨日、自分が狼の足元の土を収納して転ばせたことを思い出す。使い方次第では十分戦えるのに、と。


「さらに悪いことにね……収納は『盗み』の嫌疑を受けやすかったの」


オデッセイの声は少し低くなる。


「物が消える。見えない。じゃあ誰が疑われる? 収納魔法持ちよ。無実でも『あいつが持ってるに違いない』と断罪された。……農作物や武具やお金を隠せる力は、戦乱の世では兵糧攻めや密輸に直結する。領主や商会からすれば、倉庫を荒らす厄介者でしかなかった」


ヴェゼルは唇を結ぶ。人々が恐れたのは力そのものではなく、物流や生活基盤を乱されること。彼の前世の記憶と、この世界の理不尽さが重なって胸を締めつける。


「それだけじゃない」


オデッセイは小さくため息を吐いた。

「収納は“異界”を使う力。火や水みたいに自然の延長じゃない。だから魔法学者や神学者たちは理解できなかった。『自然に属さぬもの=異端=神に背くもの』。そう決めつけて、魔法学的にも宗教的にも嫌われたのよ」


ヴェゼルは息を呑む。社会からも宗教からも疎まれる。まるで二重の牢獄だ。


「……でもね」


オデッセイの瞳が少し和らいだ。


「初代教皇様だけは違った。彼女は転生者だったと言われているわ。転生者とは異世界から神に使わされ、この世に渡って降り立った人といわれているわ。その教皇様はとても美しく、見た人全てを魅了したと。そして、この世界の“戦争基準の価値観”を愚かだと見抜いたの。『戦えるかどうかでしか測れぬのは短絡だ』。そう言って収納魔法を庇護したと言われているわ」


オデッセイは目を閉じ、掌を胸にあてる。


「彼女は言ったわ。これは大っぴらには伝わっていないけど『収納は虐げられるべきものではない。やがて転移に至る可能性もある。だからこそ必ず守れ』。


……こうして教会は収納魔法者を囲い込む制度を作ったの。でもね、数代経つと教会は……庇護を建前に“利用”を始めたのよ。物流を独占して、力を強めるために」


ヴェゼルは母を見上げた。オデッセイの声に、淡い怒りがにじんでいる。


「だから、私は疑ったの。教会がなぜ頑なに収納魔法使いを囲い込むのか、鑑定がなぜ教会所属にしか使えないのか。収納魔法使いがなぜ教会に徹底して集められるのか。……そして研究を進めて、あることに気づいた」


彼女はヴェゼルの手を取る。


「収納はただの“箱”じゃない。……あれは、物を小さく“転移”させる魔法なのよ」


ヴェゼルの心臓が強く打つ。


そして――次に語られるのは、「収納が鑑定に至る理由」だった。




オデッセイはヴェゼルの手を握ったまま、言葉を続けた。


その声音は母であると同時に、帝国の魔法省の錬金塔で研究を重ねた学者の響きでもあった。


「ヴェゼル。収納魔法の本質は、空間そのものを操作する力にある。物を仕舞うっていうのはね、実際には “現実世界から異次元の収納空間へ、小さく転移させている” の。小さい転移だけど、立派に空間を超える行為なのよ」


ヴェゼルは目を見開く。頭の中で、昨日狼の足元の土を収納した瞬間が鮮明に蘇る。


確かに、土はただ消えたのではなく「別の場所に送られた」感覚があった。


「収納を成立させるにはね、いくつか条件があるの」


オデッセイは指を折りながら数える。


「一つ、対象の 大きさ・形・重さ・材質 を正確に把握すること」


「二つ、対象の 魔力反応 を読み取ること」


「三つ、収納空間との間で 座標を正しく設定 すること」


「もしこれを誤れば……?」とヴェゼルが小さく問い返す。


「はみ出す、壊れる、暴走する」


オデッセイは即答した。


「たとえば、大きさを誤れば収納しきれずに対象が裂ける。魔力を安定させられなければ、中で暴れて爆発する。座標が狂えば……空間が歪んで、収納者ごと飲み込まれることすらある」


ヴェゼルはごくりと唾を飲み込んだ。収納魔法が“便利な倉庫”で済まされない理由を悟る。


「だからね、収納を使える人はみんな、無意識に対象を細部まで観察し、魔力を見抜き、位置を演算してる。そして、……これこそが、鑑定に繋がるの」


「鑑定……」ヴェゼルが呟く。


「収納は、“仕舞う”ために、物や人の情報をすべて読み取らなくちゃいけない。つまりそれ自体が、鑑別の行為なのよ。熟練すれば――収納しなくても対象の魔力情報を読み解けるようになる。これが“鑑定”」


オデッセイの瞳が鋭さを増した。


「だから収納者だけが鑑定を使える。……教会はそれを知っている。けれど公表すれば“収納こそが世界を読み解く鍵”だと広まってしまう。だから、収納者を囲い込み、鑑定を“聖なる秘儀”に仕立てたのよ」


ヴェゼルは深く息を吐いた。


社会から忌み嫌われた力が、実は世界の根幹に触れる力だったなんて――。


オデッセイは少し笑みを浮かべ、ヴェゼルの肩に手を置いた。


「ヴェゼル。あなたが持つのは、“ただの箱”じゃない。空間を操り、世界を読み解く力よ。これを正しく磨けば、どんな権力者でも無視できなくなる。


だからこそ、私が直接教える。収納を使うたびに、必ず対象の魔力の流れ、大きさ、位置を意識して。そうすれば、鑑定は自然と芽吹くはずよ」


ヴェゼルは小さく頷いた。


5歳の身体の奥で、親父の理性が静かに燃える。


「収納は、転移の始まり……そして鑑定の基礎」


彼はその言葉を胸に刻んだ。


ランプの炎が静かに揺れ、母と子の影を壁に映す。


その影は、小さな子供と若い母の姿でありながら、やがて世界の理を暴き出す者たちの輪郭を宿していた。



ふと、思い出したかのように、オデッセイが言う。


「ヴェゼル。あのグレイウルフと戦ったときのこと、覚えてる?」


ヴェゼルは一瞬きょとんとし、それから頷いた。


「うん。……足元の土を、収納したんだ」


「そう、それよ」オデッセイの声に熱がこもる。


「普通、収納は対象に触れないと発動できない。どんなに熟練した収納魔法使いでもね。手で触れ、対象を感じ取らなきゃならないのが“絶対条件”のはずなの」


ヴェゼルは小首をかしげる。


「でも……あの時は、触ってなかったよ。ただ、見て“ここを消したい”って思っただけ」


オデッセイは深く息をつき、真剣な眼差しでヴェゼルを見つめる。


「そうなのよ。あなたの収納は、触れずに目視だけで発動できる。これは従来の収納魔法と決定的に違う」


彼女は机の上の果実を指さした。


「想像してごらんなさい。もし私がこのリンゴを収納するなら、必ずこうして手に取らないといけない。でも、あなたは視線だけで、それも数メートル離れた地面を収納した。これは、“空間そのものを切り取って転移させる力”に近いわ」


ヴェゼルは思わず息を呑んだ。


「それって……」

「そう。もし成長したとすれば、ただの収納じゃなく、遠隔操作や転移に至る可能性がある」


オデッセイの言葉は、母としての柔らかさと、研究者としての鋭さを併せ持っていた。


「ヴェゼル。普通の収納魔法は倉庫止まり。でも、あなたのは違う。“空間を操る力”に繋がっている可能性がある。あの一瞬で私は確信したの。あなたの力は……稀有で、そしてとても危うい」


彼女は小さく息を整え、息子の頬に手を当てる。


「だから、どうか覚えていて。これは大きな可能性であると同時に、きっと教会や帝国が放っておかない力。力に振り回されるんじゃなく、あなたが力を導くのよ」


ヴェゼルは小さく頷いた。


5歳の体でありながら、親父の心は理解していた。――自分の魔法は、ただの収納ではない。もっと深い意味を持つのだと。


オデッセイはヴェゼルをじっと見つめたまま、声を低くした。


「でもね、ヴェゼル。今言ったことは、絶対に誰にも話してはいけないわ」


ヴェゼルは驚いた顔をする。


「どうして? もし僕の魔法がすごいなら、みんなに知ってもらった方が……」


「違うの」オデッセイは首を振り、言葉を遮った。


「あなたの力が“特別”だと広まった瞬間、必ず教会も帝国も動く。彼らは『守るため』なんてきれいごとを言うけど……本当は『管理するため』よ」


彼女の声にはかすかな怒りが混ざっていた。


「収納魔法は昔から教会に囲い込まれてきた。理由は“迫害を避けるため”だなんて建前。でも実際は、物流と資金と権力を握るため。さらに、収納は転移に進化するかもしれない――そう噂されているから」


ヴェゼルの胸の奥がざわつく。


「……じゃあ、僕が“触れずに収納できる”って知られたら……」


「そう。間違いなく、あなたは“転移の芽”と見なされる。そうなれば、もう自由には生きられない」


オデッセイは膝を折り、ヴェゼルと視線を同じ高さに合わせる。


「だからお願い。お父さんにも、アビーにも、このことは話してはだめ。私と、あなただけの秘密よ」


ヴェゼルは5歳の体でぎゅっと拳を握った。


親父の理性が「情報は武器だ、独占すべきだ」と囁く一方で、心は妙に安心していた。――母と秘密を共有することが、どこか心地よかったからだ。


「わかった。……誰にも言わない。僕と母さんだけの秘密」


その答えに、オデッセイは小さく微笑み、ヴェゼルを抱きしめた。


「いい子ね。……あなたは必ず、この力を正しく導ける。私がそう信じているわ」


抱き寄せられた胸の温もりに、ヴェゼルは瞼を閉じた。


――たとえ世界が敵になっても、この人だけは味方でいてくれる。そんな確信が胸の奥に灯る。


オデッセイは最後に耳元で囁いた。


「覚えておきなさい、ヴェゼル。収納はただの倉庫じゃない。あなたの力は“世界を超える鍵”になるかもしれないのよ」


ヴェゼルはその言葉を、心に刻んだ。




そしてその気づきを、最初に母が見抜いてくれたことが、何より心強かった。


ちょっとだけ、収納魔法(本当はスキル)の深淵に?近づきました。読者様の反応が知りたいです。このまま書き続けようかなあ?

とは、言ってもまだ読者様が少なすぎるんでしょうけど。

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