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第202話 皇妃様からお茶会のお誘い03

そして、ラノベでよくある「アレ」である。


 そう、前は一度でいいから、言ってみたかったセリフだ——「なぜ、こうなった……」


 実際にその立場になってみると、笑えない。まったくもって、笑えない。


 今週だけで、もう何回皇妃に呼ばれたんだろう。最初の一回目は、献上だから仕方ない。


 二回目は「お茶会でもどう?」——皇妃様のお茶会、断れる人がいるなら教えてほしい。まぁ、実際はほぼ子供たちと遊んだだけだったが。


 三回目は「皇子たちが続きを楽しみにしていて」と言われ、(←今ココ)


 そして、この台詞。


 「なぜ、こうなった……」


 心の中で呟いたつもりが、どうやら口に出ていたらしい。


 「ヴェゼル様、今、何かおっしゃいましたか?」と、横で寛いでいたヴァリーが首を傾げた。


 「ああ……いや、心の声が漏れてたみたいです」


 今ならあのポーズができるな、と思って、床にしゃがみこんでみた。


 「orz」。


 現代でよく見たポーズを実際にやってみると、ヴァリーさんもサクラもぽかんとした顔をしていた。


 「それは……何の儀式ですか?」


 「儀式じゃない。絶望のポーズだよ」


 そう答えると、サクラがケタケタ笑い出した。


 笑ってくれるのはありがたいが、もう少し同情してほしい。


 そして今日も、お呼ばれである。きっと皇子たちと屋外遊びだろう。


 よりにもよって、雲ひとつない快晴の日に。


 昼過ぎ、外の通りが騒がしくなった。


 案の定、豪奢な馬車が商会の前に停まる。


 いま滞在しているのはバネット商会の三階。商会長であり祖父でもあるベンテイガさんは、今日もご機嫌だ。


 「ほっほっほ、皇族の馬車がうちの前に停まるとは! 商会の名誉だぞ!」


 「一昨日もその前も停まってましたけど」


 と冷静に突っ込むのはルークスおじさん。けれど、その口元もにやけている。


 彼らにとっては、皇族の馬車が店の前に止まるだけで、最高の名誉であり、宣伝効果にもなるらしい。


 「いっそ、ずっと停めておいてほしい!」と、ルークスが昨日叫んでいたのを思い出す。


 とはいえ、乗り込むのはヴェゼル一人。ヴァリーは今日は同行しない。


 「今日は皇妃様たちにまた“恋バナ”を聞かれる……わたしが余計なことを言うと、ヴェゼル様に迷惑がかかりますから」


 そう言って、賢く逃げられた。実際、皇妃と公爵夫人の会話にうっかり相槌を打ち間違えたら、翌日には宮廷中に噂が広まることもある。


ヴァリーの判断は確かに正しい。


しかし、普段あれだけ熱く接してくれたヴァリーが、あっけなくあのように言われると、捨てられたようでちょっと寂しいヴェゼルであった。




 馬車に揺られて皇都を抜ける。窓の外には、整然と並ぶ並木道と、遠くに見える白い皇城の塔。頭の中には、ここ数日のヴェゼルのテーマソングである「ドナドナ」が流れる。


 どうせ今日も、お遊びという名の地獄の社交タイムだと思うと、空の青さがやけに腹立たしい。


 やがて皇宮の庭園に到着すると、出迎えの兵士たちが一斉に整列している。


 その奥に、見慣れた顔ぶれがあった。


 エプシロン皇妃。華やかな金糸の衣装を纏い、優雅に扇を掲げている。


 隣には、公爵夫人アトラージュ。柔らかなピンクのドレスに、相変わらず完璧な笑顔。


 その足元で、シェルパ、エストレヤ、カジャールが手を振っていた。


 「ゼル! 今日はサッカーボールをしよう!」


 カジャールが大声を上げ、庭へ駆け出していく。


 「今日は兵士たちも参加してくれるんだ!」


 元気がいいのは嬉しいが、こっちは振り回されっぱなしだ。


 庭園は見事に整備され、花壇の向こうには噴水。その真ん中の芝生が、今日の戦場——いや、試合会場だ。


 すでに兵士数名が左右に分かれてボールを用意している。


 「本日は、この遊戯をお手本にし、体術訓練の一環と致します!」と真顔で宣言する隊長。


 あの……遊びなんですけど。


 それでも試合は始まった。


 兵士たちが本気を出すと、シュート一発で芝がえぐれるほど。だから相手は僕たちなので、手加減してくれる。


 「あの! 手加減してくださいね?!」


 ヴェゼルが叫ぶと、シェルパが笑いながら「これが帝国流だ!」と応える。


 少年皇子、将来が頼もしすぎる。


 エストレヤはと言えば、今日は乗馬服スタイルで颯爽と登場。風に揺れる金髪が太陽を反射して眩しい。


 ボールを受け取ると、俊敏にドリブルを始め、そのまま巧みにフェイントを入れて見事にゴールを決めた。


 「きゃー! 姫様すごいです!」と、脇で見ていた侍女たちの黄色い声が響く。


 ヴェゼルも負けじとリフティングを披露。現世で培った技を見せ、最後は背中でボールを止めてみせた。


 「おおっ!」


 周囲からどよめきが起こり、カジャールは目を輝かせて近寄ってくる。


 「ゼル!それどうやったの!? 教えて!」


 「あとでね。今は試合中だから」


 「約束だぞ!」


 そのまま白熱した試合が続く。


 兵士が転び、エストレヤが助け起こし、カジャールは笑い転げる。


 皇妃たちは日傘の下で優雅に観戦しながら、扇の陰でひそひそ話をしている。


 「ヴェゼル殿の動き、実に見事ですわね」


 「ええ、あの柔軟さ……もしや舞踏の心得も?」


 ——やめてください、社交の話に発展しそうで怖いです。


 そして、そろそろおやつの時間。


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