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第195話 いよいよ皇妃との拝謁04

 皇妃は静かにヴェゼルを見つめ、少し息をつき、口を開いた。


「……仕方がないわね。その貸しは受け入れましょう。それと、褒美として金貨を渡すことにするわ」


 ヴェゼルは軽く頷き、内心で考えた。どこの世界でも、貢献に対する報酬や恩恵は必要だ、と。


日本で言えば御恩と奉公の関係に近い、と自然に思いを巡らせる。


 皇妃が金貨の話をした後、場の雰囲気は和やかになり、自然と雑談に移った。


「あなたが発案した知育玩具やサッカーボール……子供たちは本当に喜んでいるのよ」


 ヴェゼルは微笑み、頭を下げて応える。


「ありがとうございます。子供たちの喜ぶ顔が一番の報酬です」


 皇妃はさらに目を細め、にこやかに続けた。


「白磁やそろばん、ホーネットシロップやホーネット酒も、非常に売れ行きが良い。他にも、()()()の発案したウマイモや肉の燻製は、貧民や庶民の命をいくつも救ったと聞いています。帝国を代表して感謝するわ」


 ヴェゼルは恐縮し、控えめに頭を下げた。


「恐縮です。皇妃様のお言葉、身に余る光栄です」


 皇妃は柔らかな表情になり、ふと思い出すように口を開いた。


「オデッセイは元気かしら?」


 ヴェゼルは微笑み、答える。


「はい、元気で毎日領政に精を出しており、フリードをこきつかっております」


 兵士たちは顔をしかめるが、皇妃はくすりと笑った。オデッセイらしいと感じたのだろう。


 話題は自然に戦争の話に移る。皇妃は低く問いかける。


「噂では、あなたが作戦を立案し、奇襲部隊を率いて本陣に乗り込んだ……そして、総大将を捕縛したと聞いたわ」


 ヴェゼルは微笑み、慎重に口を開く。


「それは誇張されています。確かに奇襲部隊には私も参加しましたが、全ては部下のおかげです」


 皇妃は軽く頷き、一瞬だけ執事に目を向ける。執事はさりげなく頷いた。


 さらに、皇妃は低い声で問いかけた。


「ビック領には妖精の加護があると聞くわ。本当かしら?」


 ヴェゼルは肩をすくめ、答える。


「子供たちは私の周囲に妖精が飛んでいると申しております。私自身も一度、見てみたいと思っています」


 皇妃は目を細め、続けた。


「その妖精さん、あなたの婚約者だといつも言っているそうね?」


 ヴェゼルは一瞬苦い表情を浮かべたが、落ち着いた声で答えた。


「私の婚約者は、ヴェクスター男爵の娘アヴェニスアビーと、元魔法省のヴァリエッタ嬢ヴァリーで十分です」


 皇妃は静かに聞き、執事に一瞬視線を向ける。執事も頷く。


 皇妃は小さく息をつき、声を落とした。


「それと、あまり世には出ていないけれど……伝承として伝わっているわ。この世界が作られたとき、神様のような存在の傍らには、いつも闇の精霊がいたそうよ」


 ヴェゼルは少し身を乗り出して耳を傾けた。


 皇妃は肩をすくめ、微笑みながら続けた。


「そういえば、あなたは収納魔法を授かったのよね? その魔法は、闇の精霊と非常に親和性が高いとされている。そして……神様を怒らせてしまって、闇の妖精になったという言い伝えもあるのよ。……あら、話しすぎちゃったかしら」


 ヴェゼルは軽く頭を下げ、控えめに応えた。


「貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございます」


 背後の執事が視線を巡らせ、皇妃の小さな動作に目を光らせる。皇妃は小さく笑い、話題を自然に変えると、部屋には穏やかな空気が戻った。


 そして皇妃は、真剣な口調で言った。


「ヴェゼル、オデッセイにも手紙で書いた通り、あなたの才で災いがあった場合、私はあなたを庇護することを約束するわ」


 ヴェゼルは驚き、目を見開き、深く頭を下げた。


「ありがとうございます。皇妃様のお言葉、身に余る光栄です」


 皇妃は視線を柔らかくし、軽く微笑む。


「そういえば、あなたの二歳上に皇子、そしてあなたと同じ年齢の皇女が学園で共に学ぶことになるわ。その時はよろしくね」


 ヴェゼルは一瞬苦い表情を見せたが、すぐに落ち着き、礼儀正しく答えた。


「畏まりました」


 皇妃は満足そうに微笑み、深く頷く。


 こうして、拝謁の場は和やかさと厳粛さを併せ持つ空気の中で、無事に終わった。ヴェゼルは深呼吸し、皇妃に深く礼をし、部屋を後にした。


 控え室に戻ると、ルークスが安堵の表情を浮かべ、ヴェゼルも心の中で緊張を解いた。


献上品も無事に渡り、皇妃の賞賛も得られた。この日の拝謁は、商会の名声だけでなく、ビック領の未来にも大きな影響をもたらすものだと、二人は改めて実感していた。


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